73 / 100
73『松ネエの傷跡』
しおりを挟む
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
73『松ネエの傷跡』小菊
松ネエはお医者さんに叱られた。
叱られたと言っても病院のお医者さんじゃない、ホームドクターの薮中先生だ。
腐れ童貞が付き添って退院して来た時には、もうヘロヘロだった。
「気が利かないわね、どうして病院で診てもらわなかったのよ!」
松ネエに肩を貸しながら言ってやった。だって、この様子じゃ病院を出る時から不調だったに違いない。
「すまん」
こういう時に言い訳しないのは認めてやるけど、どうして口が笑っているんだ!
本当に笑っているわけじゃないことは分かってる。ω口が生まれついてのものだということも分かってる。
でも腐れ童貞はショーモナイ奴だ、高校三年にもなったら自分の顔に責任持てよな。
兄妹だから、あたしも似たような口元だけど、あたしのはチャームポイントになっている。悲しいときや腹立つ時は、ちゃんとそういう表情になる。ほんとうにショーモナイ男だ!
「わたしが無理を言ったからだよ……」
こんな時にも松ネエは人を庇う。こんなにもいい松ネエが、こんなひどい目に遭うなんて……悔し涙がこぼれてくる。
夕方に、お祖父ちゃんが車で薮中医院に連れて行った。
「無茶だよ、一週間は安静!」
薮中先生は診察半ばで宣告した。
それまでに「若いと言って過信しちゃだめだ」とか「術後で体が弱ってるんだから」とか、九十過ぎとは思えない馬力で叱っていた。
「コウちゃんも気を付けてやらないとな」
コウちゃんとはお祖父ちゃんのこと。コウちゃんは、しきりに頭を掻いている。薮中先生にかかるとお祖父ちゃんも、まだまだハナタレ小僧だ。
先生は、松ネエの背中と首筋を摩って薬を出した。
「このマッサージは、我が医院の秘伝でな、親父のころは宮さまにも施してさしあげたそうだ。緊張をほぐして五臓の機能を整えて血流をよくするんだ……よし、このくらいか……お風呂には入っていいけど半身浴、傷口を浴槽に浸けちゃダメだからね」
家に帰って、松ネエは一晩眠った。先生が摩ったのが効いたのかもしれない。
朝になっても松ネエは起きてこなかった。
いちおう部屋を覗いて、穏やかに寝息を立てているのを確認。
昼休みにはメールが来た。
―― いま目が覚めたとこ、熱も下がりました。昨日はありがとう ――
ひと安心(^_^;)。
増田さんと食後のお茶を飲んでいたら、またメール。
―― 今日は久々にお風呂に入りたいので、よかったらいっしょに入ってくれる? ――
入院中はお風呂に入れない。お風呂に入りたい気持ちはよく分かる。
夕食後、松ネエのお風呂に付き添う。
いっしょに入るなんて小学校以来、ちょっと懐かしい。
でも懐かしさなんて、服を脱ぐだけで辛そうな顔を見ていると吹っ飛んでしまう。
身体を洗ってあげて、マジマジと見てしまった傷跡。赤いムカデが貼りついたように見えるのは縫った跡だ。
この傷は一生残るんだろうなあ……そう思うと目が熱くなってきた。
「アハハ、菊ちゃんが泣くことないじゃない」
笑顔は、もういつもの松ネエだった。
とりあえずよかった!
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
73『松ネエの傷跡』小菊
松ネエはお医者さんに叱られた。
叱られたと言っても病院のお医者さんじゃない、ホームドクターの薮中先生だ。
腐れ童貞が付き添って退院して来た時には、もうヘロヘロだった。
「気が利かないわね、どうして病院で診てもらわなかったのよ!」
松ネエに肩を貸しながら言ってやった。だって、この様子じゃ病院を出る時から不調だったに違いない。
「すまん」
こういう時に言い訳しないのは認めてやるけど、どうして口が笑っているんだ!
本当に笑っているわけじゃないことは分かってる。ω口が生まれついてのものだということも分かってる。
でも腐れ童貞はショーモナイ奴だ、高校三年にもなったら自分の顔に責任持てよな。
兄妹だから、あたしも似たような口元だけど、あたしのはチャームポイントになっている。悲しいときや腹立つ時は、ちゃんとそういう表情になる。ほんとうにショーモナイ男だ!
「わたしが無理を言ったからだよ……」
こんな時にも松ネエは人を庇う。こんなにもいい松ネエが、こんなひどい目に遭うなんて……悔し涙がこぼれてくる。
夕方に、お祖父ちゃんが車で薮中医院に連れて行った。
「無茶だよ、一週間は安静!」
薮中先生は診察半ばで宣告した。
それまでに「若いと言って過信しちゃだめだ」とか「術後で体が弱ってるんだから」とか、九十過ぎとは思えない馬力で叱っていた。
「コウちゃんも気を付けてやらないとな」
コウちゃんとはお祖父ちゃんのこと。コウちゃんは、しきりに頭を掻いている。薮中先生にかかるとお祖父ちゃんも、まだまだハナタレ小僧だ。
先生は、松ネエの背中と首筋を摩って薬を出した。
「このマッサージは、我が医院の秘伝でな、親父のころは宮さまにも施してさしあげたそうだ。緊張をほぐして五臓の機能を整えて血流をよくするんだ……よし、このくらいか……お風呂には入っていいけど半身浴、傷口を浴槽に浸けちゃダメだからね」
家に帰って、松ネエは一晩眠った。先生が摩ったのが効いたのかもしれない。
朝になっても松ネエは起きてこなかった。
いちおう部屋を覗いて、穏やかに寝息を立てているのを確認。
昼休みにはメールが来た。
―― いま目が覚めたとこ、熱も下がりました。昨日はありがとう ――
ひと安心(^_^;)。
増田さんと食後のお茶を飲んでいたら、またメール。
―― 今日は久々にお風呂に入りたいので、よかったらいっしょに入ってくれる? ――
入院中はお風呂に入れない。お風呂に入りたい気持ちはよく分かる。
夕食後、松ネエのお風呂に付き添う。
いっしょに入るなんて小学校以来、ちょっと懐かしい。
でも懐かしさなんて、服を脱ぐだけで辛そうな顔を見ていると吹っ飛んでしまう。
身体を洗ってあげて、マジマジと見てしまった傷跡。赤いムカデが貼りついたように見えるのは縫った跡だ。
この傷は一生残るんだろうなあ……そう思うと目が熱くなってきた。
「アハハ、菊ちゃんが泣くことないじゃない」
笑顔は、もういつもの松ネエだった。
とりあえずよかった!
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校三年
百地美子 (シグマ) 高校二年
妻鹿小菊 高校一年 オメガの妹
妻鹿幸一 祖父
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校三年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校三年 幼なじみの神社(神楽坂鈿女神社)の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
木田さん 二年の時のクラスメート(副委員長)
増田汐(しほ) 小菊のクラスメート
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
せやさかい
武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
父の失踪から七年、失踪宣告がなされて、田中さくらは母とともに母の旧姓になって母の実家のある堺の街にやってきた。母は戻ってきただが、さくらは「やってきた」だ。年に一度来るか来ないかのお祖父ちゃんの家は、今日から自分の家だ。
そして、まもなく中学一年生。
自慢のポニーテールを地味なヒッツメにし、口癖の「せやさかい」も封印して新しい生活が始まてしまった。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~
海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。
そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。
そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。
水曜日のパン屋さん
水瀬さら
ライト文芸
些細なことから不登校になってしまった中学三年生の芽衣。偶然立ち寄った店は水曜日だけ営業しているパン屋さんだった。一人でパンを焼くさくらという女性。その息子で高校生の音羽。それぞれの事情を抱えパンを買いにくるお客さんたち。あたたかな人たちと触れ合い、悩み、励まされ、芽衣は少しずつ前を向いていく。
第2回ほっこり・じんわり大賞 奨励賞
華京院 爽 16歳 夏〜『有意義』なお金の使い方! 番外編〜
平塚冴子
ライト文芸
『有意義』の番外編
華京院 奈落が華京院 爽の下で働く様になったきっかけ。
仕事も出来て、頭もいい爽。
けれど性格の問題があり、その部下に指名される人間は現れない。
自分に原因があると知りつつ、坦々と日々仕事をこなしていた。
8月…年に1度の華京院親族の低年齢層とのコミュニケーションプログラムで、爽の元に現れた2人の少年。
彼等と1日、楽しくコミュニケーションを取ったり、仕事への適性判断をしなければならない。
果たして、上手く行くのだろうか…。
行くゼ! 音弧野高校声優部
涼紀龍太朗
ライト文芸
流介と太一の通う私立音弧野高校は勝利と男気を志向するという、時代を三周程遅れたマッチョな男子校。
そんな音弧野高で声優部を作ろうとする流介だったが、基本的にはスポーツ以外の部活は認められていない。しかし流介は、校長に声優部発足を直談判した!
同じ一年生にしてフィギュアスケートの国民的スター・氷堂を巻き込みつつ、果たして太一と流介は声優部を作ることができるのか否か?!
となりのソータロー
daisysacky
ライト文芸
ある日、転校生が宗太郎のクラスにやって来る。
彼は、子供の頃に遊びに行っていた、お化け屋敷で見かけた…
という噂を聞く。
そこは、ある事件のあった廃屋だった~
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる