上 下
53 / 84

053『……ハメられたか?』

しおりを挟む

漆黒のブリュンヒルデ

053『……ハメられたか?』 

 

 
 鹿児島からやってきた従姉妹ということになった。

 
 天文館高校の同級生という設定で一日行動を共にしたが、張り切る度に桜島を噴火させてしまうので、とても鹿児島には置いておけない。

 そこで、わたし武笠ひるでの従姉妹という触れ込みで、豪徳寺の家に同居して同じ学校に通うことになったのだ。東京にも21の火山があるが、都心から遠く離れた島しょ部の火山なので、噴火させることはなさそうだ。

 ちょっと広くなってない?

 一階のリビングは、その気になればビリヤードができそうなくらいになっていたし、二階のわたしの部屋の隣には同じ間取りの玉代さんの部屋が出来ていた。

「はい、玉ちゃんにも同じリュック作っといたわ」

 お祖母ちゃんが、誕生日にわたしにくれたのと同じリュックを玉代に渡した。

「あいがと、お祖母ちゃん。大切に使いもす!」

 適応レベルを下げてあるので、ちょっと鹿児島弁が残ってる。

「この際だから、表札も新調しておいたよ。掛けてきてくれるかい」

 なんとお祖父ちゃんは表札まで作り直している。玉ちゃんの名前だけ書き足したら『ワケアリ』って感じになってしまうから、これも正解だ。

 よし!

 表札も一新し、先に振り返った玉ちゃんが別のものに注目した。

「ねね子ちゃん!」

 なんと、お向かいの啓介の部屋の窓でねね子が頬杖突いて、見下ろしているではないか。

「ヤッホー! いま行くからね! ニイニもたまには……」

 なにか妙なことを言いながら消えると、アイスを三本もって玄関から出てきた。

「はい、食べながらトークしよ!」

 アイスをくれると、自分もぺろぺろやり始める。

「なんで、ねね子がお向かいにいるんだ?」

「表札に名前が書いてあっわ!」

 玉ちゃんの視線を追うと、お向かいの表札。ご主人とおばさんと啓介に並んで『寧々子』と書いてある。

「一足先に替えたのよ」

「おまえ、住み着くのか?」

「やだなあ、ひるでったら、ねね子はずっと昔からひるでのお向かいだよ(^▽^)/」

「ねね子、ネコ語の訛もないんだなあ」

「なんでネコ語? ちょ、なにすんのよ!?」

 スカートをめくっても尻尾の痕跡もないし、ヘッドロックをかましてもネコミミを格納した様子もない。

「あ、二階に男ん子がおっ!」

「あいつ、引きこもってるから、めったには出てこないよ」

「そうと……なんかもってなか」

「なんか、玉ちゃんのギャップって可愛いよ」

「あは、そう、あいがと(^▽^)/」

 なんで、これだけの変化を自然に受け入れられてるんだ?

 
 視線を感じて振り返ると、曲がり角の所にスクネ老人が頭を掻きながら済まなさそうにお辞儀する。

 
 どうやら……ハメられたか?

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

東京カルテル

wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。 東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。 だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。 その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。 東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。 https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

処理中です...