上 下
8 / 84

008『ひるでの朝』

しおりを挟む
漆黒のブリュンヒルデ

008『ひるでの朝』 

 

 

 行ってきまーす。

 
 きちんとリビングのドアを開けて、NHKのニュースを見ている祖父母に声をかける。

 家族に限らず、人間関係の基本は挨拶だ。ひるではキチンとしている。

「「行ってらっしゃ~い」」

 祖母は笑顔を向けて、祖父は新聞に目を落としたままの横顔で返事してくれる。小学校から変わっていない(設定の)武笠家の習慣。

「よし」

 玄関の鏡で身だしなみチェック。小さな声だけど、リビングには聞こえている。こういう変わらない習慣が人の生活には大事なんだ。

 カランコロン

 カウベルの音をさせ、七つの枕木を踏んで門を出る。

「「おはようございます」」

 お向かいのおばさんと挨拶を交わす。

 門脇さん。

 高校に進んでからはあまり顔を見かけなくなった息子の啓介が中学まで同級だった。二階の窓からチラ見していることは分かってる。たまに目が合った時は口の形だけで「バカ」とか「ネボスケ」とか言ってやる。これもコミニケーション。

 道を突きあたると豪徳寺の塀。

 生徒会をやっていたころは右に曲がって最短コース。今は左に折れて下校の時と同じ道。

 塀の上を白猫が歩いてる。

『おまえだろ、わたしを、この異世界に連れてきたのは』

 白猫は、知らん顔して歩調を保っている。

『デハで目覚めるまでは記憶が飛んでるんだけど、踏切で出会ったし、おまえの雰囲気、この異世界のものじゃないしな』

『さすがは、主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将、堕天使の宿命を負いし漆黒の姫騎士』

『その名乗りは、ここではしない』

『にゃあ』

 宙返りしたかと思うと、白猫は、わたしの横に並んだ。啓介に化けている。

「ちょっと、啓介はまだベッドの中だぞ」

「アベックの方が面白いと思ったんだが」

「ダメだ」

「それにゃあ……」

 再び宙返り、今度は同じ高校の女子生徒。

「こんな子は知らないぞ」

「適当に化けたにゃ、この姿で話しかけるから。よろしくにゃ」

「なんでネコ訛?」

「かわいいからにゃ(^▽^)/」

「あんまり、近寄るな」

「つれないのにゃ、先輩」

「おい、下級生か? だとしたら、リボンの色が違う」

「あ、そうだったにゃ」

 リボンが一年の学年色のエンジに変わる。

「踏切に着くまでには消えてくれ、あそこからは生徒が増える。制服を着ていても不審に思われる」

「つれないのにゃあ」

「おちょくるために変身したんじゃないだろ」

「そうそう、用件なのニャ」

「早く言え」

「ときどき妖(あやかし)とかが現れるのニャ。適当に相手してやって欲しいニャ」

「シメればいいんだろ」

「臨機応変なのニャ」

「気分次第だな」

「反抗的なのニャ」

「そろそろ踏切だぞ」

「分かってるニャ、もひとつニャ」

「さっさと消えろ」

「このアバターの名前つけて欲しいニャ」

「……猫田ねね子」

「マンマにゃあヽ(`Д´)ノプンプン!」

 
 張り倒してやろうかと思ったが、踏切が見えてくると消えてしまった。

 異世界生活の二日目が始まった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

処理中です...