35 / 84
035『琥珀浄瓶・2』
しおりを挟む漆黒のブリュンヒルデ
035『琥珀浄瓶・2』
琥珀浄瓶(こはくのじょうへい)とは中国の六道仙人が持つ宝具の一つで、西遊記では金閣魔王の持ち物とされている。金閣は琥珀浄瓶の蓋を開けて敵の名を呼ぶ。うかつに返事をすると、たちまちのうちに瓶の中に吸い込まれ、数刻の内に溶かされ、金閣の酒にされるという恐ろしい武器である。
その琥珀浄瓶が不定形の真ん中で不規則に漂っている。
琥珀浄瓶の口は開かれて、金魚の口のようにフワフワと不定形の中身を呼吸している……吸っては吐き出し、吐き出しては吸っている。
「あれは人の名でござるぞ!」
目を凝らすとスクネ老人の言う通りだ。
習近時 李光沢 連戦 陳明女 荘玄沢 毛仁善 蒋介岩 金美華 孫御嬢 石電析 周恩沢 林即足……
全て漢字で、苗字は、ほとんど例外なく一文字、名前は二文字……中国で取り込まれてしまった人たちの名前だ。
「七色(赤・橙・黄・緑・青・藍・紫)だが……よく見ると吐き出されるに従って色が変わっているのではないか?」
「いかにも、赤を吸っては橙に、橙を吸っては黄色、黄色を吸っては緑……」
「……紫は……?」
赤に戻ればループして増減はない……しかし、紫色の氏名は呑み込まれたまま戻ってくることが無い。
「七段階に分けて呑み込んでいるのか……」
「赤が少なくはないか?」
「いかにも、おそらくは赤が最初の形態で、吸引の度に色が変わるのは少しずつ養分を吸収しておるためでござろう」
「こいつ、中国で飽き足らずに日本にやってきたのか?」
「そのようでござるな、僅かではござるが、漢字二文字の姓が混じっております」
「それは日本人の氏名だ、倒さねばならないぞ」
「スクネは左回りに攻めまする、ひるで殿は右回りに攻められよ。それがしが穴をあけまするによって、ひるで殿は、剥き出しになった刹那を捉えて琥珀瓶を攻められよ!」
「心得た!」
雲を蹴ると、それぞれ左右から巻き取るように不定形を攻めにかかった!
ビュン! ズサ! ビュン! ズシ! ビュン! ザシ!
突と斬の小気味いい音が続いた。
スクネが矢を射てビュン! わたしが切りかけてズサ! ズシ! ザシ!
霊魔や妖は一方向からの攻撃には強い抵抗力を見せるが、複数の方角からの攻撃、特に左右逆回転からの攻撃には弱い傾向があるようだ。
琥珀浄瓶も同様で、攻撃を加えるたびに七色の氏名を吐き出して動きを止める。
しかし、停止しているのは数瞬の事で、直ぐに元の力強さを取り戻してしまう。
「こいつ、少しづつ赤を取り戻してはいないか」
「ひるで殿、下を御覧なされ! 日本人の氏名が上って来ますぞ!」
「どいうことだ!?」
「分かりませぬ、呼ばれて返事をしなければ取り込まれることはないはず」
攻撃は繰り返しながらも地上の様子に注意を向ける。
見ると、氏名が湧き出てくるのは、いくつかのポイントが中心になっていることが分かる。
「あれは……」
「……携帯電話の基地局でござる!」
「そうか、琥珀浄瓶はスマホを通じて氏名を集めているんだ!」
「基地局を停めねばなりませぬな」
「しかし、基地局にかかずらっていると、こいつの相手ができなくなる」
「南無三……」
序盤で立ち往生してしまった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
窓際の交錯
K.N.
恋愛
成瀬康汰(なるせ こうた)、27歳。
都内のIT企業で働く彼は、今年1月から虎ノ門の本社勤務となり、静かな日常を過ごしていた。
ビルの10階で働く康汰は、仕事以外に大きな刺激もなく、昼食を取ることも稀だった。ただ、時折1階のカフェに足を運び、窓際の席で小説を読みながらコーヒーを楽しむことが、珠の息抜きになっていた。
一方、同じビルの6階で働く23歳の小牧月香(こまき るか)。
彼女もまた、同じカフェで時折パニーニを頬張っていた。普段は週末に作り置きしたお弁当を持参する彼女だったが、うっかり忘れてしまった時には、カフェに足を運んでいた。
ある日、混雑するカフェの中、窓際の席に腰掛け小説を読んでいた康汰の前に一人の女性がふと現れた。
見覚えのある彼女に驚きながらも、康汰は気づかぬふりをしていたが、彼女は微笑みかけながら言った。
「こんにちは!」
それが、康汰と月香の初めての会話だった。日常の中で交差する二人の人生が、静かに動き始める。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
雷命の造娘
凰太郎
ホラー
闇暦二八年──。
〈娘〉は、独りだった……。
〈娘〉は、虚だった……。
そして、闇暦二九年──。
残酷なる〈命〉が、運命を刻み始める!
人間の業に汚れた罪深き己が宿命を!
人類が支配権を失い、魔界より顕現した〈怪物〉達が覇権を狙った戦乱を繰り広げる闇の新世紀〈闇暦〉──。
豪雷が産み落とした命は、はたして何を心に刻み生きるのか?
闇暦戦史、第二弾開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる