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18《パス》
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)
第18話《パス》さつき
3Dビジョンの広告が新しくなったのに気付いてスマホを向ける。
渋谷駅前の3Dビジョン広告は有名だ。猫が飛び出したり犬が飛び出したり、ほんとうにそこに居て、路上の自分を見ているよう。新しいのを動画でアップすると、すぐにアクセスが伸びる。特にアクセス稼ぎが目的じゃない、動画撮る人っていっぱいいるからね。
どんな撮り方や編集をしたらアクセスが多いか。映画研究部としては、そっちの方に興味がある。ま、ちょっとしたカメラワークの勉強ですよ。
「阿倍派議員のパーティー券のキックバックをどう思いますか?」
いきなりマイクを突きつけられてびっくりした。油断していたら、こっちが撮られる側になっていた(^_^;)
「え、ああ……安倍派以外とか野党でも同じことやってると思うんですけど。なんで安倍派だけ突っ込まれるのか考えた方が面白いかなぁ……そういうのはパスかなぁ……」
考えをまとめようとしたら、リポーターは次の通行人にマイクを向けていた。カメラにN放送のロゴ、ああ、意に添わないわけだ……そう思った。
N放送は、日本で、ただ一つ受信料をとっている放送局。だけど偏向していることは、あたしみたいな、ペーペーの大学一年生でも分かる。大学の講義でも、N放送局が作った司馬遼太郎さんのドラマが原作を離れて反日的な表現をしていたか話していた。
あたしの次にマイクを向けられたオジサンはA新聞の社説みたいなことを口角泡を飛ばしてまくし立てている。あたしのはカットされるだろうな……気づいたら、無意識に今のやり取りを撮ってしまっていた。
面白そうなので、そのまま『N放送にパスされた(^_^;)』とタイトルを付けてアップしてバイトに向かう。
開店前の書棚の整理。秋元クンは一見平気な顔をして仕事をこなしている。
だけど、聡子と吉岡さんの仲を直に見せてやったので、パスしようとしている。
でもパスしきれない。
意識的に聡子のことを見ないように考えないようにしている。
あたしは、秋元クンの届かぬ恋を可哀想に思っていた。だから、卒業したはずの帝都のセーラー服まで着て、秋元クンに分からせた。
秋元クンの恋は届かないよ。
もし、秋元君にN放送ほどの図太さ、あるいは無神経さがあったら切り替えられるだろうにね。
もう少し見守ってあげるか。3Dビジョンの広告も新しくなったし、また、なにか思い浮かぶかもね。
パチパチとホッペを叩いて切り替える。
「さっちゃん、これ返本。バックヤードお願い」
文芸書の西山さんが台車を示した。
「はい」
台車を転がしながら、一冊の本に目がとまった。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
大橋むつおという大阪の劇作家が初めて出したライトノベル。入荷したときから売れないだろうと思った。本業は劇作。それがいきなりライトノベル。
この人の作品は、高校時代に中央大会の上演作品として観た。これでも、高校では演劇部だったのですよ(^○^;)。面白い本だと思った『ダウンロード』という一人芝居。
でも、ラノベとしては売れない。ラノベ作家としては無名であること。版元が小さく、ろくに営業にも来ないこと。そして値段がラノベとしては高すぎること。バイトとは言え、本屋が売れないと思うのには十分な条件だと感じた。
しかし、本の中味を読んで判断したことではない。
装丁は、意識してのことなのか単なる不器用か、昭和の匂い満々。
ム~~
数秒唸って、パスせずに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』を社員販売で買った。
そして。
ここから、意外なドラマが始まることになるとは想像もできないあたしだった……。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
香取 北町警察の巡査
第18話《パス》さつき
3Dビジョンの広告が新しくなったのに気付いてスマホを向ける。
渋谷駅前の3Dビジョン広告は有名だ。猫が飛び出したり犬が飛び出したり、ほんとうにそこに居て、路上の自分を見ているよう。新しいのを動画でアップすると、すぐにアクセスが伸びる。特にアクセス稼ぎが目的じゃない、動画撮る人っていっぱいいるからね。
どんな撮り方や編集をしたらアクセスが多いか。映画研究部としては、そっちの方に興味がある。ま、ちょっとしたカメラワークの勉強ですよ。
「阿倍派議員のパーティー券のキックバックをどう思いますか?」
いきなりマイクを突きつけられてびっくりした。油断していたら、こっちが撮られる側になっていた(^_^;)
「え、ああ……安倍派以外とか野党でも同じことやってると思うんですけど。なんで安倍派だけ突っ込まれるのか考えた方が面白いかなぁ……そういうのはパスかなぁ……」
考えをまとめようとしたら、リポーターは次の通行人にマイクを向けていた。カメラにN放送のロゴ、ああ、意に添わないわけだ……そう思った。
N放送は、日本で、ただ一つ受信料をとっている放送局。だけど偏向していることは、あたしみたいな、ペーペーの大学一年生でも分かる。大学の講義でも、N放送局が作った司馬遼太郎さんのドラマが原作を離れて反日的な表現をしていたか話していた。
あたしの次にマイクを向けられたオジサンはA新聞の社説みたいなことを口角泡を飛ばしてまくし立てている。あたしのはカットされるだろうな……気づいたら、無意識に今のやり取りを撮ってしまっていた。
面白そうなので、そのまま『N放送にパスされた(^_^;)』とタイトルを付けてアップしてバイトに向かう。
開店前の書棚の整理。秋元クンは一見平気な顔をして仕事をこなしている。
だけど、聡子と吉岡さんの仲を直に見せてやったので、パスしようとしている。
でもパスしきれない。
意識的に聡子のことを見ないように考えないようにしている。
あたしは、秋元クンの届かぬ恋を可哀想に思っていた。だから、卒業したはずの帝都のセーラー服まで着て、秋元クンに分からせた。
秋元クンの恋は届かないよ。
もし、秋元君にN放送ほどの図太さ、あるいは無神経さがあったら切り替えられるだろうにね。
もう少し見守ってあげるか。3Dビジョンの広告も新しくなったし、また、なにか思い浮かぶかもね。
パチパチとホッペを叩いて切り替える。
「さっちゃん、これ返本。バックヤードお願い」
文芸書の西山さんが台車を示した。
「はい」
台車を転がしながら、一冊の本に目がとまった。
『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』
大橋むつおという大阪の劇作家が初めて出したライトノベル。入荷したときから売れないだろうと思った。本業は劇作。それがいきなりライトノベル。
この人の作品は、高校時代に中央大会の上演作品として観た。これでも、高校では演劇部だったのですよ(^○^;)。面白い本だと思った『ダウンロード』という一人芝居。
でも、ラノベとしては売れない。ラノベ作家としては無名であること。版元が小さく、ろくに営業にも来ないこと。そして値段がラノベとしては高すぎること。バイトとは言え、本屋が売れないと思うのには十分な条件だと感じた。
しかし、本の中味を読んで判断したことではない。
装丁は、意識してのことなのか単なる不器用か、昭和の匂い満々。
ム~~
数秒唸って、パスせずに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』を社員販売で買った。
そして。
ここから、意外なドラマが始まることになるとは想像もできないあたしだった……。
☆彡 主な登場人物
佐倉 さくら 帝都女学院高校1年生
佐倉 さつき さくらの姉
佐倉 惣次郎 さくらの父
佐久間 まくさ さくらのクラスメート
山口 えりな さくらのクラスメート バレー部のセッター
米井 由美 さくらのクラスメート 委員長
白石 優奈 帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
氷室 聡子 さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
秋元 さつきのバイト仲間
四ノ宮 忠八 道路工事のガードマン
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