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106≪あたし学生なんですけど≫
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新・ここは世田谷豪徳寺・8(さつき編)
106≪あたし学生なんですけど≫
あたし学生なんですけど。
思わず口ごたえしてしまった。
原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。
「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。
車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。
怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増えてギャラが変わらなきゃタダ働きになってしまう。
見透かしたように編集長が続けた。
「ギャラは、上限5万として出来高払い。もち経費は別。ただし常識の範囲でね」
少しときめいた。まさか毎回5万くれるわけじゃないだろうけど、均して3万。月に3本で9万……これはおいしい。
「でも、あたしほとんどペーパードライバーですけど」
「ちょうどいい車を用意してある……」
というわけで、車とは名ばかりのお母さんと同年配のホンダN360Zの慣らし運転をやっている。
全長3メートルを切る車体は、今の軽自動車よりも二回り小さく、まるでチョロキュー。行き交う車のウンちゃんが珍しそうに見ていく。前から見た姿はホンダのいいセンスを感じるけど、後ろがちょん切ったように存在しない。水中眼鏡と言われたハッチバックのすぐ下はバンパー。まあ苦手な車庫入れや縦列駐車はやりやすそうなのでヨシとする。
青山通りを西に走っていると、学校帰りのさくらを見つける。
「なにいーーーこの狭さ。なんで、今時二人乗りなのよ?」
姉妹のよしみで、つい声を掛けたのが間違いだった。ま、今時の女子高生に、この車のよさを……いつの間にか、車を気に入りかけている自分に驚く。
「米井さんとはうまくいったの?」
顔色から解決したと思っていたけど、車のケチから姉妹げんかにならないように話題を変えた。
「実は……というわけで、二人は実の兄妹だったんだ。で、佐伯君は……あ、今の内緒ね」
「いいよ。大体わかる。あたしボランティアで、ときどきホスピスに行くの。さくらも知ってるでしょ?」
「うん……あ、ひょっとして!?」
「そう、見たことあると思ってたら、ホスピスで何度か話もした子だったんでびっくりした」
「なんで言ってくれなかったのよ!」
「さくらも、自分で解決した方がいいと思ったから。どう、上手くいったんでしょ?」
「うん、心に何枚かバンソーコー貼ることになったけどね」
「あとは米井さんが、どう乗り越えていくかだね……つかず離れず、見守ってあげなよ」
「うん……」
「しかし、あのチェ-ンメールは不思議だよね。一回限りしか転送できなくて、問題が解決したら消去されるんだろ?」
「こんなメール、誰が回し始めたんだろ……とても高度なスマホとかのテクニックないとできないよ」
「さくらの番号をハッキングして、そこから回し始めて、結局知ったのは、米井さんのことをある程度には知ってる子たちなんだもんね」
「ひょっとしたら、神様……」
「アハハ……かもね」
気楽に返事して、交差点を渡ろうとしたら、猛然と信号無視の車が愛車の真後ろを走り抜けていった。その後ろをパトカーがサイレン鳴らしながら走り抜けていった。
「この車、もうちょっと後ろが長かったら跳ね飛ばされてるとこだったよ!」
さくらが、バックミラーを見ながらしみじみと言った。
あたし学生なんですけど……そう言いたくなるような事件の前兆であった。
106≪あたし学生なんですけど≫
あたし学生なんですけど。
思わず口ごたえしてしまった。
原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。
「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。
車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。
怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増えてギャラが変わらなきゃタダ働きになってしまう。
見透かしたように編集長が続けた。
「ギャラは、上限5万として出来高払い。もち経費は別。ただし常識の範囲でね」
少しときめいた。まさか毎回5万くれるわけじゃないだろうけど、均して3万。月に3本で9万……これはおいしい。
「でも、あたしほとんどペーパードライバーですけど」
「ちょうどいい車を用意してある……」
というわけで、車とは名ばかりのお母さんと同年配のホンダN360Zの慣らし運転をやっている。
全長3メートルを切る車体は、今の軽自動車よりも二回り小さく、まるでチョロキュー。行き交う車のウンちゃんが珍しそうに見ていく。前から見た姿はホンダのいいセンスを感じるけど、後ろがちょん切ったように存在しない。水中眼鏡と言われたハッチバックのすぐ下はバンパー。まあ苦手な車庫入れや縦列駐車はやりやすそうなのでヨシとする。
青山通りを西に走っていると、学校帰りのさくらを見つける。
「なにいーーーこの狭さ。なんで、今時二人乗りなのよ?」
姉妹のよしみで、つい声を掛けたのが間違いだった。ま、今時の女子高生に、この車のよさを……いつの間にか、車を気に入りかけている自分に驚く。
「米井さんとはうまくいったの?」
顔色から解決したと思っていたけど、車のケチから姉妹げんかにならないように話題を変えた。
「実は……というわけで、二人は実の兄妹だったんだ。で、佐伯君は……あ、今の内緒ね」
「いいよ。大体わかる。あたしボランティアで、ときどきホスピスに行くの。さくらも知ってるでしょ?」
「うん……あ、ひょっとして!?」
「そう、見たことあると思ってたら、ホスピスで何度か話もした子だったんでびっくりした」
「なんで言ってくれなかったのよ!」
「さくらも、自分で解決した方がいいと思ったから。どう、上手くいったんでしょ?」
「うん、心に何枚かバンソーコー貼ることになったけどね」
「あとは米井さんが、どう乗り越えていくかだね……つかず離れず、見守ってあげなよ」
「うん……」
「しかし、あのチェ-ンメールは不思議だよね。一回限りしか転送できなくて、問題が解決したら消去されるんだろ?」
「こんなメール、誰が回し始めたんだろ……とても高度なスマホとかのテクニックないとできないよ」
「さくらの番号をハッキングして、そこから回し始めて、結局知ったのは、米井さんのことをある程度には知ってる子たちなんだもんね」
「ひょっとしたら、神様……」
「アハハ……かもね」
気楽に返事して、交差点を渡ろうとしたら、猛然と信号無視の車が愛車の真後ろを走り抜けていった。その後ろをパトカーがサイレン鳴らしながら走り抜けていった。
「この車、もうちょっと後ろが長かったら跳ね飛ばされてるとこだったよ!」
さくらが、バックミラーを見ながらしみじみと言った。
あたし学生なんですけど……そう言いたくなるような事件の前兆であった。
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