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080『ダイダラボッチ・1』

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漆黒のブリュンヒルデ

080『ダイダラボッチ・1』 

 

 
 山が泣いているのかと思った。

 オーーン オーーン オーーン オーーン

 着いたとたんに空気も地面も震えているのだ。ブルブルと頭まで振動し、真っ直ぐ立っていられないほどだ。

「ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……ア……:;(∩´﹏`∩);:」

 振動のあまり言葉が出ない。

「ちょっと浮かせてやろう」

 クロノスが指を振ると、五センチばかり足が浮いて、地面からの振動は受けなくなった。

「すまない、体がバラバラになるかと思った……自信と台風がいっしょに来たみたいだなあ(^_^;)」

「ダイダラボッチが泣いているんだ……ほら、おまえの後ろ」

「ダイダラボッチ……?」

 振り返っても、すぐには分からない。振り向いた目の前は茶褐色の崖が聳えているだけなのだ。

 今度やってきたのは、亜熱帯かと思うほど暖かくて、ちょっとしたジャングルかと思うほどの緑がひろがって、ちょっと向こうの青い海に続いている。

「一万年前のつくば市のあたりだ、海進期の縄文時代で、海岸線が近くなっている」

「それで、ダイダラボッチというのは?」

「ダイダラボッチ、いい加減に泣き止んで、こっちを向け」

 クロノスは、崖の上の方に呼びかけるが、崖は相変わらずオーーン オーーン と振動しているばかりだ。

「仕方がない、ちょっとついてこい」

 オイデオイデするクロノスに続いてフワフワ飛び上がって崖の向こう側の山の頂に場所を変える。

 
 な、なんだ、こいつは!?

 
 目の前には崖のこっち側。そのこっち側にとてつもなく大きな鬼の首がある。

 いや……首の下は着や草が生えてはいるが振動が首と同期している……って、こいつの体なのか!?

「そうだ、これ全体がダイダラボッチなのだ。図体はデカイが気のいい奴だ、で、気も優しいから、穏やかに話してやってくれ」

「話って……こんな化け物に何を話せばいいんだ?」

「とりあえず、泣き止ませることだな。いつまでも宙に浮いているわけにもいかんからな」

「なんでわたしが……分かった、話せばいいんだな」

「くれぐれも、優しくな」

「ああ、って、どこへ行くんだクロノス!?」

「ちょっと疲れたんでな、ちょっと息をつかせてくれ……」

「お、おい!」

 取りつく島もなくクロノスは消えてしまった。

「仕方のない爺だ……おい、ダイダラボッチ、泣き止んで質問に答えろ」

「ウオ?」

 やっと、こちらの存在に気が付いて顔を上げる……意外に可愛い目をしている。

「とりあえず、泣くのをやめろ。お前が泣くと地震と台風が一度に来たようになるんだ!」

「こ、こわい……」

 怯えたかと思うと、またしゃくりあげそうになる。

「わ、分かった分かった、優しく言うから、な」

「ウッ……やさしくしてくれる?」

「あ、ああ(n*´ω`*n)、おねえちゃんは、これでもお姫さまだからな、だからね(^▽^)/」

「お姫さまあ?」

 シャキーン!

「主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将、堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 我が名はブリュンヒルデなるぞ!」

 思わず、いつもの名乗りをしてしまった。

 ウ、ウワーーーーーーン! 

 ダイダラボッチはドシンドシンと震度7の地響きを立てて群馬県方向に逃げて行ってしまった。

 

 
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