36 / 100
36『そういう31日だから』
しおりを挟む
泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)
36『そういう31日だから』
イテ!
不用意に顔を洗ったら痛みが走った。
オデコの右側が赤く腫れている。
あ~やっぱなあ。
小菊が投げた貯金箱がまともにぶつかった跡なんだ。
夕べのことだ……。
風呂からあがって部屋に戻ろうとすると、珍しく小菊の部屋のドアが開いていた。ドアは隣り同士なので、自然に部屋の中が見えてしまう。
オ
思わず声が出てしまった。
姿見の前で小菊がクルクル回っている。風呂上がりのパジャマじゃなくておニューの制服姿でな。
で、姿見の中の小菊と目が合ってしまった。
「キャー! このド変態!!」
で、貯金箱が飛んできて目から火が出た。
新学期になれば、毎朝毎日人目に晒す制服姿も入学前ではダメらしい。
でもな、不用意にドアを開きっぱにしとくほうが悪くねーか?
ほんで、見られたからって「ド変態!!」はねえだろう、それも悲鳴の前奏付きでさ。
小菊の悲鳴に松ネエが部屋から出てきた。階段の所には、途中まで上がって来た親父の首が覗いている。
「そりゃあさ、不安と期待の入り混じったイレギュラーなとこを見られたからだわよ」
松ネエは二秒ほどで解説すると貯金箱を拾ってドアをノックした。
階段に目をやると、サッと目線を外して親父の首が消える。会社じゃ有能な中間管理職らしいんだけども、もうちょっと家でも……って思うんだけど口にはしない。
「ね、オデコ冷やした方がよくない?」
明くる朝、廊下で出会った松ねえは「おはよう」も言わずに顔を寄せてくる。
冷やしといたほうが良かったかなあ……洗面の前で後悔してるわけだ。
みっともないので、今日は家に居ることにする。
桜もほころぶ四月になろうってのになんてこった……そう思ってリビングに行くと、テレビの表示は3月31日だ。
――そうか、3月ってのは大の月だったんだ――
4月ってのは新年度でもって本格的な春の始まりでもある。だから4月1日ってのはウソみたいに晴れがましい。だからエイプリルフールってか?
ま、そういう31日だからボンヤリ過ごすことにする。
ボンヤリと朝のワイドショー、ここんとこ毎日の森供学園問題をやっている。
俺みたいなのでも、いいかげんに飽きてきた。
カドイケ夫人のメールが公開されて民民党の藤本さんも名前が挙がったのに、ニュースやワイドショーはどこもスルーしている。
はんぱな興味なんだけど、あちこちチャンネルを変えてみる。
変えているうちに、あちこちで桜のニュース。
明治神宮の桜がアップになったかと思うと、宝塚の合格発表のニュース。
何十倍もの難関を突破した女の子たちは、みんなキラキラしている。男だけど、このキラキラさは羨ましく思うぞ。
――宝塚おめでとう!――
なんか、とってもリアルな声が廊下でした。
すると、ドアが開いて、松ネエが同年配の女の子を招じ入れるところだ。
「あ、こちら従弟の雄一君。ゆう君、こちら高窓紗耶香、あたしの友だち、宝塚に受かって、わざわざ報告に来てくれたのよ!」
「え、あ、あ、おめでとうございます! どうぞお掛けになってください、いまお茶入れますんで」
「どうぞお構いなく」
高窓さんは、さっきのニュースみたく髪をヒッツメのお団子にして、よく通る宝塚ボイスで挨拶してくれる。
お茶を出しながら、こっちまで晴れがましい気持ちになる。
そのうちお袋や祖父ちゃんまで出てきて、リビングはワイドショーのスタジオのような活気になる。
「ようし、こうなったらお祝いだ!」
祖父ちゃんの発案で寿司富に行くことになる。
「あ、そんな、小松に報告に来ただけですから(^_^;)」
高窓さんは恐縮する。
「いやいや、商店会の相互扶助、お互いの店を使うことにしてるんでね。相互扶助ても、なんか目的が立たないとね」
祖父ちゃんは気配りの人だ。
「あんたもどう?」
お袋が水を向けてくるが、オデコのタンコブを示して辞退する。
みんなと入れ違いに小菊が帰って来た。
昨日の今日なので、お互い目も合わさない。階段を上がる音が途中で止まった。
「あ、あのさ」
思いかけず小菊の呼びかけが降ってくる。
「なんだ」
顔も上げないで背中で返事する。
「夕べ、その……ごめん……」
尻尾の方は消えそうな声で、それだけ言うと駆け足で部屋に消えて行った。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校二年 幼なじみの神社の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
36『そういう31日だから』
イテ!
