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125≪尾てい骨骨折・5≫
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新・ここは世田谷豪徳寺・28(さくら編)
125≪尾てい骨骨折・5≫
校長先生の家で晩御飯を勧められた。
地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かとお誘いに乗った。
家にはスマホでお母さんに連絡。
「かえって気を遣わせてしまったみたいね」
「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」
お料理は気取らない多国籍料理だ。
「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」
感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こういうものになると奥さんの弁。ちなみに息子さんと娘さんは大学生で、あたし同様、朝家を出たら糸の切れた凧らしい。
「わたしたちの時代じゃ許されなかったけどね」
そう言いながら、お祖母さんが遅れて地下から上がってこられた。
「あ、そうだ。サクラさんに名刺渡しとこう」
相変わらず、この「サクラ」は、あたしのことか、ひい祖母ちゃんのことか分からない。
―― よろずクリエーター 白波園子 ――と書かれていた。
「この『よろずクリエーター』って、なんですか?」
無邪気に聞くと、みんながホタホタと笑った。
「ようは、なんでもやりたがり屋。好きなことをやってはブログ書いたりYouTubeに投稿したり……お母さん、さっきの佐倉さんの投稿なんかしてないでしょうね!?」
校長先生が顔色を変えた。
「もちろんアップしたわよ。だって、あたしと桜の仲なんだもん。ねえ、桜!」
これは完全にひい祖母ちゃんと間違われている。
「ちょっと、確認」
校長先生はテレビを点けると、入力をパソコンにした。
「『ゴンドラの唄 桜』で出てくるわよ」
校長先生が、そう打ち込むと、まるで本物のスタジオで歌手が歌っているように、カメラ3台の画像が切り替わりながら、あたしの歌を流していた!
「いい出来ね。ネット仲間でテレビのメカニックさんがいてね。昨日来てもらって、こういう仕様にしてもらったの。ホホホ」
「佐倉さん、ごめんね、すぐ削除してもらうから」
「なによ、こんなにいい出来になったのにい」
「お母さん、肖像権の問題とか著作権の問題だとか……」
「著作権は切れてるからOK。写っているのは桜だし、ねえ」
「え、ああ、いいですよ。あたしYouTubeなんて載ったことないし、良く撮れてるし、記念になっていいです」
そう答えたのが運命の分かれ道だった。
「ちょっと、さくらのアクセスすごいわよ!」
帰るなりさつきネエに言われた。
パソコンには、校長先生の家で観たのと同じ画面が写り、その下のアクセス回数は1000を超えていた。コメントも10個ほど来ていた。
懐かしー! 若いのに上手! 大正ロマン!などなど、ご年配と思われる人たちのコメントばっか。
「これ、いつものさくらの鼻歌のレベルじゃないわよさ。なんか特訓した?」
「ううん、お姉ちゃんがのど飴ぶちこんだぐらいよ……」
そこまで言って気づいた。
こうなっちゃったのは、秋分の日の夜。尾てい骨骨折やって、なんだか無性に眠くなるようになった。で、そのあくる日にひい祖母ちゃんが夢に出てきて、それからだ……お彼岸ミステリー!
「ハハ、まさかね」
まあ、一晩だけのジババのアイドルになるのもいっか……。
125≪尾てい骨骨折・5≫
校長先生の家で晩御飯を勧められた。
地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かとお誘いに乗った。
家にはスマホでお母さんに連絡。
「かえって気を遣わせてしまったみたいね」
「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」
お料理は気取らない多国籍料理だ。
「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」
感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こういうものになると奥さんの弁。ちなみに息子さんと娘さんは大学生で、あたし同様、朝家を出たら糸の切れた凧らしい。
「わたしたちの時代じゃ許されなかったけどね」
そう言いながら、お祖母さんが遅れて地下から上がってこられた。
「あ、そうだ。サクラさんに名刺渡しとこう」
相変わらず、この「サクラ」は、あたしのことか、ひい祖母ちゃんのことか分からない。
―― よろずクリエーター 白波園子 ――と書かれていた。
「この『よろずクリエーター』って、なんですか?」
無邪気に聞くと、みんながホタホタと笑った。
「ようは、なんでもやりたがり屋。好きなことをやってはブログ書いたりYouTubeに投稿したり……お母さん、さっきの佐倉さんの投稿なんかしてないでしょうね!?」
校長先生が顔色を変えた。
「もちろんアップしたわよ。だって、あたしと桜の仲なんだもん。ねえ、桜!」
これは完全にひい祖母ちゃんと間違われている。
「ちょっと、確認」
校長先生はテレビを点けると、入力をパソコンにした。
「『ゴンドラの唄 桜』で出てくるわよ」
校長先生が、そう打ち込むと、まるで本物のスタジオで歌手が歌っているように、カメラ3台の画像が切り替わりながら、あたしの歌を流していた!
「いい出来ね。ネット仲間でテレビのメカニックさんがいてね。昨日来てもらって、こういう仕様にしてもらったの。ホホホ」
「佐倉さん、ごめんね、すぐ削除してもらうから」
「なによ、こんなにいい出来になったのにい」
「お母さん、肖像権の問題とか著作権の問題だとか……」
「著作権は切れてるからOK。写っているのは桜だし、ねえ」
「え、ああ、いいですよ。あたしYouTubeなんて載ったことないし、良く撮れてるし、記念になっていいです」
そう答えたのが運命の分かれ道だった。
「ちょっと、さくらのアクセスすごいわよ!」
帰るなりさつきネエに言われた。
パソコンには、校長先生の家で観たのと同じ画面が写り、その下のアクセス回数は1000を超えていた。コメントも10個ほど来ていた。
懐かしー! 若いのに上手! 大正ロマン!などなど、ご年配と思われる人たちのコメントばっか。
「これ、いつものさくらの鼻歌のレベルじゃないわよさ。なんか特訓した?」
「ううん、お姉ちゃんがのど飴ぶちこんだぐらいよ……」
そこまで言って気づいた。
こうなっちゃったのは、秋分の日の夜。尾てい骨骨折やって、なんだか無性に眠くなるようになった。で、そのあくる日にひい祖母ちゃんが夢に出てきて、それからだ……お彼岸ミステリー!
「ハハ、まさかね」
まあ、一晩だけのジババのアイドルになるのもいっか……。
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