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134≪💀 髑髏ものがたり・6≫

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新 VARIATIONS*さくら*37(さつき編)

134≪💀 髑髏ものがたり・6≫




 そうニイは、休暇の大半を髑髏の調査にあててくれた。

 陸軍第79連隊の阿部忠中尉であること、当時の住所、複顔したCG画像、DNAの鑑定結果までついていた。

「できたら、オレの手でご遺族を特定して、お返しできたらと思うんだけど。もう明日は出港だ、あとはさつきに頼めるか?」
「うん、ありがとう。あとはあたしの手でやるわ」

 あたしは、その足でバイト先の雑誌社に行った。編集長はじめご一同が喜んでくれて、中井さんという記者が担当して特集記事をくむことになった。

「これは良い記事になるよ。戦時中の悪いことは、みんな日本のせいみたいに言われてきたからね、日本人もこんな目に遭ってきたという証明になる。ちょっとキャンペーンを張ろう」

 あたしも同感だった。従軍慰安婦や南京のことで日本は言われっぱなしだ。日本の汚名を晴らす反証としてもやるべきだと思った。
 中井さんは、当時の住所から遺族を割り出そうと、横浜の○区の区役所まで電話で調べてくれたが、○区は戦時中の爆撃で、全域が焼失していて、そこから割り出すのは不可能だった。

 中井さんは、なんと、その日のうちに記者会見を開いた。

「……えーと言うわけで、この陸軍第79連隊の阿部中尉のご遺族を探すとともに、阿部中尉を始めとする日本人将兵が受けた残虐な仕打ちを世に問いたいと思う次第です」

 そして、阿部中尉に関する資料の写しが新聞社や放送局の記者に渡された。ケイサン新聞を始め、慰安婦問題では味噌をつけた日日新聞まで、こぞってこのニュースに飛びついた。

 その夜、夢に桜子さん(ひい祖母ちゃん)が現れた。

「さつき、この三日間ほど、本当にありがとう。お蔭で、あの兵隊さんが阿部中尉さんだってことも分かったわ、これでご遺族が分かって、先祖代々のお墓に入れれば、全て丸く収まると思うの。さくらといっしょに歌も歌えるし、阿部中尉さんのお役にも立てる。死んで、こんなに望みが叶って、人のお役に立つとは思わなかった。ほんとうにありがとう」

 桜子さんの手が伸びてきて握手した。小さな手だったけど、ほんのりとした温かさが愛おしかった。

「桜子さん、二輪さんが言ってたけど、もう一つ望みがあるって……?」
「それはまだまだいいの。阿部中尉さんのことが決着して、全てが済んでからでいいわ。あ、阿部中尉さんが……」

 ベランダのサッシのところに、阿部中尉が立っていた。今日は鉄兜もとって空白だった顔も分かった。阿部寛の若いころによく似たイケメン。

 そのイケメン中尉さんが、戸惑ったような顔して、桜子さんのやや後ろに立った……。
 
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