上 下
144 / 432

144『閃いた!』

しおりを挟む

せやさかい

144『閃いた!』         

 

 
 テイ兄ちゃんのテレワークは、さらに熱が入ってきた。

 
「ちょっと袋詰め手伝うてくれる」

 坊主頭以外は坊主には見えへん腰パンのジャージ姿で段ボール箱を抱え、足で襖を開けながらテイ兄ちゃんが入ってきた。

「また、何か送るの?」

 詩(ことは)ちゃんが、ちょっと迷惑そうな上目遣いで兄を見る。

 詩ちゃんは、学校再開に向けて勉強中。

 勉強いうても教科の勉強と違って吹部のレパートリー曲の勉強。今までのレパの確認と、新しくレパにできそうな曲の検討。なんせ、学校が始まったら本格的に吹部の部長やさかいに、邪魔はされとない。

「お香とお線香送ろと思てな……これが本山から送ってきた『龍臥香』、ちょびっとずつやけどええ匂いがする」

「いやあ、ほんま、めっちゃ爽やか!」

「月参りの時に持っていこ思たんやけど、待ってたら香りが飛んでしまうからなあ」

「ほかには?」

 お香の匂いに触発されて、詩ちゃんも段ボール箱の中を覗きはじめる。

「あ、お線香がいっぱい」

「これも送るんや、僕がお経上げてる時に、同じ線香使うてもろたら臨場感あるやろ?」

「せやけど、テレワークやったら匂いまでは分からへんのんちゃうん」

「そこはムードや、『よかったら、お送りしたお線香使てもらえますか?』て言うとくんや、それで、同時にお線香に火ぃ着けたら雰囲気やろ。お香も香りを楽しみながら『この龍臥香の由来は……』とか手短に説明したら雰囲気出るやろ」

「なんや、イチビリみたい」

「イチビリでええねん、ちょっと遊びめいたとこから雰囲気が出てくるんや」

「お兄ちゃん、これ、なにかヒントがあったんじゃない?」

 詩ちゃんは鋭い、こんな気の利いたことをテイ兄ちゃんが考えるわけがないと踏んでる。

「ハハ、実はな。テレワークの後に、みんなでバーチャル飲み会やってるのんを動画で見てな」

「アハハ、知ってる! あらかじめ、お酒と肴を送っておいて、みんなで乾杯とかするんだよね。雰囲気が出てきたら、みんな自前のお酒と肴に切り替えて」

「せや、最初だけ同じもの呑んで食べとくと雰囲気ちゃうらしいで」

「テイ兄ちゃん、下の重たそうな箱は?」

「ああ、タブレットや。スマホはみんな持ってはるけど、スマホやったら画面小さいから、環境の整ってない檀家さんには、これも送るんや」

「どうしたの、たくさんあるけど?」

「こんどのテレワークブームで、機材の更新する企業もあってなあ、そういうとこから譲ってもろたんや」

 こういうイチビリのネットワークに、テイ兄ちゃんは強い。いつやったか、留美ちゃんにカラオケの訓練させた時とか、大晦日の除夜の鐘撞ツアーとか、お寺の落語会とか。

 あ、そうや!?

 閃いた!

「テイ兄ちゃん、まだ、タブレットある?」

「ああ、全部引き取る条件でもろてきたから。なんか使うんか?」

「うん、頼子さんを喜ばそ思て!」

「よ、頼子さんか!」

 テイ兄ちゃんの目の色が変わった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

思い出を売った女

志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。 それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。 浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。 浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。 全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。 ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。 あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。 R15は保険です 他サイトでも公開しています 表紙は写真ACより引用しました

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夏休みの夕闇~刑務所編~

苫都千珠(とまとちず)
ライト文芸
殺人を犯して死刑を待つ22歳の元大学生、灰谷ヤミ。 時空を超えて世界を救う、魔法使いの火置ユウ。 運命のいたずらによって「刑務所の独房」で出会った二人。 二人はお互いの人生について、思想について、死生観について会話をしながら少しずつ距離を縮めていく。 しかし刑務所を管理する「カミサマ」の存在が、二人の運命を思わぬ方向へと導いて……。 なぜヤミは殺人を犯したのか? なぜユウはこの独房にやってきたのか? 謎の刑務所を管理する「カミサマ」の思惑とは? 二人の長い長い夏休みが始まろうとしていた……。 <登場人物> 灰谷ヤミ(22) 死刑囚。夕闇色の髪、金色に見える瞳を持ち、長身で細身の体型。大学2年生のときに殺人を犯し、死刑を言い渡される。 「悲劇的な人生」の彼は、10歳のときからずっと自分だけの神様を信じて生きてきた。いつか神様の元で神様に愛されることが彼の夢。 物腰穏やかで素直、思慮深い性格だが、一つのものを信じ通す異常な執着心を垣間見せる。 好きなものは、海と空と猫と本。嫌いなものは、うわべだけの会話と考えなしに話す人。 火置ユウ(21) 黒くウエーブしたセミロングの髪、宇宙色の瞳、やや小柄な魔法使い。「時空の魔女」として異なる時空を行き来しながら、崩壊しそうな世界を直す仕事をしている。 11歳の時に時空の渦に巻き込まれて魔法使いになってからというもの、あらゆる世界を旅しながら魔法の腕を磨いてきた。 個人主義者でプライドが高い。感受性が高いところが強みでもあり、弱みでもある。 好きなものは、パンとチーズと魔法と見たことのない景色。嫌いなものは、全体主義と多数決。 カミサマ ヤミが囚われている刑務所を管理する謎の人物。 2メートルもあろうかというほどの長身に長い手足。ひょろっとした体型。顔は若く見えるが、髪もヒゲも真っ白。ヒゲは豊かで、いわゆる『神様っぽい』白づくめの装束に身を包む。 見ている人を不安にさせるアンバランスな出で立ち。 ※重複投稿作品です ※外部URLでも投稿しています。お好きな方で御覧ください。

処理中です...