上 下
64 / 230

64『ノルデン鉄橋』

しおりを挟む
RE・かの世界この世界

64『ノルデン鉄橋』テル  

 


 ノルデン鉄橋は全長八百メートルのトラス式大鉄橋だ。

 
 四車線もある幅広の鉄橋で、西側から単線の鉄道、二車線の車道、一車線分の歩道になっている。

 そのノルデン大鉄橋が目前に迫っている。四車線を覆い、かつ支えている鉄の構造物は、いかにも軍都の入り口に相応しい。

 右手の南側には、その軍都ムヘンブルグ城塞都市。

 一週間前にムヘンブルグの北門を出て、そのまま、この大鉄橋を渡るところをシュタインブルグに行っていた。

 あの時以上に人や車両の動きが盛んだ。軍用車両に民間のトラックなども見えるし、自転車や徒歩で歩道を行く人たちも居る。

 ムヘンは流刑地ではあるが未開の荒れ地ではないようだ。

「北部に限られているようだが、ちょっとした開拓ブームなんだ」

 全開したハッチに寄り掛かりながらタングリスが呟く。短めのボブを川風になびかせて腕組みした姿は宝塚の男役のように景色がいい。けしてマッチョでも大柄でもないのだが、この佇まいの良さは、持って生まれたものと今までの軍歴が尋常なものではないことを物語っている。チャンスがあればケイトも交えて話がしたいが、ま、今少し親しくなってからでないと実のある話はしてくれないだろう。

 ビビ~~~~~

 いかれた玄関ブザーのような音がした。

 橋のたもとの合流点に停車した四号戦車の警笛であると気が付いたのはタングリスの反応だ。

「やあ、また会ったな軍曹」

 それは、一週間前に出会った二号戦車のクルーたちだった。

「あんたらも四号か」

「ああ、あんた曹長に昇進したのか」

 階級章が変わっていた。

「一個だけな。除隊して鍛冶屋でもやるつもりだったんだが、鍛冶屋よりも辺境警備をやれってさ、人使いが荒いぜ」

「こんなところに停車して、なにかの監視任務か?」

「いや、操縦手の交代要員を待ってるんだ」

 開け放った操縦手ハッチに済まなさそうな顔が見えた。

「卑下すんなハンス、お前が移動になれただけでラッキーなんだからな」

 そうだそうだの声があちこちのハッチからする。

「交代要員はまだなんだな」

「ああ、名前も分からん。こんなことまで軍機扱いしなくてもいいのにな」

 ピピピピ……こちらの通信手席に着信音が、受けたブリュンヒルデが何やら受け答えしている。

「その交代要員は、わたしのようです」

 なんとタングニョーストが出てきた。

「軍のやることに無駄は無いようだな。よろしくな、タングニョースト軍曹」

「曹長、あんたの名前は?」

「ルドルフだ、砲手がクリストフ、装填手がデニス、通信手がアデーレ、まあ、おいおい慣れてくれ」

「それはいいが、うちの操縦手は?」

「指示がない、問い合わせてみる」

 ブリュンヒルデがレシーバーを操作する。

「すまんが、先に行く。交代次第出発の命令なんでな」

「ああ、タングニョースト、またな」

 互いに手を振っただけで曹長は四号を発車させた。鉄橋を渡らずに川沿いを東に向かっている、東の道は軍都を迂回して南部の荒れ地に続いている。困難な南部の警備に行くようだ。



「信じらんない!」



 ブリュンヒルデがレシーバーを投げつけた。

「どうしました?」

「交代要員は無し、そっちで都合を付けろって! それもトール直々の、このブリュンヒルデに命令なんてあり得ない!」

「そうきましたか……」

 ポーカーフェイスで一同を見渡すと、頭を掻きながらタングリスは提案した。

「わたしが操縦します。姫が車長をやってください」

「えー! じゃあ、通信手は?」

「ロキ、お前だ。ポチを助手にしてがんばれ」

「オ、オレ?」

「そうだ、お前もなにかの役にたたなきゃな」

 そう言うと、ジャングルジムの中を移動するように操縦席に移った。ヒルデとロキも移動、わたしとケイトはそのままで、四号はイグニッションのスイッチが入った。

 ブリュン! ブリブリブリ!

 ブリュンヒルデの気持ちを代弁するような起動音をさせて四号は八百メートルのノルデン鉄橋を渡り始めた。




☆ ステータス

 HP:2500 MP:1200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・35 マップ:4 金の針:20 所持金:500ギル(リポ払い残高80000ギル)
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)
 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法少女マヂカ

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
マヂカは先の大戦で死力を尽くして戦ったが、破れて七十数年の休眠に入った。 やっと蘇って都立日暮里高校の二年B組に潜り込むマヂカ。今度は普通の人生を願ってやまない。 本人たちは普通と思っている、ちょっと変わった人々に関わっては事件に巻き込まれ、やがてマヂカは抜き差しならない戦いに巻き込まれていく。 マヂカの戦いは人類の未来をも変える……かもしれない。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

外道魔法で異世界旅を〜女神の生まれ変わりを探しています〜

農民ヤズ―
ファンタジー
投稿は今回が初めてなので、内容はぐだぐだするかもしれないです。 今作は初めて小説を書くので実験的に三人称視点で書こうとしたものなので、おかしい所が多々あると思いますがお読みいただければ幸いです。 推奨:流し読みでのストーリー確認( 晶はある日車の運転中に事故にあって死んでしまった。 不慮の事故で死んでしまった晶は死後生まれ変わる機会を得るが、その為には女神の課す試練を乗り越えなければならない。だが試練は一筋縄ではいかなかった。 何度も試練をやり直し、遂には全てに試練をクリアする事ができ、生まれ変わることになった晶だが、紆余曲折を経て女神と共にそれぞれ異なる場所で異なる立場として生まれ変わりることになった。 だが生まれ変わってみれば『外道魔法』と忌避される他者の精神を操る事に特化したものしか魔法を使う事ができなかった。 生まれ変わった男は、その事を隠しながらも共に生まれ変わったはずの女神を探して無双していく

☆レグルス戦記☆

naturalsoft
ファンタジー
僕は気付くと記憶を失っていた。 名前以外思い出せない僕の目の前に、美しい女神様が現れた。 「私は神の一柱、【ミネルヴァ】と言います。現在、邪神により世界が混沌しています。勇者レグルスよ。邪神の力となっている大陸の戦争を止めて邪神の野望を打ち砕いて下さい」 こうして僕は【神剣ダインスレイヴ】を渡され戦禍へと身を投じて行くことになる。 「私もお前の横に並んで戦うわ。一緒に夢を叶えましょう!絶対に死なせないから」 そして、戦友となるジャンヌ・ダルクと出逢い、肩を並べて戦うのだった。 テーマは【王道】戦記 ※地図は専用ソフトを使い自作です。 ※一部の挿絵は有料版のイラストを使わせて頂いております。 (レグルスとジャンヌは作者が作ったオリジナルです) 素材提供 『背景素材屋さんみにくる』 『ふわふわにゃんこ』 『森の奥の隠れ里』

付与術師の異世界ライフ

畑の神様
ファンタジー
 特殊な家に生まれ、”付与術”という特殊な能力を持つ鬼道(きどう)彰(あきら)は ある日罰として行っていた蔵の掃除の最中に変なお札を見つける。  それは手に取ると突然輝きだし、光に包まれる彰。  そして光が収まり、気がつくと彼は見知らぬ森の中に立っていた―――――― これは突然異世界に飛ばされた特殊な能力”付与術”を持つ少年が 異世界で何を思い、何をなすことができるのか?という物語である。 ※小説家になろう様の方でも投稿させていただいております。

処理中です...