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056『煙が立たない(;゜Д゜)』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
056『煙が立たない(;゜Д゜)』
学校を出て二三分もすると世田谷八幡と豪徳寺の緑が重なって見えてくる。一見一つの森のように見えるのだが、東急世田谷線を挟んで別々の緑だ。
下校時間に通ると、たいてい二つの緑の間にのどかな煙が立ち上っている。
オキナガさんかスクネ老人が落ち葉を焼いている。たいてい芋が仕込まれていて「ひとつどうよ」と勧められて立ち話になる。この「ひとつどうよ」に付き合って話し込むと、いつのまにか陽が西に傾き果てている。
もう少しで鳥居というところまで来ても煙が見えない。
「お休みなのかニャ?」
トテトテとねね子は駆けだして鳥居の内に消えた。
玉代と二人で鳥居前までさしかかると、いつもの所でスクネ老人とねね子が、しゃがんで焚火の火を起こしている。
「ひるで、火が点かないのニャ」
「おう、ひるで殿、そちらは荒田神社の玉依姫さまでございますな」
「初めまして、ここじゃ、どうぞ『玉代』て呼びたもんせ」
「これはこれは、わたしは世田谷八幡の守をいたしておりますスクネでございます、よろしくお見知りおきのほどを」
「火が点かんな煙がたちもはんねえ」
「はい、煙が立たなければ、八幡の煙回廊ができません。全国の八幡と連絡がとれなくなってしまいます」
「オキナガさんは、朝のうちに煙街道で出かけて行ってしまったらしいニャ」
「これでは帰ってこれなくなるなあ」
「おいがやってみましょうか、桜島ん力を被うちょっで、火起こしは得意じゃっで」
「おう、そうだ、荒田八幡は鹿児島でしたなあ」
「そいでは……」
玉代は忍者のような印を結ぶと、なにやら祝詞めいたものを口ずさみ、枯葉の山に気を放った。
「チェスト―!」
ボン!!
一瞬で爆発的に火が点いたが、枯葉の山は一瞬で燃え尽きてしまった。
「煙が出る暇もなかったわよ……」
「チェスト―はやりすぎだニャ」
「すみもはん、もう一度枯葉を集めてもれもはんか?」
「枯葉ならいくらでも……」
瞬くうちに枯葉が集められ、玉代は控え目に印を結んだ。
「チェ……」
ボシュ!
派手さは無いが、フラッシュを焚いたくらいの光を発して燃え尽きた。
「完全燃焼しているニャア」
「もう一度(^_^;)」
三度枯葉が集められる。
今度は印も結ばず、目を細めて息を凝らす。
「スクネさん、じつは、今朝から名前を忘れそうになっている者が増えているんだけど、ここの火が点きにくくなっていることと、関りがあるのではないだろうか? それをオキナガさんに相談したくてきたんだが」
「それは姫も感じておられました、じつは、そのことを調べに煙街道に上っていかれたのですよ」
「それなら、なんとしても火を起こさなければ」
「あ、点いたニャ!」
点くには点いたが、ともすると完全燃焼気味で煙が立たない。玉代は、さらに目を細め息を潜めて力を調節する。
「こいでどうだ……」
「「「おおーー」」」
いささか不安定だが、ブツブツとまとまった量の煙が立ち始めた。
ボボボボ……プスン……ボボボボ……プスン……ボボボボ……
「あ、なにか降りてくるニャ!」
「おお、姫が!」
手ごたえはあった。
トン トン トトン トン…………
飛び石を飛ぶような音が頭上に聞こえた。
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