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36『初代だからこそ』

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くノ一その一今のうち

36『初代だからこそ』 




 あ、三村先生!?


 服部課長代理と他人の距離を空けてお茶を飲んでいると監督が飛んできた。

「あ、見つかっちゃった(^_^;)」

 白々しく頭を掻く課長代理。

「来られるんでしたら車を用意しましたのに」

「あ、いやいや、気まぐれですから」

「え、ソノッチもいっしょだったの?」

「え、いえ、自分はお茶を買いに来ただけで……」

「こちら『吠えよ剣』の脚本を書いていただいてる三村紘一先生だよ。すみません、まだ新人なもので。まあやの付き人の風間そのです。ごあいさつ!」

「え!?」

 ほんとうにビックリした! なんで課長代理が脚本家!?



 理由は課長代理の車の助手席で聞いた。

 なんで、みんなと別行動になったかと言うと、課長代理、いや脚本家の三村紘一が「甲府の周辺を見ておきたいので、助手を貸してもらえませんか?」と監督に頼んで、まあやがOKしたから。

 わたしも、しっかり聞いておきたかったしね。



「まあやは、我が徳川物産の最大の存在理由だ」

「ですね、豊臣の血筋を守ることが第一だと社長もおっしゃってました」

「そのためには、まあやの生活そのものをコントロールすることが望ましい。まあやの出るドラマを書けば、まあやの生活の半分以上を掌握できる」

「他にも書いてるんですか?」

「ああ、ペンネームは他にもある」

 ペンネーム? ひょっとして服部半三もペンネーム?

「『吠えよ剣』は今年に入ってからだ、企画は、俺が持ち込んだ」

 そうなんだ、『吠えよ剣』は、ツ-クール26回の企画で、今度の山梨編からツークール目に入るはずだ。

 二つ聞きたいことがあった。

 なんで……聞こうとしたら、車は高速を降りて、三叉路にさしかかっていた。

「どっちにするか……?」

「え、行先決まってないんですか?」

 車は、三叉路を前に路肩によって停まってしまった。

「甲府市内か善行寺か……」

「善光寺は困ります! 長野県に行ってしまったら離れすぎです」

 あくまでまやのガードなのだ、そういつまで離れているわけにはいかない。課長代理のくせに何を考えているんだ。

「修業も足りんが勉強も足りんやつだなあ、甲府の近くにも善光寺はあるんだ。ナビを見てみろ」

「え?」

 ……あった。

 ナビの画面をスクロールすると、甲府の東に善光寺という駅とお寺がある。

「信玄が、本家の善行寺からご本尊と宝物をかっさらって作った寺だ。本家善光寺への尊崇の現れと言われているが、あのクソ坊主が、そんな動機だけでやると思うか?」

「あ!?」

「そう、信玄の埋蔵金だ……」

 今度の『吠えよ剣・山梨編』は、千葉周作が幕府から信玄の埋蔵金を探るように言われ、龍馬とさな子を派遣するという話なんだ。

「ほんとうに、あるんですか、埋蔵金?」

「ああ、木下(まあやの鈴木家と並ぶ豊臣の本流)の方でも探りを入れてる。海外進出を目論んでいるんだ、金はいくらあっても足りないだろう」

 草原の国で出し抜かれたのは、ついこないだ。あれだけのことをやるんだ、課長代理の言う通りだろう。

「一つ聞いていいですか?」

「なんだ?」

「『吠えよ剣』の千葉道場の師範は周作なんですか? 史実では弟の千葉定吉のはずですが」

「ああ、それなあ」

 そこのところがいい加減だから、まあやは、さな子が周作の娘だと勘違いしていたんだ。

「俺は、初代が好きなんだ」

「は?」

「ガンダムとか、AKBとか、みんな初代は伝説めいてかっこいいだろ」

「え?」

 カッコいいが理由? なんか中学生みたいだ。

「豊臣家も初代の秀吉が偉いんだ。徳川家は家康、織田家は信長だろう」

「ええ、まあ……でも、課長代理は十何代目かの服部半蔵じゃないですか」

「俺は、服部半三。ぞうは数字の三だ。家康に取り入った服部とは違う」

「え、あ……」

 空中に字を書いてみる、蔵と……三……確かに違う。

「確かに、俺は服部半蔵の裔ではあるがな。俺からは別の服部家だと思ってる。だから、俺が初代なんだ」

「なるほど……」

「お前も、ほとんど滅んだ風魔小太郎の裔だろう。自分が初代だと思って切り替えろ。切り替えなければ、豊臣も徳川も服部も風魔も先細りだ」

「は、はい……」

「とりあえずは、目の前の善行寺だ……」

 グルンとハンドルが切られると、木立の向こう、要害山を背景にして甲斐善光寺の屋根が見えてきた。



☆彡 主な登場人物

風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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