278 / 432
278『お、やった!的ノリでお散歩』
しおりを挟む
せやさかい
278『お、やった!的ノリでお散歩』
ひょんなとこからお年玉の袋が出てきて、開けてみたらお金が入ってたって、嬉しいないですか?
一万円、きっと気絶する。しかし、これはありえへん。
千円やったら、お、やった!
で、その日は一日、ちょっとだけ嬉しい。
いえいえ、けして、お年玉のポチ袋を見つけたわけやないんです。
2月19日のお天気が、そんな感じの「あ、やった!」という天気なんです。
ネットの天気予報では、午前中は薄曇りで、昼からは雨になってた。
「これは一日家でゴロゴロかなあ……」
と、ブタネコのダミアをゴロゴロ言わせながら、ゴロゴロしてた。
「そんなことしてたらダミアみたいになるわよ」
留美ちゃんに、そない言われてお腹の肉を摘まんでみる。
「う~~ん」
なかなか自己評価がしにくい(^_^;)
「このごろ体重計に乗ってないでしょ?」
「え、そんなこと……」
「体重計、このごろ濡れてないよ」
「え、ああ……」
ここのところ、お風呂の順番は留美ちゃんの前なんで、見破られております。
「正直ね、さくらは。入る前に計ってますって言えばいいのに」
「あ、せやったか!」
「ね、天気予報も外れて、けっこういい天気だから出かけようよ」
「え、もうお昼ちゃうん?」
「まだ二時間もある。お弁当こさえて、どこか公園にでも」
「よし!」
というわけで、お握り二個ずつこさえて、お出かけとなった。
ほんま、ええ天気!
この解放感は、高校にも合格して、宿題もなんにもない完全無欠の春休みやさかい。
公立受ける子は、必死のパッチ。
ほんま、聖真理愛学院一本勝負の専願で良かった!
「これは、きっと神さまからの御褒美やろねえ」
「そんなこと言っていいの? うちお寺だよ」
「アハハハ、せやせや(^_^;)」
内心、いまの留美ちゃんの言葉は嬉しい。
留美ちゃんは「うちお寺だよ」って言うた。
留美ちゃんは、事情があって、うちの家で暮らして、そろそろ一年。
最初はいろいろ戸惑いがあったり馴染めんかったりやったけど、いま「うちお寺だよ」と、すごく自然に言うた。
嬉しい。せやけど、指摘したら、ぜったい照れてしまうから、おくびにも出しません。
「どこか公園とか思ったけど、なんか、ぜんぜん公園ないねえ」
「あ、ほんまやねえ」
あたしも、中学に入ってからの堺市民なんで、中学と自宅の周辺以外の堺はあんまり知らん。
元々住んでた大阪市は、校区に三つや四つ、大小の公園があった。
「このままだと、道端でお弁当になる」
「それは、ちょっとハズイかも……」
「ちょっと調べるね……」
慣れた手つきでスマホを操作する留美ちゃん。うちの倍くらい検索するのが早い。
「ああ……無いよ……大仙公園まで行かないと……ほんとにないよ」
「ほんまにぃ?」
顔を寄せて、スクロールされる画面を見るんやけど、ほんまに、家から1キロ以内のとこに一つも公園が無い。
気の早いうちは、もう帰ろかいう気になる。
「ねえ、阪神高速の西側に行ってみようか?」
「高速の向こう側?」
子どもの生活圏は、第一が校区。第二が大通り。
大通りいうのは、車がビュンビュン走ってて、むろん横断歩道はあるんやけど、普段はめったに超えることが無い。
というか、阪神高速の向こうは、マジで行ったことが無い。
「行ってみよっか?」
「うん!」
というわけで、天気予報が外れてもうけもんの晴れなんで、少女二人の冒険になった。
「あ、お寺がある!」
お寺に住んでるくせに……と、思いながらチラ見すると、スマホの地図には、うちの如来寺なんかハナクソかいうくらいのデッカイお寺の敷地が出てる。
「ああ……やっぱり、沢庵の南宗寺だ!」
画面をスクロールして、感動爆発の留美ちゃん。
「え、タクアンのお寺?」
「うん!」
うちは、丼物に添えてある黄色いタクアンとお寺が結びつかへんので、頭が?マーク。
「沢庵て、お坊さんが発明したんでタクアンって言うのよ。関東の人だと思ってたから、驚きだよ!」
さすがは留美ちゃん。
「それにね、南宗寺には家康のお墓があるのよ!」
「ええ!?」
家康はうちでも知ってる。
というか、にっくき狸オヤジ! わが愛する木村重成さんをぶち殺してくれたにっくきカタキやおまへんか!?
