53 / 97
52『大阪へ』
しおりを挟む
くノ一その一今のうち
52『大阪へ』
魔石は戻ってきたようだね。
高速にはいったところでルームミラーの嫁持ちさんが目を細める。
「戻ってるんですか?」
「手ごたえはあったんだろ?」
「あ、でも消えてしまって」
セーラーの胸当てを引っ張た時の感触が蘇って顔が熱くなる。
「魔石とのキズナが深まったんだ。喜ばしいことだよ」
「そうなんですか?」
「頭領として経験を積めば、そうなるらしいよ。これは、意識しなくても魔石の力が使えるかもしれない」
「そうなんですか? っていうか、大阪で何をするんですか?」
うすうす分かっているけども聞いてみる。
「信玄の埋蔵金、その一部が大阪に持ち込まれた」
やっぱり。
「それが、いささか厄介なところに隠されたようで、ボクたち下忍では手が出せないようなんだ」
「わたしだって下忍です」
「でも、風魔流の頭領だ、魔石だって馴染んだみたいだし」
「…………」
「大阪までは時間がかかる。すこし寝ておくといい」
ウワ!
シートが勝手に倒れてベッドになる。
「大阪までは七時間。寝だめしておくのも忍術の内だよ」
「フフ」
「おかしいかい?」
「いいえ」
忍術というのは、素人っぽい、あるいは子どもじみた言い方だ。
嫁持ちさん的な労わりなんだ。
そう思うと、車の振動も揺りかごのように心地よく、ゆっくりと眠りに落ちていった……。
着いたよ。
上体を起こすと、フロントガラスの向こうに『放出』と白地に青の標識が見える。左右からも車が走っていて交差点のようだ。
「ほうしゅつ?」
「ハナテンと読むんだ。難解地名のベストテンに入る大阪の東の外れ」
「なんか、放り出される感じ」
「うん、大坂で所払いになると、ここで放り出されたらしい」
「プ、ほんとうですか?」
「逆に言うと、ここからが大阪の核心部で、よその忍びは断りなしでは入れない」
「う……なんか、胃が痛くなります」
「ソノッチのことは話が付いている」
「え、どんな風に!?」
「下忍には分からないよ。健闘を祈る」
「は、はい。でも、一ついいですか?」
「ボクに答えられることなら」
「まあやの世話は誰が見るんですか?」
「分からないよ……でも、そんなに時間はかからないと思う。社長も平気な顔してたし」
「そうですか」
「そろそろ時間だ。ここで待っていれば迎えが来る」
「はい」
けっきょく、核心に触れることはなにも聞かされず、交差点の手前で文字通り放り出される。
時計を見ると四時前、日本中の高校生が下校の真っ最中という時間。じっさい、交差点を渡って向こうへ行く高校生たちがチラホラ。スマホのナビで確認すると、もう少し行ったところにJRの駅がある。
――そのままで聞いて――
忍び語り、それも思念で送って来る高等なやつ。
気配に足元を見ると、見たことのある猫がお座りしている。
――そのままでって言ったろ――
――ごめん――
――じきに軽トラックがやってくる。運転席の窓が開いてるから「土井さんですか?」って聞いて――
――うん――
――すると運転手は「里中満智子ちゃん?」と聞くから「いいえ、中村その子です」って応えるの――
――うん――
――そうしたら車に乗せてくれる、いいわね――
――了解――
数秒答えがないので、ゆっくり足もとを視野の端に捉えると、もう猫の姿は無かった。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
52『大阪へ』
魔石は戻ってきたようだね。
高速にはいったところでルームミラーの嫁持ちさんが目を細める。
「戻ってるんですか?」
「手ごたえはあったんだろ?」
「あ、でも消えてしまって」
セーラーの胸当てを引っ張た時の感触が蘇って顔が熱くなる。
「魔石とのキズナが深まったんだ。喜ばしいことだよ」
「そうなんですか?」
「頭領として経験を積めば、そうなるらしいよ。これは、意識しなくても魔石の力が使えるかもしれない」
「そうなんですか? っていうか、大阪で何をするんですか?」
うすうす分かっているけども聞いてみる。
「信玄の埋蔵金、その一部が大阪に持ち込まれた」
やっぱり。
「それが、いささか厄介なところに隠されたようで、ボクたち下忍では手が出せないようなんだ」
「わたしだって下忍です」
「でも、風魔流の頭領だ、魔石だって馴染んだみたいだし」
「…………」
「大阪までは時間がかかる。すこし寝ておくといい」
ウワ!
シートが勝手に倒れてベッドになる。
「大阪までは七時間。寝だめしておくのも忍術の内だよ」
「フフ」
「おかしいかい?」
「いいえ」
忍術というのは、素人っぽい、あるいは子どもじみた言い方だ。
嫁持ちさん的な労わりなんだ。
そう思うと、車の振動も揺りかごのように心地よく、ゆっくりと眠りに落ちていった……。
着いたよ。
上体を起こすと、フロントガラスの向こうに『放出』と白地に青の標識が見える。左右からも車が走っていて交差点のようだ。
「ほうしゅつ?」
「ハナテンと読むんだ。難解地名のベストテンに入る大阪の東の外れ」
「なんか、放り出される感じ」
「うん、大坂で所払いになると、ここで放り出されたらしい」
「プ、ほんとうですか?」
「逆に言うと、ここからが大阪の核心部で、よその忍びは断りなしでは入れない」
「う……なんか、胃が痛くなります」
「ソノッチのことは話が付いている」
「え、どんな風に!?」
「下忍には分からないよ。健闘を祈る」
「は、はい。でも、一ついいですか?」
「ボクに答えられることなら」
「まあやの世話は誰が見るんですか?」
「分からないよ……でも、そんなに時間はかからないと思う。社長も平気な顔してたし」
「そうですか」
「そろそろ時間だ。ここで待っていれば迎えが来る」
「はい」
けっきょく、核心に触れることはなにも聞かされず、交差点の手前で文字通り放り出される。
時計を見ると四時前、日本中の高校生が下校の真っ最中という時間。じっさい、交差点を渡って向こうへ行く高校生たちがチラホラ。スマホのナビで確認すると、もう少し行ったところにJRの駅がある。
――そのままで聞いて――
忍び語り、それも思念で送って来る高等なやつ。
気配に足元を見ると、見たことのある猫がお座りしている。
――そのままでって言ったろ――
――ごめん――
――じきに軽トラックがやってくる。運転席の窓が開いてるから「土井さんですか?」って聞いて――
――うん――
――すると運転手は「里中満智子ちゃん?」と聞くから「いいえ、中村その子です」って応えるの――
――うん――
――そうしたら車に乗せてくれる、いいわね――
――了解――
数秒答えがないので、ゆっくり足もとを視野の端に捉えると、もう猫の姿は無かった。
☆彡 主な登場人物
風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理 服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
多田さん 照明技師で猿飛佐助の手下
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる