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036『琥珀浄瓶・3』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
036『琥珀浄瓶・3』
わたしが相手をしよう!
背後から声がした!
虚を突かれた格好になって、反射的に急降下するとともに頭上をに目をやると、群雲の尾を引き、白馬に跨り、琥珀浄瓶の眼前に躍り出る姿が見えた。
赤地錦の直垂に金小札緋縅の大鎧に身を包み、兜は被らずに利剣の前立打った金冠を頂き、螺鈿の長刀を風車のように振う女武者……え……おきながさん!?
日ごろのおきながさんは、生まれた時から作務衣に軍手姿で焼き芋を焼いているのではないかと思うおばさんだが、この出で立ちは、一緒に正月の記念写真を撮っていなければ気づかないほどの凛々しさだ。
「姫! なりません!」
スクネ老人が馬腹を蹴ると、おきながさんは長刀を琥珀浄瓶の真中に擬したまま、静かに、しかし、良く通る声で命じた。
「東京には七十一の基地局がある、電源を喪失させれば機能を喪失させられる、確実で復旧も簡単。二人で手分けして。その間、こやつを足止めしておく」
「しかし、姫おひとりでは!」
「三日ほどは支えられるが、その先は分からん。三日のうちに琥珀浄瓶を倒すすべを考えよ。もしもの時は和子(わこ)を頼むぞ」
「姫!」
「ひるでさん。あなたは、こんなことの為に来たんじゃないのに、苦労を掛けるわね。これを受け取って」
後姿のままおきながさんが放ってよこしたのは、黒鉄の勾玉だ。
「これは……」
セイイイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーッ!
問いには応えず、おきながさんらしい吶喊の声をあげ、まっしぐらに琥珀浄瓶の中心に突っ込んだ!
「姫えっ!」
「おきながさあああああん!!」
ズゴゴゴゴゴオオオオオオオン!!
真ん中が閃光を発したかと思うと、数瞬身もだえして、琥珀浄瓶その動きを停止させた。
「姫…………」
「いくよ、すくねさん!」
スクネ老人を促し、東京を東西から巴のように周って、数分の内に基地局の電源を落としていった。
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