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058『ヤマセンブルグ・4』

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せやさかい

058『ヤマセンブルグ・4』 

 

 
 な、なにこれ!?

 
 国立墓地を出た途端にびっくりした!

 国立墓地は周囲を感じのいい林が取り巻いてる。出入り口までは林の中を「の」の字に墓参道が巻いているので、外の様子は分からへん。

 これは、お墓に眠る人たちにとっても墓参する者にとっても静謐な環境を保つため……というのはソフィアさんの説明。まだまだ翻訳機を使っての説明やけど、すごく気持ちは通じるようになった。今の説明も、最初の3/1ぐらいのところで中身が分かる。

 で、なににビックリしたかと言うと、行きしなには見かけへんかった国民の人たちが沿道に溢れて、日ヤマ両国の国旗を熱烈に振ってる。

「これもドッキリ!?」

 留美ちゃん、これはドッキリやない。なにかの都合で規制されてたんやと思う。

「墓参りに行く人は静かに送らなければならないって伝統があるの。その反動もあって、帰り道は、ね……」

 説明しながらも、頼子さんはにこやな笑顔で沿道の人らに手を振ってる。感化されやすいわたしはハタハタと両手をパーにして振った。

「プリンセスより目立ってはいけません」

 ソフィアさんに言われて「ごめんなさい」

「え、プリンセス?」

 留美ちゃんが頭から声を出す。

「正式に認め……たわけじゃないんだけどね」

 トンネルに差し掛かったとこで、頼子さんは小さく言った。

 

 宮殿に戻ると、ランチを食べながら説明してくれた。ちなみに、ランチはディナーよりも何倍も美味しい!

 

「夕べのディナーはね、ヤマセンブルグの郷土料理。先祖の苦労を知るために、節目の時には食べる慣わしなの」

「それで、プリンセスというのは!?」

 留美ちゃんが身を乗り出す。

「お父さんが皇太子だったの……二年前に亡くなって、それで、わたしが皇位継承者にね……でも、まだ未成年だから、ずっと保留にしてきて、国籍だって……」

「ああ、日本とヤマセンブルグと!」

「イギリスの国籍もね、昔はイギリスの辺境伯も兼ねていたから……うちって、とてもややこしい事情がね……ほんとは千羽鶴だけをジョン・スミスに預けようと思ったんだけど、なんだか無責任な気がして……あなたたちに付いて来てもらったのも、一人じゃ、とても身動きとれなくって。それでも、ミリタリータトゥーの晩までは揺れてて……ヤマセンブルグに立ち寄る決心したのは、前の晩。だから、国民の人たちには連絡が遅れて、空港以外の出迎えの人たちが少なかったのよ」

 留美ちゃんは目をまん丸にして黙ってしもた。

 メッチャ感激すると、留美ちゃんは、こうなるらしい。わたしも、言葉が出てこーへんから似たり寄ったり。

「もう、日本には帰らへんのですか?」

「もう、文芸部はおしまいなんですか……?」

「そんなわけないでしょ! 成人するまでは保留ってことで、お婆ちゃんとは話がついた! わたしは、まだまだ安泰中学の三年生で、文芸部の部長なの!」

 偉い剣幕でまくしたてる頼子さん。声をあげなら、折れてしまいそうやいうのが、よう分かる。まだ五カ月ほどやけど、こういう頼子さんの気性はよう分かるようになってきた。

 

「明日は、女王陛下と王室行事に参加していただきます」

 

 三人で友情を誓い合ったところでソフィアさんが用件を伝えに来た。翻訳機も使わんと、きちんと日本語で。

 王室行事という響きに、あたしも留美ちゃんも胸を躍らせる!

 このひと夏の合宿で、新しいことには物怖じよりも期待を持つようになった。ヘヘ、だいぶ進歩したよ。

 

 で、王室行事はジャージに手ぬぐいを首に巻いて行った。

 

 なんと、王室の御用畑でジャガイモの収穫作業!

「天皇陛下だって田植えとか稲刈りとかされるでしょ」

 頼子さんは達観してるけど、あたしらは……イモ! やけど、中腰の芋ほりはきっつい! 夢壊れるう!

「飢饉の年にね、国王もいっしょにイモを育ててしのいだことが伝統になってるの、ほら、もっと腰をいれないと!」

 女王陛下の手が荒れてたのも、このせいか……あたしらの夏季合宿は五キロずつのジャガイモをお土産にして終わりを告げたのであった。

 

追記:ジャガイモは、そのままでは日本に持ち込めないので、イギリス王立試験場の検査を受けて、九月中頃には日本に送られてくるそうです。

 

 
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