上 下
182 / 230

183『淡路の浜でたこ焼きを』

しおりを挟む
RE・かの世界この世界

183『淡路の浜でたこ焼きを』テル 




 やればできるものだ。


 ケイトの言う通り、右足を出して、それが沈まぬうちに左足を出し、左足が沈まぬうちに右足を……という具合に交互に進めて行くと、背後のオノコロジマはアメノミハシラ共々霞の向こうに滲んで消えた。

「これは、淡路島を抜かしてしまって四国に着いてしまったかもしれない!」

 ちょっと興奮気味なイザナギは浜辺の砂をキュッキュと踏みしめながら陸に上がっていく。

「ハァハァ……ヤ、ヤッタア(^▽^)/」

 無邪気なケイトは水上歩行が上手くいったので、足を痙攣させて肩で息をしながらも嬉しそうだ。

 セイ!

 小さく掛け声をかけえてジャンプすると、ヒルデは空中で一回転して地形を確認する。

 ズサ

「わるいがイザナギ殿、ここはまだ淡路島の南端だ。東に進むと水道の彼方に四国の陸地が見えたぞ」

「そうなのか?」

「ああ、生まれて急に広がった世界だから、ポリゴンが足りないのだろう。アメノミハシラは描写が凝っていたからなあ。あちらにポリゴンを食われて間に合わないんだ」

 そう言えば、アメノミハシラは最初こそ寸胴の電柱のようだったけど、イザナギ・イザナミが国生みするころには、青々と葉を茂らせて巨木のようになっていた。あの描写がテクスチャでなく、表皮の凹凸、葉の一枚一枚を造形していたら、その負荷はテラバイト単位になっていただろう。安易に背景の壁紙にしてしまわないところに、この国を作っていく姿勢が現れているような気がする。

「なんだ、そうかあ……」

 現実を知ったテルが、ヘナヘナと砂浜に膝をついてしまう。

「よし、先はまだ長い。オノコロジマでは水も飲まずに出てきてしまった、ここで食事休憩にしよう」

「すまんな、イザナギ殿」

「いやいや、わたしの都合に付き合ってもらっているんだ。それに、こまめに食事休憩をしていれば、自ずと土地々々の産物を使うことになって勉強になるだろうし、この国の発展にもつながるだろう」

「そうか」

「じゃ、お言葉に甘えておこうか」

「うんうん(^▽^)」

「では、こんなもので……えい!」

 イザナギが指を一振りすると屋台が現れた。

「ええと、これは……」

 自分で出しておきながら、何の屋台か分からずにイザナギはインタフェイスのようなものを出してマニュアルを読みだした。

「たこ焼きのようだな……」

「「たこ焼き(º﹃º)!?」」

 わたしとケイトはパブロフの犬のようにヨダレが湧いてくる。

「たことは……」

 北欧の戦乙女には馴染みのない食べ物なので、いぶかし気にマニュアルを覗き込む。

「こ、これはデビルフィッシュではないか( ゜Д゜)!?」

「デビル……?」

「ク、クラーケンだぞ!」

 思い出した。ヨーロッパでは、ごく一部を除いてたこを食べる習慣がないんだ。

 その名もデビルフィッシュ、悪魔の魚と名付けて恐れられている。その巨大な魔物はクラーケンと呼ばれて海上の船さえ襲って海中に引きずり込むと言われている。

「いや、これは美味しいから(o^―^o)」

 ケイトが寄って来ると、早くもまな板の上にタコが実体化してウネウネと動き始めている。

「ヒエーーー!」

 あっという間にヒルデは淡路島の真ん中あたりまで逃げてしまう。

「あ、悪いことをしたかな(^_^;)」

「いやいや、作り始めたら匂いに釣られて出てくるよ、さっさと作っちゃおうよ!」

 たこ焼きモードに入ったケイトは不人情だ。

「じゃ、焼こうか!」

 イザナギが拳を上げると、たちまちタコは賽の目切りのユデダコになり、ボールの中には薄力粉を溶いた中に山芋が投入されて攪拌されていく。 

 やがて鉄板も程よく加熱されて、仄かに油煙も立ち上ってきた。

「いくぞ!」

 ジュワーーーー!

「「おお!」」

 鉄板の穴ぼこに柄杓で生地が流される! 思わず歓声が出てしまう!

「よし、タコ投入!」

「イエッサー('◇')ゞ!」

 嬉々として賽の目切りのタコを投入するケイト。わたしは、言われもしないのにネギとキャベツと天かすと紅ショウガを手際よく投入というか、ばら撒く。

「テルもなかなかの手際だな」

「あ、去年の文化祭で……」

 そこまで言うと、去年、冴子といっしょに文化祭のテントでたこ焼きを焼いたことがフラッシュバックする。

 そうだ、二人の友情を取り戻すためにも頑張らなくちゃ。

 今度こそ。

 しかし、ここは試練の異世界。目の前のミッションに集中しよう!

 ミッションたこ焼き!

 やがて、一クラス分くらいの穴ぼこでグツグツたこ焼きの下半分が頃合いに焼き上がる。三人首を突き合わすようにして揃いの千枚通しでたこ焼きをひっくり返す。

「ちゃんと、バリの部分は中に押し込んでからね!」

「うん、このパリパリのバリが美味しいんだよね(^#▽#^)」

「なんだか、黄泉の国遠征も楽勝のような気がしてきた!」

 たこ焼きというのは、やっぱりテンションが上がる。

 でんぐり返しも二度目に入るころには、タコ焼きを焼く匂いが淡路島中にたちこめて、いつの間にかヒルデも涎を垂らしながら戻ってきた。

「こ、この香ばしい匂いがたこ焼きというものなのか(灬º﹃º灬)?」

「ああ、食べたら世界が変わるよ」

「そ、そうか……」

 ジュワ!

「あ、鉄板の上にヨダレ垂らすなあ(# ゚Д゚)!」

 ケイトが真剣に怒る。

「す、すまん」

 こんなヒルデとケイトを見るのも初めてだ。

「よーし、こんなもんだろ!」

 腕まくりしたイザナギは手際よくトレーにたこ焼きを載せ、わたしがソースを塗って、ケイトが青ノリと粉カツオを振りかける。

「「「できたあ!!!」」」

「おお、食べていいのか!?」

「う……」

 返事をしようと思ったら、すでに手にした爪楊枝で真ん中の一個をかっさらったかと思うと、瞬間で頬張るヒルデ。

 さすがはオーディンの娘! ブァルキリアの姫騎士!

「あ、ヒルデ!」 

「うお! ふぁ、ふぁ、ふ……ぁ熱い(#゚Д゚)!」

 見敵必殺の戦乙女の早業が裏目に出た。

「水を飲め!」

 目に一杯涙をためて熱がるが、それでも姫騎士、口から吐き出すというような無作法はせずに、イザナギが差し出したペットボトルの水を飲みながら、無事に咀嚼して呑み込んだ。

「ああ、死ぬかと思った……」

「どうだった、ヒルデ?」

 ケイトが身を乗り出す。

「ああ、美味かった。国生みの序盤から、こんなものを作るとは、日本の神話も侮りがたいものだ……」

 ヒルデの真剣な感想に、屋台を囲んだ『黄泉の国を目指す神々の会』は暖かい空気に包まれた。

「さあ、我々もいただこうか」

 四人揃ってたこ焼きをいただく。

 淡路の砂浜で食べるたこ焼きは、なんとも豊かな味わいだ。

 美味しいものを食べて、みんな幸せになるのは嬉しいことだ。ムヘンでは、なかなかなかったことだ。

 大変な旅かもしれないががんばろうという気持ちになった。

 その幸福感のせいか……背後の草叢の気配に気づくのが遅れるわたし達だった。




☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・1000 マップ:1000 金の針:1000 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。 やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。 本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。 マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...