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9『栞のセーラー服』

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち

9『栞のセーラー服』     

      


「お待たせしました……」

 さっきの手島栞が桜饅頭と御手洗ダンゴを盆に載せてやって来た。略式ではあるが、挙措動作に、ちゃんとした行儀作法が身に付いていることが分かる。
 ナリは、制服の上にエプロンを掛け、頭は三角巾。古い目で見れば、昭和の清楚さだが、二十一世紀の今ではメイド喫茶を連想させ、乙女先生は、あまり好ましく思えなかった。

「あんた、うちの生徒やな」
「……は?」
「あ、あたし今度希望ヶ丘に転勤してきた、佐藤。こちらは校長先生。知ってるね」
「はい、校長先生は存じ上げておりました。佐藤先生はお初でしたので失礼しました」
「学年と、お名前は?」
「二年生の手島栞です。新学年のクラスはまだ発表されていませんので分かりません」
「手島さん、バイトすんのはしゃあないけど、制服姿はどないやろ?」
「これは、学校の決まりです」
「アルバイトをするときは、作業などに支障が無い限り、制服が望ましい……たしか、そうなっていたんだよね」
「はい。あの、僭越ですが、校長先生は読んで頂けましたでしょうか、二枚の書類」
「二枚……?」
「ええ、アルバイト許可願いと、教育課程見直しの建白書です」
「バイトの許可願いは受理したよ。もう一つのほうは、僕は知らないな」

 一瞬、栞の目が燃えたような気がした。

「もう提出して一カ月になります……………桜餅、御手洗ダンゴ、ご注文はこれでよろしかったでしょうか?」
「ああ、それよりも手島さん」
「仕事中ですので、これで失礼いたします。どうぞごゆっくり……」

 来たときと同様な挙措動作で、客室を出ていった。

「あの子は、いったい……」

 桜餅を頬ばりながら、乙女先生は校長に聞いた。

「学校に、いささか不満があるようで、一度きちんと話しておかなきゃならないと思っていました」
「ほんなら、今やりましょ!」

 乙女先生は、女亭主である恭ちゃんに話をつけに行った。

「仕事中ですので、手短に願います」


 栞は、エプロンと三角巾を外した姿で、二人の前に現れた。


「バイト許可書……まだ届いていないのかい?」
「はい、まだ頂いていません」
「この学校は、杓子定規にバイト許可書出さしてるんですか?」
「決まりだから守ってるんです。先生たちも……」
「そうだよね」
「何か、言いたそうやね」
「いえ、言い過ぎました。先生が生徒に書類を渡すのに速やかにという但し書きはありませんから……」
「とにかく、僕が許可したのは確かだ、何の問題もない。制服を着てバイトをすることもない。バイトの場合、法に触れない限り、校則よりも職場の服務規程が優先される」
「そやね、これからお花見のお客さんも増えるやろし、セーラー服はなあ……」
「わたしのセーラー服は……」

 新子は、グッと口を引き締めたかと思うと、大粒の涙をこぼした……。
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