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41《不発の女子会》

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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)

第41話《不発の女子会》さくら 




 はがないとは『僕は友達が少ない』の平仮名を拾ったもの。


 少し前の人気ラノベで、ソーニイの愛読書だった。読んだらオキッパにしてるんで、わたしも読んだ。ソーニイはけして友だちの少ない人じゃないんだけど、明菜さんのこととか見てると、ちょっと人への感情が薄いような気もする。ま、ラノベはおもしろかったけどね。

 で、この芸能界で、はがないことを気にしている坂東はるかさんと、あんまし気にしていない佐倉さくらこと、このわたしが乃木坂近くのKETAYONAって店で二人女子会をやっている。

「あたしは子どもの頃から『はがない』でしたから、あんまし気になりません」

「そっか、そのへんの違いかな。あたしはデビュー前から、友達は多くってね、そのへんで寂しいと思ったことは無い人なの」

「それは、ラッキーっていうか、あたしは真似できませんね。はがない慣れしてるもんで、かえって気を遣いますね」

「でも、少しは居るんでしょ?」

「ええ、ま、ゼロじゃ、寂しすぎますから」

「あたしは、ほとんどゼロに近い『はがない』だな」

「え?」

 ちょっと混乱した、たった今「デビュー前から、友達は多くってね」と聞いたばかり。

「たくさん居たお友達は?」

「あ、むろん友だちだよ。でも、めったに会わないし、みんな別の世界に行っちゃったし。かく言うわたしも人から見たらそうなんだろうけどね。芸能界って特殊でしょ。みんな表面はヨロシクやってそうにしてなきゃいけないし、微妙に先輩後輩の区別とか、売れなくなると、親友みたいに仲良かったのも離れていっちゃうし。むろん友だちなんだけど、わたしって犬とか猫みたいなとこがあって、傍に人がいないと寂しい人なの。さくらちゃんは、この世界、まだ片足だけだから、頼りにしてますョ」

 笑顔で小首をかしげるはるかさん。年上だけど可愛い(^○^;)。

 いや、ちゃんとリアクションしなきゃ!

 居住まいを正して頭を下げる。

「こ、こちらこそ(-_-;)」

「ほらほら、そういうのが、この世界の因習なの。さくらちゃんより少しばかり年上なだけなんだから、もっとフランクにしてよ」


 そのとき、ドアがノックされた。


「ごめん、雪でなかなか着かなくって……」

「よかった、来てくれないんじゃないかと思った!」

「はるかちゃんに呼ばれて来ないわけないでしょ」


 ビックリした。若手で売り出し中の仲まどかさん本人だ。


「あ、あたし、ご一緒させていただいてる、佐倉さくらです」

「あ、渋谷シャウト!?」

「失礼よ、まどか」

「あ、ごめんなさい、インパクト強かったから(^_^;)」

「あ、いえいえ照れますぅ。ご存じだったんですか?」

「『限界のゼロ』も観たわよ。あなたの驚きの表情って、とてもいいわね」

「『春を鷲掴み』でいっしょになったの。で、あたしのはがない晩ご飯に付き合ってもらってるわけ」

「ども、まどかです、ヨロ~(^▽^)」

「いえ、あたしこそ。まどかさんて、はるかさんと幼なじみなんですよね」

「うん、若干のブランクはあったけど、あたしが四つ、はるかちゃんが五つからのお付き合い。このごろ、南千住には行ってないって?」

「うん、やっぱ遠慮しちゃう。お父さんも秀美さんも忙しいし……赤ちゃんもいるしね」

「ああ、元気のモトキ。弟なのにね」

「半分だけね……」

「もう、そんな言い方してえ。じゃ、うちおいでよ。歓迎するわよ」

「気持ちは嬉しいけど、まどかの家行って、お父さんとこ顔出さないわけにいかないじゃない」

「そっか……」

「まどかさん、今度アメリカに勉強に行くって、週刊誌に出てましたけど」

「え……あはは……ま、まあね」

 あ、ちょっとまずいこと言った?

「やっぱ行くんだぁ……」

 はるかさんが、寂しそうにため息をついた。女優さんだから、溜息ついても美しくってNHK源氏物語の一コマみたいだ。

「もう、とっくに知ってるくせに、ことさらなため息つかないでよね」

「ウウ、NHKのオーディションでもやらなかった名演技なのにぃ」

 え、今年の大河ドラマに出る!?

「行くって言っても、ほんの半年。あたし、はるかちゃんみたく天分の才ってのが無いから、ちょっと勉強しないと長続きしない人なんだから。ねぇ、さくらちゃんみたく魅力のある子は続々出てくるしさ」

「あ、すみません。てか、魅力とかとんでもないです(^_^;)」

 ハタハタと手を振る。

「あ、そういうつもりじゃないのよ。この世界はそれで持ってるんだから」

「まどか、あんたアルコールはいけるんでしょ。わたしたちに遠慮しないでやってちょうだいね」

「お気持ちは嬉しいんだけど、この後マリ先生とこ」

「そうなんだ……わたしたちも一緒じゃダメ?」

「あ、ダメダメ。週刊誌が先生の歳バラしちゃったじゃん。あれのヤケクソ会だから、事情知ってるものだけだから。はるかちゃんは知らないことになってんの、あ、ごめん、電話だ……」

 スマホを出して隅っこにいくまどかさん、「はい」を数回言って「チっ」と舌打ちしてから戻ってきた。

「ごめぇん、急に仕事来ちゃった。また時間合ったら遊んでね。さくらちゃんも。じゃ」

「失礼します」を半分も聞かないで、まどかさんは行ってしまった。


「時間が合ったらかぁ……アメリカ以外でも大変なんだろうねぇ」

「マリ先生って、上野百合さんですか、女子高生からオバアサンまでこなす名優?」

「そっか、さくらちゃんは、二冊とも本読んでるんだ!」

「マリ先生はサバ読んでるんですよね、確か十歳ほど」

「あ、ナイショだからね」

「はいはい」

「ちょっとは、この世界の片鱗が分かったかな?」

「はい、勉強になりました……こんなこと言って僭越なんですけど。よかったら、あたしんちに来られません? 狭い家だけど間数はありますから。近所に元華族の四ノ宮さんてブットンだ人も居て、まあ、退屈はしませんから」

「ほんとほんと? 行っちゃうよ、坂東はるかは!」

「どーぞどーぞ。家族は……見てのお楽しみってことで」

「なんかワクワクしちゃう(^_^;) さくらちゃんのご家族って?」

「ええ、なんちゅうか、家族それぞれで小説が一本書けそうなくらいの人たちです」

「行く行く、絶対行く!」


 かくして、月とすっぽんほどに違いはあるけど、芸能界のお友達が近々我が家に来ることになった。



☆彡 主な登場人物
佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
佐倉  さつき       さくらの姉
佐倉  惣次郎       さくらの父
佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元            さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
四ノ宮 篤子        忠八の妹
明菜            惣一の女友達
香取            北町警察の巡査
タクミ           Takoumi Leotard  陸自隊員 

 
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