去年、頼子さんらといっしょに木村重成さんのお墓を見に行って、幻やねんけども重成さんに会った。
重成さんは、兜に香を焚きしめて、首をとられても汗臭くならないように気を配って「あっぱれ、木村重成!」と家康を感動させた。
しかし、感動してもうちは許さへん。
その、にっくき家康のお墓……え?
「家康のお墓って、日光やったんちゃうん?」
「実はね、大坂夏の陣で後藤又兵衛って侍大将に乗ってた籠ごと槍に突き刺されて、たどり着いた堺の街では死んでたって説があるの。それ以降の家康は、影武者だったって」
「え、ほんま!?」
「うん、江戸時代に、幕府のお金で、お墓の改修工事もやってるんだよ。それを元にした歴史小説もあるしね」
うう、さすがはガチの文芸部(^_^;)。
「でも、この南宗寺だったとは知らなかったよ……」
そうして五分後、大学一個が丸々収まりそうな南宗寺の門前に立つ。
「ああ……拝観料いるんだ」
ほんのご近所散歩のつもりだったから、お財布とかは持って出てない。
「ちょっと、お金下ろしてくる!」
文学的好奇心に火のついた留美ちゃんは、どこまでもアグレッシブ。
スマホで、ATMのあるコンビニを検索する。
ポツリ
あ?
スマホの画面に水滴が落ちる。
二人そろって見上げた空は、いつのまにか鈍色になって、今にも本格的に降って来そう。
さすがの留美ちゃんも「傘を買いに行こう!」とは言いださず、まっすぐ1キロの道を走って帰りました。
278『お、やった!的ノリでお散歩』
ひょんなとこからお年玉の袋が出てきて、開けてみたらお金が入ってたって、嬉しいないですか?
一万円、きっと気絶する。しかし、これはありえへん。
千円やったら、お、やった!
で、その日は一日、ちょっとだけ嬉しい。
いえいえ、けして、お年玉のポチ袋を見つけたわけやないんです。
2月19日のお天気が、そんな感じの「あ、やった!」という天気なんです。
ネットの天気予報では、午前中は薄曇りで、昼からは雨になってた。
「これは一日家でゴロゴロかなあ……」
と、ブタネコのダミアをゴロゴロ言わせながら、ゴロゴロしてた。
「そんなことしてたらダミアみたいになるわよ」
留美ちゃんに、そない言われてお腹の肉を摘まんでみる。
「う~~ん」
なかなか自己評価がしにくい(^_^;)
「このごろ体重計に乗ってないでしょ?」
「え、そんなこと……」
「体重計、このごろ濡れてないよ」
「え、ああ……」
ここのところ、お風呂の順番は留美ちゃんの前なんで、見破られております。
「正直ね、さくらは。入る前に計ってますって言えばいいのに」
「あ、せやったか!」
「ね、天気予報も外れて、けっこういい天気だから出かけようよ」
「え、もうお昼ちゃうん?」
「まだ二時間もある。お弁当こさえて、どこか公園にでも」
「よし!」
というわけで、お握り二個ずつこさえて、お出かけとなった。
ほんま、ええ天気!
この解放感は、高校にも合格して、宿題もなんにもない完全無欠の春休みやさかい。
公立受ける子は、必死のパッチ。
ほんま、聖真理愛学院一本勝負の専願で良かった!
