上 下
149 / 230

150『進撃NO!巨人!!』

しおりを挟む
RE・かの世界この世界

150『進撃NO!巨人!!』テル 

 


 大神官……?

 
 四号のみんなが驚いた。

 どう見ても十二三歳の少年だ。ヴァルハラの神官でも最年少は三十歳のベルクだ。大神官ともなれば六十歳以下では考えられない。

「よく分かったな、ナフタリン」

「ラタトスクはオーラで区別しているんだ。妖精や聖霊は姿が変わるやつも多くて、見かけで判断していてはメッセンジャーは務まらねえしな」

「そうか、オーラでな……オーラであっても神官の属性が残っているのなら嬉しいことだよ」

「いったい、なにが起こったんだよ?」

「ヨトゥンヘイムは国ぐるみ縮んでしまったんだよ」

「縮んだ?」

「巨人の国であるヨトゥンヘイムは図体が大きいので莫大なエネルギーを必要とする。エネルギーの源泉は、我々巨人族に向けられる畏敬の念だ。それが失われてきて、何とかしなければと考えあぐねているうちにこうなってしまった」

「畏敬の念が失われた?」

「十年くらい前から『進撃する巨人』が流行して、ユグドラシル中で大人気になった。ズシンズシンと地響き建てて進撃する姿、踏み出す足の確かさ、振動、風圧、そこに人々は神を見た。我々は神ではないと互いに戒めてはいたが、いつしか、そう見られることに喜びを感じて進撃することを止められなくなってしまった。しかし、あの図体で歩けば意図せずにモノを壊してしまう。通過する街や村の家々にはヒビが入ったり傾いたり、時には倒壊させてしまうこともある。道路には巨大な足跡が穿たれ亀裂が走る。畏敬は畏怖へと変わり、ついには、ただの怖れになってしまった。我々は、それに気づくのが遅すぎたのだ……気づいた時にはヨトゥンヘイムは遠く彼方、地平線の向こう。帰ることも覚束なくなり、振り返ると、人々は高い塀を巡らし『進撃NO!巨人!』と叫んで拳を振り上げた。畏敬の念どころか怖れと憎しみを向けられ、仲間の多くは巨体を維持することが出来なくなって縮こまって、ついには命を落としていった。そうすると、巨人族揺籃の地、ヨトゥンヘイムそのものも縮み始め、このような有様になった……かいつまんで言うとそういうことだ」

 話し終えると、大神官マシガナは遠くの空に魂を浮かべているような目になった。

 遠く、地の果てで儚くなった同族に想いをいたしているようにも、話の中には籠められなかった熱を放散しているようにも見えた。じっさい、内容は凄惨なのだけど、どこかドラマの解説をしているように冷静にお話をされた。

「ひとつお伺いしてもよいだろうか、大神官殿」

「なんなりと」

「縮んでいった経緯は理解できましたが、若返ってしまうというのはどういうことなのでしょうか?」

 ヒルデの質問はもっともだ、若返ると言うのは、それほど悪いことではないと思う。

「これを見ていただこう」

 大神官が指を動かすと、目の高さに映像が浮かび上がった。

「保育所?」「病院?」

 ベビーベッドが並んでいて、ようやくつかまり立ちできるようになった赤ちゃんから、まだ寝返りもうてないような、でも、いずれも元気そうな赤ちゃんたちが、半分は起きて、半分は可愛い姿で眠っている。

「ようやく進撃することは思いとどまらせたのだが……思いとどまった者たちも、若返りが進行して、もう人に世話をしてもらわないと日常の生活ができないほどに若返っている」

 次に映し出されたのは、病院の新生児室のようなガラス張りの部屋だ。奥には保育器の中で眠っている赤ちゃんも居る。

「なるべく、人と接することができるようにしておるのだが、これ以上に若返ると……」

 次に見えたのは、標本のように液体に漬けられた、へその緒が付いた胎児たちだ。

「戻すべき母体がないので、人工羊水の中に入れている。この先は、ご容赦いただきたい……」

 さすがに言葉も無くなってしまった。

「質問。マシガナさま、神殿の下敷きになっているのは?」

 ロキが手を上げた。

「それは半神の神官だよ」

「「「半神?」」」

「神と人の属性を持った種族で、我々巨人族の天敵だ。我々の衰退に乗じて、このヨトゥンヘイムに現れ、ついには大神官たるわたしを追い出した。半神三傑の一人ノヤ。君たちが、こいつを押しつぶしたのは啓示なのかもしれない……あなたは姫と呼ばれて……主神オーディンの姫君ブリュンヒルデ殿下ですな」

「いかにも、大神官どの」

「やはり……これも何かの縁……というには唐突に過ぎるでしょうが、とりあえず我が家にお運びください」

「しかし、この始末はどうしたらいいのでしょうか。仮にもヨトゥンヘイムの神殿を壊してしまったのですから」

 タングリスが言うと、乗員みんなの目がマシガナに注がれた。

「おまかせを」

 そう言うとマシガナは瓦礫の上に上がって、周囲に呼びかけた。見かけは人の少年に縮んでしまったが、その声は巨人に相応しい大音声だった。

「ヨトゥンヘイムの人々! 神殿を占拠していたノヤが打ち取られた! 打ち取ったのは、主神オーディンの姫君、ブリュンヒルデ殿下であるぞ!」

 ホォーーーーーーーーー

 家々から安堵のため息が立ち上った。



☆ ステータス

 HP:13500 MP:180 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・900 マップ:12 金の針:1000 その他:∞ 所持金:8000万ギル(リボ払い残高無し)
 装備:剣士の装備レベル38(勇者の剣) 弓兵の装備レベル32(勇者の弓)
 憶えたオーバードライブ:シルバーケアル(ケイト) シルバースプラッシュ(テル)
 スプラッシュテール(ブリュンヒルデ) 空蝉(ポチ)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  テルの幼なじみ ペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態
   ペギー         荒れ地の万屋 
 ユーリア        ヘルム島の少女
   ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。 やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。 本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。 マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

プラネット・アース 〜地球を守るために小学生に巻き戻った僕と、その仲間たちの記録〜

ガトー
ファンタジー
まさに社畜! 内海達也(うつみたつや)26歳は 年明け2月以降〝全ての〟土日と引きかえに 正月休みをもぎ取る事に成功(←?)した。 夢の〝声〟に誘われるまま帰郷した達也。 ほんの思いつきで 〝懐しいあの山の頂きで初日の出を拝もうぜ登山〟 を計画するも〝旧友全員〟に断られる。 意地になり、1人寂しく山を登る達也。 しかし、彼は知らなかった。 〝来年の太陽〟が、もう昇らないという事を。  >>> 小説家になろう様・ノベルアップ+様でも公開中です。 〝大幅に修正中〟ですが、お話の流れは変わりません。 修正を終えた場合〝話数〟表示が消えます。

斬られ役、異世界を征く!!

通 行人(とおり ゆきひと)
ファンタジー
 剣の腕を見込まれ、復活した古の魔王を討伐する為に勇者として異世界に召喚された男、唐観武光(からみたけみつ)……  しかし、武光は勇者でも何でもない、斬られてばかりの時代劇俳優だった!!  とんだ勘違いで異世界に召喚された男は、果たして元の世界に帰る事が出来るのか!?  愛と!! 友情と!! 笑いで綴る!! 7000万パワーすっとこファンタジー、今ここに開幕ッッッ!!

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

処理中です...