上 下
60 / 97

59『大和大納言秀長』

しおりを挟む
くノ一その一今のうち

59『大和大納言秀長』 




 地味ですが秀吉の弟です(^_^;)。


 直垂のおじさんが頭を掻く。

『あ、ああ!?』

 えいちゃんが思い当たったのか、声を上げたかと思うと、カバンから顔だけ出した。

『「木村長門守」って映画を撮ったんですけど、誰かの台詞にありました「ご舎弟大和大納言様御在世でありせば徳川如きの侮りを受けることもあるまいに」って。秀長さんてお名前では出てこなかったので、すみません、直ぐには気づきませんでした。あ、わたし帝国キネマで、こちらの風魔そのさんの付き人をやっております、長瀬映子と申します』

「いえいえ、わたしこそ、東京で鈴木まあやの付き人をやっています(^_^;)」

『鈴木とは……あの鈴木ですか?』

「え、あ、はい、秀頼公のあとに分かれた御双家の一つです」

『そうですか、それはお世話になっております』

『豊国神社は太閤秀吉さんが祀られているんだと思っていました』

 えいちゃんが太閤秀吉の銅像に目をやる。

『兄の他に、わたしと甥の秀頼が祀られています』

『太閤さんと……ちょっと雰囲気が違いますねえ』

 女優志望だけあって、えいちゃんは貪欲に観察している。

『兄とは父親が違うのです。わたしは兄が家出した後、母が再婚して生まれたものですから。あ、家康さんの後妻に入った旭はすぐ下の妹です』

 そうだったんだ。

「ひとつお伺いしたいんですが」

『はい、なんでしょう?』

「実は……」

 ここに至ったいきさつをかいつまんで説明する。木下家と鈴木家が争っていることには顔を曇らせる秀長さんだが、面倒がらずに口下手なわたしの話を聞いてくださる。「ご舎弟大納言様御在世であれば徳川如きの侮りを受けることもあるまいに」という台詞がむべなるかなと思われる。

『この大阪城は、兄の大坂城を埋めて作られた徳川の城。それに、豊国神社はここに遷されて日も浅く、神社以外のことはよく分からないのですが、大阪の地理のことなら少しは分かります。その空堀の坂というのは、この城の空堀ではなく、兄の大坂城の空堀を指しているのではないでしょうか?』

「秀吉さんの大坂城……」

『はい、規模は、この四倍以上もあって、城の南の備えとして南の方に大規模な総構を築造しました』

「そうがまえ?」

『外堀のさらに外の構えです、そう、様式は空堀……たしか、今でも商店街の名前で残っています』

『あ、空堀商店街!』

 えいちゃんが思いつく。

「え、そんなのがあるの!?」

『はい、地下鉄の谷町六丁目です!』

「そっちだ! ありがとうございます!」

『いや、役に立ったのなら幸いです。これを持って行ってください、ここのお守りです』

「ありがとうございます!」

『あ、谷六なら、大手門を出て南です!』

「おっと」

 来た時同様、玉造口から森ノ宮に出ようとしたら反対方向を示される。

『キャー』

 踵を返すと、その勢いでえいちゃんがカバンから出てしまう。

 危うく、風にさらわれそうになったえいちゃんをクルクル丸めると、リレーのバトンのように握って空堀商店街を目指した!

 

☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...