不用意に顔を洗ったら痛みが走った。
オデコの右側が赤く腫れている。
あ~やっぱなあ。
小菊が投げた貯金箱がまともにぶつかった跡なんだ。
夕べのことだ……。
風呂からあがって部屋に戻ろうとすると、珍しく小菊の部屋のドアが開いていた。ドアは隣り同士なので、自然に部屋の中が見えてしまう。
オ
思わず声が出てしまった。
姿見の前で小菊がクルクル回っている。風呂上がりのパジャマじゃなくておニューの制服姿でな。
で、姿見の中の小菊と目が合ってしまった。
「キャー! このド変態!!」
で、貯金箱が飛んできて目から火が出た。
新学期になれば、毎朝毎日人目に晒す制服姿も入学前ではダメらしい。
でもな、不用意にドアを開きっぱにしとくほうが悪くねーか?
ほんで、見られたからって「ド変態!!」はねえだろう、それも悲鳴の前奏付きでさ。
小菊の悲鳴に松ネエが部屋から出てきた。階段の所には、途中まで上がって来た親父の首が覗いている。
「そりゃあさ、不安と期待の入り混じったイレギュラーなとこを見られたからだわよ」
松ネエは二秒ほどで解説すると貯金箱を拾ってドアをノックした。
階段に目をやると、サッと目線を外して親父の首が消える。会社じゃ有能な中間管理職らしいんだけども、もうちょっと家でも……って思うんだけど口にはしない。
「ね、オデコ冷やした方がよくない?」
明くる朝、廊下で出会った松ねえは「おはよう」も言わずに顔を寄せてくる。
冷やしといたほうが良かったかなあ……洗面の前で後悔してるわけだ。
みっともないので、今日は家に居ることにする。
桜もほころぶ四月になろうってのになんてこった……そう思ってリビングに行くと、テレビの表示は3月31日だ。
――そうか、3月ってのは大の月だったんだ――
4月ってのは新年度でもって本格的な春の始まりでもある。だから4月1日ってのはウソみたいに晴れがましい。だからエイプリルフールってか?
