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425『回廊の流れ星』

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せやさかい

425『回廊の流れ星』さくら   





 夕食のダイニングに向かう回廊で、星が流れるのを見た。


 回廊は廊下式のベランダという感じで、空も庭も広く見渡せる。

 この回廊から流れ星に願いをかけると願いが叶うという言い伝えがある。

 七夕の伝説は宮殿の人たちに感動を与えたけど、この回廊の伝説もなかなかロマンチックだ。

 でも、何度かチャレンジしたけど、願いは叶うどころか間に合ったこともない。



「あれはね……」



 夕食の席で陛下が謎解きをしてくださる。

「ひいお婆さまの発明なのよ」

「え、発明?」

 ウフフ……リッチが笑う。

「人知れず涙を流したいときとか、人とお喋りをしたいときとかに、あそこに佇んでいても見咎められないための言い訳」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、王女が深刻な顔をしていたり、人と話していたら、みんな気にするでしょ『殿下、どうなさいました?』とか『なにかございましたか?』とか『なにかお困りですか?』とか。中には国王や女王に御注進する者もいるしね。それで、ひいお婆さまは『星に願いをかけていましたの』とお返事する。子煩悩なひいひいお祖父様に聞かれると『世界の平和と発展を祈っていたわ(^▽^)』と模範解答」

「なるほど」

「ひいひいお祖父様は『それは、誰が教えてくれたのかなあ』と聞いたわ。分かっていたのね、王女の言い訳だって。ひいお祖母さまは『マリア様が夢に現れて教えてくださった』と応えておしまい」

「あはは、マリア様を疑うわけにはいきませんものねぇ(´艸`)」

「で、コットンは何をお願いするつもりだったの?」

 リッチが顔を寄せてくる。

「世界平和ぁ?」

 陛下も食事の手を停められる。

「あ、えと……留美ちゃんの成功を」

「あ、ああ、パステルカラーの君ね」

「あ、はい」

 この王宮でも留美ちゃんのことは『パステルカラーの君』で通るようになってきている。

「イザベラ、このタブレットをモニターに繋いで」

「はい、陛下」

 ササッとイザベラさんが操作すると、五秒で、留美ちゃんのポスターやら、オフィシャルやらオフィシャルではない写真や動画が映った。

「控え目だけど、ルミには素晴らしい魅力があるわ。ちょっと儚げだけど、微笑んだとこなんて……なんて言ったかしら……」

「これでございますね」

 イザベラさんが阿吽の呼吸で画面を切り替える。

「あ、阿修羅像」

 画面には、興福寺の国宝『阿修羅像』のいろんな画像が映し出される。

「ああ、この感じだ!」

 リッチも指をさす。

 それは、阿修羅が合掌している正面の顔。

 なにか思い詰めたように眉根を寄せ、微妙に目線を上に向けた、何ていうんだろう、儚き者の懸命な祈り。

「これが、ルミの本質なのよね。こちらに来た時も、将来は美人になるとは思っていたけど、こういうスゴミのある子だとは思わなかった。ほんとに、ヨリコの周囲は国宝級の人が多いわよねえ」

「そりゃあ、わたしは世界文化遺産級の王女ですからねえ、感謝してください、お祖母さま<(`^´)>」

「ええ、そうよ、ヨリコの肩にはヤマセンブルグの、いえ、ひょっとしたら、ほんとうに世界……ひょっとしてひょっとしたら銀河宇宙の平和の鍵を握るオルデラン王室の姫のような未来が待っているかもしれないわ」

「そんな斜め上の発想はしないでちょうだい」

 

 日が改まって、八月の一日。



 まとわりついていたバンとナンシーが慌てて姿を消したと思ったら、回廊の向こうからソフィーがやってくる。

「おはよう、ソフィー」

「おはよう、コットン」

「あら、昇進したの?」

 襟の階級章が替わっている。

「あ、ああ、本日付けで中尉になった」

 ちょっと照れたように敬礼するソフィー。

 照れると、やはり同世代、眉根を寄せて二割がた可愛くなるんだけど、さすがに陸軍中尉。

 阿修羅ではなくて、ブリュンヒルデの感じ。

「ん、なにか?」

「ううん、なんでも」

 
 こっそり思った。

 昨日、見逃した星はソフィーの襟元に停まったのかもしれない。



☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  
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