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216『木村重成・2』

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せやさかい

216『木村重成・2』さくら      




 玉串川の遊歩道を北に進む。


 玉串川は幅三メートルほどのちっこい川。

 江戸時代に農業用水路として整備された小川で、大和川から分かれて河内平野を北に流れてる真っ直ぐな小川。

「疏水(そすい)って言うんです」

 銀ちゃんが自転車を寄せてきて説明してくれる。

「ああ、そうなんや(^▽^)/」

 返事はしてるけど、疏水の意味は分かってません。

 ウフフ

 留美ちゃんは分かってるようで、わたしの後ろで笑ってる。

 先頭はソフィーに先導された頼子さん。

 他にも頼子さんのガードが居てるんやろけど、わたしらには分からへん。


 花園へ4キロという標識を潜って直進。


 右側の川岸には桜の並木、春の季節に来たら壮観やろなあ。

 道は二車線の府道と並行してんねんけど、府道と川の間にも桜とかの緑が連なってて、車道の猛々しさは感じさせへん。

 左側はお屋敷と言っていい家が並んでて、その間に高校、小学校、幼稚園、小公園なんかが並んでて、落ち着いた雰囲気。

 十分ちょっと走ったとこで左……たぶん西の方角に曲がる。

 住宅街は直ぐに途切れて、堺の街中では見かけんぐらいに大きな団地の中を通る。

 団地は、更新の時期に来てるんやろか、人気のない棟が目立つ。


 ミーーン ミンミン  ミーーン ミンミン


 団地を抜けると、蝉の声がミンミン響いて広くて緑の多い公園が……おお、数えただけでも三つは通り過ぎる。

 団地が余裕のある立て方をしてあるせいか、空が広い。公園の上は、もっと空が広い。

 ミーーン ミンミン  ミーーン ミンミン ミーーン ミンミン  ミーーン ミンミン

 蝉の声がかまびすしいねんけど、不思議やねえ、蝉の声は騒音には聞こえへん。かえって、あたりの静かさが強調される。

 そういえば、木村重成が討ち死にしたのは大坂夏の陣。

 こんなんやったんかなあ……。

「ここよ!」

 頼子さん、向日葵みたいな笑顔で振り返って宣言する。

 四台の自転車は、奥まった公園のスロープを下る。

 小学校のグラウンドくらいの公園はワッサカした緑の他には、年代物の遊具と、年季の入ったベンチがチラホラ。

「先輩! ここです!」

 公園に入ると、銀ちゃんが指差す。


 おお!


 自転車に跨ったまま感動!

 五重塔の基壇かいうくらいの壇の上に、うちの釣鐘堂くらいの石垣。

 石垣の周りは玉垣で囲われて『長門守木村重成之墓』と彫られた大きな石柱。

 左右に五輪塔やら石灯篭を従えて、まるで、将軍のお墓みたい。

「あらあ、ほんとうのお墓は、この東五十メートルのところにあったみたい」

 頼子さんが、手を庇にして東を向く。

「でも、このお墓にはソウルがあるです」

 ソフィーが、どこに持っていたのか花束を出して墓前に捧げる。

「そうね、まずはご挨拶」

 花を活けると、お墓の前に四人で並んで頭を下げる。

 ミーーン ミ……

 蝉の声がピタッと止まった。

 え?

 あ、あかん、立ち眩み……視野の端っこの方が……暗くなって……きた……(;'∀')

 
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