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40『ハワイ@ホーム・3・メイド修業』

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泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

40『ハワイ@ホーム・3・メイド修業』小松 



 やっぱり日本人なんだ。

 どうなることかと思ったけど、十三人のアメリカ人を前に研修を始めてみると一生懸命になってしまう。

 メイドの基本は笑顔と姿勢なんだ。

 日本人は一般的に笑顔は苦手。スナップ写真なんかで「笑って~」と言われて、いい笑顔になれる人はめったにいない。「はいチーズ!」とかやっても虫歯を堪えているような顔になったり、バラエティー番組のようなアホバカ笑いにしかならない。

 だけど、アキバのメイドは違う。

 ソフトで可愛くてちょっぴり上品に笑顔が作れる。

 アキバの萌え文化というのは、ひょっとしたら魔法なのかもしれない。

 @ホームで働き始めたころは妖精さん(社員さん)から「パインの笑顔はキャビンアテンダントだよ」と言われた。

 なるほど鏡に映してみると、大人の笑顔だ。

 大人の笑顔というのは「歓迎はしますがルールは守ってくださいね」というスーツを着たような硬さがある。むろんアキバにも無言のルールはある。人に迷惑を掛けたり嫌な気にさせたりしてはいけないとかね。

 でも、スーツにネクタイというような硬さはない。ゆるキャラのユル的な感じ。

 水が合っていたのか、あたしは二日で馴染んだ。



「えと、メイドは永遠の十七歳で、夜にはタンポポの毛に掴まって雲の上のお家に帰るんですよ(^o^;)」

 あせったけど、この言い回しが通じた。イエスとかアンダストゥッドの声が上がる。

 習うより慣れろで、一通りのレクチャーが終わったあとは、ご主人様とメイドに分かれてロールプレイング式の実習。

「オカリナセマセ、ゴシュジサッマ~」

 日本語では意味が通じないので英語にする。「Please return,master」とか「Have a good time,master」とかに訳してみるが、十三人の見習いメイドは納得しない。

「みんなも頑固ねぇ」

 ミリーさんも呆れたが、みんな諦めない。けっきょく通じなければ意味が無いということで、二人のメイドが日本語と英語でやるということに落ち着く。まあ、同時通訳です。

「オカリナセマセ、ゴシュジサッマ~」「Please return,master」

 なんとかなったところでメイドの制服に着替えてもらう。


 制服には魔法のような力がある。

 十三人、二十六個の目がキラキラしてきた。

 悔しいけど脚が長くて姿勢がいいものだから、私服の時よりも二倍はサマになっている。


「笑顔はタンポポのように(*^0^*)ね」

 ちろるさんが見本を見せるが、みなさんバラとかヒマワリ、中には花の女王ラフレシアかというようなゴージャスな笑顔になる。

「どうなんだろね( ˊᵕˋ ;)」

 もなかさんが苦笑いになったところでコーヒーブレイク。

「ちから付けていきましょ!」

 ミリーさんが、お皿に山盛りのフライドチキンを出してくれる。ほら、ミリーさんがアキバに来た時にうちの@ホームでこさえてくれて、うちの新メニューにもなっているやつ。

 あたしは思った……このフライドチキンにはバラやヒマワリ的な笑顔の方が似合うかも。


 夕方になってシグマが戻って来た。

 シグマはパールリッジショッピング センターにオタクショップがあると聞いて朝から出かけていたのよ。

 両手に一杯の戦利品……と思いきや、彼女は手ぶらだ。

「気に入ったのなかったの?」

 そう聞くと、シグマは口を尖らせたまま笑った。

「もう着くわ(o^Σ^o)」

 店の外にはワンボックスが停まっていて、オニイサンが何箱もの段ボール箱を台車に移している。

「あ、あれ全部!?」
「まさかーー!?」

 運び込んできて分かった。

 シグマはミリーさんに頼まれ、お店の開店祝いにお客さんたちに配る景品を探しに行っていたのだ。

 一部はメイドの子たちへのプレゼント。愛着を持ってもらいたいのでお客さんに配るのと同じものだ。


 仕分けすると何も残らない。


「自分のは買ってこなかったの?」

 頬杖ついたまま目だけ向けて、こう答えた。

「だって、ハワイにはエロゲないんだもん(ㅎ.ㅎ)」



☆彡 主な登場人物

妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
百地美子 (シグマ)     高校一年
妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
妻鹿由紀夫          父
鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
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