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068『武笠の家が無い』 

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漆黒のブリュンヒルデ

068『武笠の家が無い』 

 

 
 食われてたまるか!

 
 間一髪のところでチョコモナカジャンボを避ける。

 不意を突いたわりにはチョコモナカジャンボにスピードは無い。チョコの飛沫がピピっと頬にかかる。

 そうか、焼きすぎて中身のチョコまで溶かしてしまったのか。祖母がタイマーを掛け間違ったか……しかし、それが油断だった。

 避けたところを、もう一つのチョコモナカジャンボが迫って来る!

 グワーーーッ!!

 両腕を顔の前でクロスして目を庇う。 

 まともに溶けたアイスやチョコを被っては目をやられる、目さえ開いていれば的確な反撃ができる。

 左へ飛びながら体を二回転させて着地、感覚では開いているサッシから飛び出て庭に着地するはずだ。

 ズサ!

 確かに土の上に着地した。

 よし!

 振り返ると……家がない。

 え?

 近所の景色はそのままに、うちの家だけが消えてしまい百坪ほどの敷地は更地になっている。

 そして、時間が停まっている。

 着地で巻き上げた土や草、驚いて飛び立ったんだろう雀たちも、上空を飛んでいたヘリコプターも静止したVRの画面のようになっている。

 そして、なによりも敵であるチョコモナカジャンボの姿が無い。

 
「やられたね」

 
 敷地の前の道に大出井老人が立った。

「大出井さん……」

「すまん、ミミックの動きが速すぎた」

「やっぱりミミックだったんですか」

「わたしもホワイトミミックを持ってきていたんだけどね、ほら、武笠のお爺ちゃんに持たせたアイスたちがそうだったんだがね、間に合わなかった」

「大出井さん、あなたは……?」

「まだ分からんか」

 そう言うと大出井老人はツルリと顔を撫でた。

 それは、懐かしくもおぞましい、ブァルハラの主神にしてわが父である主神オーディン……!?

「なんで父上が……?」

「苦労しているようだな」

「ああ、しかし、この異世界での役割も見えてきた。なんとかやっている」

「なんとかではないだろう、今もミミックに呑み込まれて、こんな次元の狭間に飛ばされてしまった」

「ここは次元の狭間なのか?」

「ああ、なりそこないの世界、処理落ちして時間が停まってしまっている」

「うちの家は?」

「この世界では武笠家は存在しないんだ」

「どういうことだ?」

「ちょっと説明がいる……地べたに座っていては落ち着かん」

 オーディンが指を動かすとベンチが現れた……。
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