「これは、きっと神さまからの御褒美やろねえ」
「そんなこと言っていいの? うちお寺だよ」
「アハハハ、せやせや(^_^;)」
内心、いまの留美ちゃんの言葉は嬉しい。
留美ちゃんは「うちお寺だよ」って言うた。
留美ちゃんは、事情があって、うちの家で暮らして、そろそろ一年。
最初はいろいろ戸惑いがあったり馴染めんかったりやったけど、いま「うちお寺だよ」と、すごく自然に言うた。
嬉しい。せやけど、指摘したら、ぜったい照れてしまうから、おくびにも出しません。
「どこか公園とか思ったけど、なんか、ぜんぜん公園ないねえ」
「あ、ほんまやねえ」
あたしも、中学に入ってからの堺市民なんで、中学と自宅の周辺以外の堺はあんまり知らん。
元々住んでた大阪市は、校区に三つや四つ、大小の公園があった。
「このままだと、道端でお弁当になる」
「それは、ちょっとハズイかも……」
「ちょっと調べるね……」
慣れた手つきでスマホを操作する留美ちゃん。うちの倍くらい検索するのが早い。
「ああ……無いよ……大仙公園まで行かないと……ほんとにないよ」
「ほんまにぃ?」
顔を寄せて、スクロールされる画面を見るんやけど、ほんまに、家から1キロ以内のとこに一つも公園が無い。
気の早いうちは、もう帰ろかいう気になる。
「ねえ、阪神高速の西側に行ってみようか?」
「高速の向こう側?」
子どもの生活圏は、第一が校区。第二が大通り。
大通りいうのは、車がビュンビュン走ってて、むろん横断歩道はあるんやけど、普段はめったに超えることが無い。
というか、阪神高速の向こうは、マジで行ったことが無い。
「行ってみよっか?」
「うん!」
というわけで、天気予報が外れてもうけもんの晴れなんで、少女二人の冒険になった。
「あ、お寺がある!」
お寺に住んでるくせに……と、思いながらチラ見すると、スマホの地図には、うちの如来寺なんかハナクソかいうくらいのデッカイお寺の敷地が出てる。
「ああ……やっぱり、沢庵の南宗寺だ!」
画面をスクロールして、感動爆発の留美ちゃん。
「え、タクアンのお寺?」
「うん!」
うちは、丼物に添えてある黄色いタクアンとお寺が結びつかへんので、頭が?マーク。
「沢庵て、お坊さんが発明したんでタクアンって言うのよ。関東の人だと思ってたから、驚きだよ!」
さすがは留美ちゃん。
「それにね、南宗寺には家康のお墓があるのよ!」
「ええ!?」
家康はうちでも知ってる。
というか、にっくき狸オヤジ! わが愛する木村重成さんをぶち殺してくれたにっくきカタキやおまへんか!?
去年、頼子さんらといっしょに木村重成さんのお墓を見に行って、幻やねんけども重成さんに会った。
重成さんは、兜に香を焚きしめて、首をとられても汗臭くならないように気を配って「あっぱれ、木村重成!」と家康を感動させた。
しかし、感動してもうちは許さへん。
その、にっくき家康のお墓……え?
「家康のお墓って、日光やったんちゃうん?」
「実はね、大坂夏の陣で後藤又兵衛って侍大将に乗ってた籠ごと槍に突き刺されて、たどり着いた堺の街では死んでたって説があるの。それ以降の家康は、影武者だったって」
「え、ほんま!?」
「うん、江戸時代に、幕府のお金で、お墓の改修工事もやってるんだよ。それを元にした歴史小説もあるしね」
うう、さすがはガチの文芸部(^_^;)。
「でも、この南宗寺だったとは知らなかったよ……」
そうして五分後、大学一個が丸々収まりそうな南宗寺の門前に立つ。
「ああ……拝観料いるんだ」
ほんのご近所散歩のつもりだったから、お財布とかは持って出てない。
「ちょっと、お金下ろしてくる!」
文学的好奇心に火のついた留美ちゃんは、どこまでもアグレッシブ。
スマホで、ATMのあるコンビニを検索する。
ポツリ
あ?
スマホの画面に水滴が落ちる。
二人そろって見上げた空は、いつのまにか鈍色になって、今にも本格的に降って来そう。
さすがの留美ちゃんも「傘を買いに行こう!」とは言いださず、まっすぐ1キロの道を走って帰りました。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる