上 下
138 / 139

138≪昨日の蟻さん?≫

しおりを挟む
新 ここは世田谷豪徳寺・41(さくら編)

138≪昨日の蟻さん?≫




  コップに半分の水をどう表現するか?

 もう半分しかない派と、まだ半分有る派に分かれる。

 あたしは「まだ半分有る」派のお気楽人間。
 だから、デフォルトのわたしは夏休みが半分過ぎても、小遣いが半分になっても「まだ半分有る」と、ポジティブに生きている。

 でも、今度の中間テストでは逆だった「もう半分終わった!」と思って、マクサと恵里奈とついカラオケでハジケテしまった。
 一応は、マクサの家でお勉強という名目だったけど、10分もたつとガールズトークになってしまった。

 昨日の日本史のテストで居眠りして『蟻さんの夢』の話をしたのがよくなかった。マクサも恵里奈もケラケラ笑って勉強にならない。

「ちょっと休憩にカラオケでもいこっか!」

 お気楽が伝染した恵里奈が言いだした。言いだしべえは恵里奈だけど、三人とも同じように気が弛んでいたことは確かだ。けっきょくマクサんち近くのカラオケで5時まで遊んでしまった。夢の中の蟻さんが言ってたシンパシーなんだろうけど、気持ちの発信者はあたしだ。それくらいの自覚はある。

 三人それぞれ家に帰ってから、今日のテスト勉強はしてるので、ノープロブレムっちゃ、それまでなんだ。

 けども、あたしの気持ちはブルーだ。

 高校二年にもなろうかと言うのに、あたしは一年先の自分も見えていない。で、マクサや恵里奈のようにクラブとかにどっぷり浸かって高校生活をエンジョイしきっているわけでもない。その時その時の面白いことに引きずられ騒いでいるだけだ。

 お姉ちゃんは大学に行きながら出版社でバイト。近頃ではバイト以上の能力を発揮して記事のネタを拾っている。こないだの兵隊さんの髑髏ものがたりが大ヒット。むろん編集責任は本業の編集者になっているけど、中身はお姉ちゃんが集めてきたものだ。

 お姉ちゃんは、確実に自分の道を探り当てつつある。

 そうニイは、海上自衛隊の幹部で、全身生き甲斐のカタマリ。たまに帰ってくると、妹としてはとても眩しい。そうニイには、相変わらず無邪気でわがままな妹一般で通している。兄貴は「相変わらずのガキンチョ」だと思ってるだろう。


『ゴンドラの唄』が少しブレイクしかけた。YouTubeのアクセスも沢山あって、スカウトなんかも少し来た。


 でも、あれはひい祖母ちゃんが歌っているのといっしょ。けしてあたしの力なんかじゃない。それはあたしとひい祖母ちゃんだけの秘密なんだけど、お姉ちゃんは知ってか知らでか、あたしが、流れのままにそっちにいく道を閉ざしてくれている。

 本当は、今日の午後はラジオ出演が決まっていたんだけど、お姉ちゃんがNGにしてくれた。

 家の近所まで帰りながら、あたしは近所の公園のブランコに揺られている。子供のころから乗り付けたブランコ。あたしは、いつまでこうしているんだろう……。

 足許を蟻さんが歩いている。じっと見つめていると、ふいに蟻さんが顔挙げてあたしを見たような気がした。

 昨日の蟻さん? まさかね……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...