上 下
45 / 50

45[小惑星ピレウス・2]

しおりを挟む
宇宙戦艦三笠

45[小惑星ピレウス・2] 修一  




「間もなく完全惑星直列。一時間でピレウスに着けば、見つかる可能性はないわ」

 舵輪を握りなおして樟葉が呟く。

 俺たちは、完全に惑星が直列になるのを待っていた。それが今、グリンヘルド、ピレウス、シュトルハーヘンの三ツ星が串刺し団子のように一列になりかけている。惑星直列に成れば、三つの惑星の磁場が影響して直列の垂直方向に盲点ができるらしい。一番発見されにくい瞬間だ。


「最大戦速10分。あとは慣性速度でピレウスに到達」

「周回軌道に入ったら発見されてしまうわ」

「周回軌道は1/6周で、ピレウス火山風上の森の中に着陸」

「針の穴に馬を通すようなものね」

「樟葉の腕を信じてるよ……」

「横須賀に帰ったら、ホテルのスィーツバイキングおごりね……クレア、目的地までアナログでいくから」

 アナログ……さすがに息を呑んだが口にはしない。

 言われたクレアだけが小さく聞き返した。

「大丈夫……?」

「デジタルのオートだと、0・005秒惑星直列から外れる。発見される恐れがあるわ。トシ、出力は最大戦速9分45秒。それ以上だと、エネルギー残滓を検知される。いいわね」

「分かりました。タイミングだけはきっちり教えてください」

 トシは、死んだ妹を思った。自分が気づいてやるのが、もう少し早ければ、妹は死なずにすんだ……。

「発進まで10秒……」

 ブリッジの全員がデジタルカウンターを見つめた。5秒でトシは目をつぶり、カウンターではなく樟葉の呼吸に集中した。これに成功すれば、妹が生き返る……そんな妄想が頭を占めた。



「5……4……3……2……今!」



 三笠のクルーの心が一つになった。完全なタイミングで三笠は発進した。

「…………うまくいきました! 三笠の発進エネルギーの残滓は探知レベル以下、着地点は目標から30メートルずれただけです。デジタルでも、ここまで正確にはいきません!」

 クレアが感動の声で賞賛した。

 偶然だけど、目標地点は地面の傾斜角が30度もあり、そこに着地していれば三笠は転覆していたかもしれないことが分かった。ブリッジの窓から見える風景は、地球で言うカンブリア紀のようで、周囲の木々の高さは十分に三笠を隠していた。


 そのまま三日が過ぎた……なんの変化もなかった。


 ピレウスの森は原始のジャングルのように鬱蒼としていたが、予想していた生物の反応は無かった。外からの観察では人類以外の生物の反応はあったのだ。そして、この三日、植物系以外の生命反応は無い。

「三笠にも、みんなにも劣化や老化の兆候がありません……」

 トシが、首を捻りながら呟いた。

「三笠にバリアーが張ってあるからじゃないの」

「この程度のバリアーなら、ピレウスの滅んだ文明にもあったと思います。このジャングルの下にはピレウス古代文明の軍事基地の残滓があります。ジャングルに覆われているので比較的劣化が遅いので、技術レベルが分かります」

 クレアが、三笠の下の軍事基地の残滓をモニターに写した。残滓からでもかなり進んだ文明の様子が読み取れた。

「火山の方角から生命反応。微弱だけれど……人間よ!」

 その人間は、ピレウス火山を背に、ゆっくりと三笠に近づいてきていた……。



☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

トモコパラドクス

武者走走九郎or大橋むつお
SF
姉と言うのは年上ときまったものですが、友子の場合はちょっと……かなり違います。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...