ま、そういう31日だからボンヤリ過ごすことにする。
ボンヤリと朝のワイドショー、ここんとこ毎日の森供学園問題をやっている。
俺みたいなのでも、いいかげんに飽きてきた。
カドイケ夫人のメールが公開されて民民党の藤本さんも名前が挙がったのに、ニュースやワイドショーはどこもスルーしている。
はんぱな興味なんだけど、あちこちチャンネルを変えてみる。
変えているうちに、あちこちで桜のニュース。
明治神宮の桜がアップになったかと思うと、宝塚の合格発表のニュース。
何十倍もの難関を突破した女の子たちは、みんなキラキラしている。男だけど、このキラキラさは羨ましく思うぞ。
――宝塚おめでとう!――
なんか、とってもリアルな声が廊下でした。
すると、ドアが開いて、松ネエが同年配の女の子を招じ入れるところだ。
「あ、こちら従弟の雄一君。ゆう君、こちら高窓紗耶香、あたしの友だち、宝塚に受かって、わざわざ報告に来てくれたのよ!」
「え、あ、あ、おめでとうございます! どうぞお掛けになってください、いまお茶入れますんで」
「どうぞお構いなく」
高窓さんは、さっきのニュースみたく髪をヒッツメのお団子にして、よく通る宝塚ボイスで挨拶してくれる。
お茶を出しながら、こっちまで晴れがましい気持ちになる。
そのうちお袋や祖父ちゃんまで出てきて、リビングはワイドショーのスタジオのような活気になる。
「ようし、こうなったらお祝いだ!」
祖父ちゃんの発案で寿司富に行くことになる。
「あ、そんな、小松に報告に来ただけですから(^_^;)」
高窓さんは恐縮する。
「いやいや、商店会の相互扶助、お互いの店を使うことにしてるんでね。相互扶助ても、なんか目的が立たないとね」
祖父ちゃんは気配りの人だ。
「あんたもどう?」
お袋が水を向けてくるが、オデコのタンコブを示して辞退する。
みんなと入れ違いに小菊が帰って来た。
昨日の今日なので、お互い目も合わさない。階段を上がる音が途中で止まった。
「あ、あのさ」
思いかけず小菊の呼びかけが降ってくる。
「なんだ」
顔も上げないで背中で返事する。
「夕べ、その……ごめん……」
尻尾の方は消えそうな声で、それだけ言うと駆け足で部屋に消えて行った。
☆彡 主な登場人物
妻鹿雄一 (オメガ) 高校二年
百地美子 (シグマ) 高校一年
妻鹿小菊 中三 オメガの妹
妻鹿由紀夫 父
鈴木典亮 (ノリスケ) 高校二年 雄一の数少ない友だち
風信子 高校二年 幼なじみの神社の娘
柊木小松(ひいらぎこまつ) 大学生 オメガの一歳上の従姉
ヨッチャン(田島芳子) 雄一の担任
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
神楽囃子の夜
紫音@キャラ文芸大賞参加中!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。
年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。
四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
パワハラ女上司からのラッキースケベが止まらない
セカイ
ライト文芸
新入社員の『俺』草野新一は入社して半年以上の間、上司である椿原麗香からの執拗なパワハラに苦しめられていた。
しかしそんな屈辱的な時間の中で毎回発生するラッキースケベな展開が、パワハラによる苦しみを相殺させている。
高身長でスタイルのいい超美人。おまけにすごく巨乳。性格以外は最高に魅力的な美人上司が、パワハラ中に引き起こす無自覚ラッキースケベの数々。
パワハラはしんどくて嫌だけれど、ムフフが美味しすぎて堪らない。そんな彼の日常の中のとある日の物語。
※他サイト(小説家になろう・カクヨム・ノベルアッププラス)でも掲載。
せやさかい
武者走走九郎or大橋むつお
ライト文芸
父の失踪から七年、失踪宣告がなされて、田中さくらは母とともに母の旧姓になって母の実家のある堺の街にやってきた。母は戻ってきただが、さくらは「やってきた」だ。年に一度来るか来ないかのお祖父ちゃんの家は、今日から自分の家だ。
そして、まもなく中学一年生。
自慢のポニーテールを地味なヒッツメにし、口癖の「せやさかい」も封印して新しい生活が始まてしまった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
東京カルテル
wakaba1890
ライト文芸
2036年。BBCジャーナリスト・綾賢一は、独立系のネット掲示板に投稿された、とある動画が発端になり東京出張を言い渡される。
東京に到着して、待っていたのはなんでもない幼い頃の記憶から、より洗練されたクールジャパン日本だった。
だが、東京都を含めた首都圏は、大幅な規制緩和と経済、金融、観光特区を設けた結果、世界中から企業と優秀な人材、莫大な投機が集まり、東京都の税収は年16兆円を超え、名実ともに世界一となった都市は更なる独自の進化を進めていた。
その掴みきれない光の裏に、綾賢一は知らず知らずの内に飲み込まれていく。
東京カルテル 第一巻 BookWalkerにて配信中。
https://bookwalker.jp/de6fe08a9e-8b2d-4941-a92d-94aea5419af7/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる