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076『利根4号機・5』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
076『利根4号機・5』
敵空母艦隊への攻撃が決まったのは、利根四号機が三度目の索敵情報を伝えた時だ。
『敵空母より攻撃機多数が発進しつつあり、敵攻撃隊の進路は……』
利根四号機の報告は敵攻撃隊が真っ直ぐ南雲艦隊を目指していることを示している。そして、この時点になると他の艦の索敵機も同海域に到着し、利根四号機と同じ報告をあげてきた。
事態は明らかになった。南雲の航海参謀が天測をあやまり、実際よりも150海里も離れた位置に固執していた。利根の航海士の方が正しかったのだ。
南雲は航海参謀を責めることもせず、ただ、攻撃隊の装備を艦船攻撃用に切り替えろと命じた。
バカか!
すでに敵艦隊からは攻撃隊が発進してしまっている。こちらの準備が整はぬうちに攻撃が加えられれば、一方的に叩かれるのは南雲艦隊だ。緊急退避のためにも飛行甲板は空にしなければならない。
『兵装転換急げ!』
赤城の艦橋からは兵装転換を急かせる檄が飛ぶばかりである。
「無能なやつらだ!」
利根四号機の発進を間に合わせてやったが、結果は変わらない。このままでは、高い確率で日本艦隊は壊滅する。
利根に戻るか。
「おまえのコンパスは間違っていなかったな」
航海長が航海士に声をかけただけだ。
赤城の幕僚たちを非難する声は、それ以上に上がることは無かった。
「対空警戒を厳となせ、対空戦闘配置、面舵フタジュウ、艦を赤城の左舷に寄せよ。赤城をまもる」
艦長は落ち着いた声で転舵を指示、操舵主の兵曹が「面舵フタジュウ」を復唱、利根は面舵を切った反動で少し左舷に傾いた。それにつれて右舷対空見張り員の双眼鏡が五度ばかり上を向いた。
「赤城直上に敵機! つっこんでいく!」
艦長たちの双眼鏡が赤城に向けられる。赤城の飛行甲板は兵装転換の真っ最中だ。
直後、赤城の飛行甲板に着弾、火の神ロキが立ち上がったような火柱が立った。
ズッゴーーーーン! ズゴゴゴーーン! ズゴーーーン!
あっという間に、むき出しの魚雷や爆弾に引火して、赤城の飛行甲板は紅蓮の炎に包まれる。
「四号機の発進を間に合わせても結果はかわらないか……」
ミッドウエー海戦は史実通りに日本海軍の敗北で終わろうとしていた。
肩の力が抜けるとフッと立ち眩みに似た浮遊感に襲われ、貧血を起こしたように視界が暗くなっていった。
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