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227『黄泉の国決戦・2』

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RE・かの世界この世界

227『黄泉の国決戦・2』テル 




 数……数が多い! 多すぎる……!

 力の限り矢を射かけ、石ツブテを投げ、そして呆然とした。もう弓矢や石ツブテでどうこうできる数ではない。逃げるにしても、あの勢いでは数十秒のうちに追いつかれてしまう! 洞窟の出口までは一本道、逃げ込む枝道も無い!

「時間を稼ぎます!」

 そう言うと、イザナギさんは髪を結んでいた紐を解いて鬼ども目がけて投げつけた。

 シュル! シュルシュルシュルシュルシュル!

 紐は、たちまち無数に分裂して、迫りくる鬼たち醜女たちを絡めとっていく。

 バシュ バシュ バシュバシュバシュバシュバシュバシュ!

「今のうちです!」「全速後退!」

 イザナギさんが叫びヒルデが号令をかけ、みんな一目散に洞窟を走った!

「オッチャン、今のはなんだ!?」

「あれは、髪を括っていた蔦カズラです」

「すげえもの持ってんだなぁ」

 こんな時に質問する桃太郎二号の好奇心もすごいが、きちんと答えるイザナギさんも立派だ。

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

「え、もう解いて追いかけてくるやつがいるぅ!」

「あの蔦カズラでも足りなかったんだ!」

「あと半分! 頑張って!」

 シュシュシュ!

 与一さんが、皆を励ましながら矢を射る! それに倣ってケイトも、ほかのみんなも手当たり次第に石ころを投げ、僅かに時間を稼ぐ! 稼いではまた駆ける! 逃げる! 全速で駆ける! 全速で逃げる!

「少しは遠のいたかぁ(;'∀')?」

 わずかに鬼ども醜女どもの気配が消えたが、すぐに、それに倍する勢いで追いついてくる。

「オッチャン、追いついてきたぞぉ(;'▢')!」

「まだ手はあります」

 落ち着いて言いながら髪にさした竹櫛を取り、ポキポキ折っては足下と後ろに投げる。

 おお!

 櫛の歯は一本ごとに一叢のタケノコになって、それが瞬くうちに十倍百倍に増えて、一面のタケノコ平原になる。

「そうか、あれを餌にするんだな、オッチャン!?」

「今のうちです!」

 そう、見とれている場合ではない、背後に気を配りながらも距離を稼ぐ。

「すげえよ、オッチャン!」

 醜女や鬼たちは、足もとのタケノコを引っこ抜くと、一瞬で皮を剥いて生のままボリボリと食べ始めた。

 しかし、石の坂道を三つ上がったところでタケノコよりも鬼たち醜女たちの方が多くなって、またまた追いつかれる。

「かくなる上は……」

 シャリン!

 腰に下げているだけで一度も抜かなかった天叢雲剣(アメノムラクモノツルギ)を抜き放つイザナギさん!

「たとえ、妻を取り返すためとはいえ、殺生はしたくなかったんですが……チェストー!!」

 ズシ! ズサ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズザザザザ! ビシビシビシ! ズシズサ!

「スッゲー!」

 瞬くうちに、百匹あまりの敵を切り伏せ、さしもの鬼と醜女どもも十メートルほどの間合いを取って立ち止まった。

「さすがは天叢雲剣! イザナミ、聞こえているか!? 余計な殺生はしたくない、黄泉の戦闘員たちを退かせて、わたしと一緒に帰……」

 言い切らないうちに、鬼ども醜女どもは斃された以上の数に増殖し、一斉に飛びかかろうと腰をかがめた。

「やはり通じませんか、かくなる上は!」

 ズチャ

「………ウ、剣が持ち上がらない……」

「おっちゃん、電池切れぇ(^_^;)」

 数百匹切ったイザナギさんは、それが限界だったのだろうか、もうまともに剣を構えることもできない様子だ。

「無念……これは使う者の体力、気力を一度に出させるようです」

「ここは退くぞ、テル、イザナギ殿に肩を貸せ! 他の者は、立ち向かって時間を稼ぐぞ!」

「「「オオ!」」」

 来る時には気付かなかったけど、黄泉の国は重層的な構造になっている。

 三つ目を上がったところで風を感じた。

「出口が近い!」

 ヒルデが気づき、タングリスは持てるだけの石ツブテをかき集め、他のみんなもそれに倣う。

 ウワワァ~~~ン

 坂道の下の方から鬼ども醜女どもの声が木霊しながら上って来る。

「よし、体力も戻ってきたようです!」

「さすがは神さま、復活が早いぜ!」

「しかし、天叢雲剣はひかえた方がいい。今度は意識が戻らないかもしれん」

「承知しています……オリャアアアア!」

 ドガガガガガガガガガガガガ!

 ヒルデの心配は承知していたようで、イザナギさんは天叢雲剣を鞘ぐるみのままで、周囲の岩肌を削って大量の石ツブテを作った。

「これを投げましょう!」

「「「「オオ!」」」」

 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ!

 再び一層分ほど鬼ども醜女どもを退けたが、数回息を継ぐうちにまた滲みだすようにして満ち溢れてきた!

「くそ、もう上って来やがる!」

 一瞬、天叢雲剣の柄に手をやるイザナギさん。

「イザナギ殿、赤ランプが点いているぞ!」

 見ると、柄頭のところが『危険』の文字を浮かび上がらせて点滅している。

「ああ、もう手の打ちようがありません(#-_-#)」

 さすがのイザナギさんも種切れの様子だ。

「あと一息なのに……」

 ケイトが尻餅をつく。

「オ、オレがなんとかする!」

「なんとかって、桃太郎二号」

 スックと立った桃太郎二号の頬は真っ赤に染まり、見開いた目には涙を浮かべ、ズルリと鼻水まで垂らしているが、それを涙と一緒に拳で拭うと顔の半分を口にして叫んだ。

「オッチャン、いい国作ってくれよな! みんなも元気で!」

 そう言うと、桃太郎は一足飛びに坂の下まで飛び降りた。

「「「「「桃太郎!」」」」」

 一回転して着地すると桃太郎二号は、ニョキニョキと音を立てて一本の桃の木になった!

 ポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワポワ!

 そして、あっという間に鈴なりの桃の実を付けた!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 鬼どもは、あれだけのタケノコを喰らいつくしたというのに、あさましく桃の木に群がって、桃の実を喰らい始める。桃の木は食べられても実を実らせて、鬼ども醜女どもの食欲を満たしていく。

 桃太郎オオオオオオオオオオオ! 

「行きましょう!」

 イザナギさんの言葉に、後ろ髪をひかれながらも、まだ少しむこうの出口を目指す!
 
 みなさーーん! こっちぃー!

 雪舟ねずみとヨネコの声がして岩角を曲がると、すぐそこが出口だ!

 ギガァ! ギガガガ! ギギギィ! ギギギギギギ!

 もう追いついてきた!

 セイ! トー! オリャア! 

 それぞれ力を振り絞って最後の一跳び!

 ズザザザ

 ドサッ

 スライディングしたり前転しながら飛び出すと、イザナギさんは素早く傍らの大岩に取りついて、あっという間に黄泉の出入り口を封じてしまった。

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
 
 
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