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61『春奈の秘密・1』

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妹が憎たらしいのには訳がある

61『春奈の秘密・1』         




「春奈はどうして長崎から東京に来たの? N女程度の大学なら、九州にでもあるだろ?」

 バカな質問をする奴だと、二つ隔てたテーブルで、わたしと優子は思った。

 多摩自然公園で、スリープしていたC国のチンタオ型ロボットと戦って以来、美しい誤解でW大の宗司とN女子の春奈は急速に仲がが良くなった。

 池の中で溺れかけた春奈は、マウスツーマウスで人工呼吸をしてくれたのは宗司だと思っている。

 ほんの五秒ほどだけども、わたしは宗司にも人工呼吸をしてやった。で、めでたく宗司も春奈に人工呼吸したのは自分だと思いこんでいるというわけ。

――たしかに、宗司に人工呼吸してやったとき、宗司はなけなしの肺の空気を、春奈と勘違いしたわたしに送り込もうとした。その善良さにわたしは、倍の酸素を送ってやったけど、ロボットの目をかわすために、すぐその場を離れた――

 そして、意識の戻った二人に、さらなる美しい誤解が生まれた。

「春奈ちゃんの東京弁聞いても分かるジャン。長崎の匂いはあるけど、あの子は、昨日今日東京に来た子じゃないよ」

「ワケありで長崎に行っていたことぐらい想像つかないのかなあ……」

 優子もため息をついた。

「宗司クンなら、話してもいいかな……」

「うん、なんでも相談に乗るよ!」

 宗司は身を乗り出した。その拍子に、テーブルの下で自分の膝が、いっしゅん春奈の膝の間に割り込んだ。慌てて二人は身を引いて、カップやグラスがガチャガチャ音を立てる。アイスコーヒーのグラスは落ちて粉みじんになるところだったけど、優子が反射的にテレキネビームで防いでやった。

 このあと、とても大事な話が出る予感がしたのだ。

「わたし、去年の夏までは東京にいたの。親の都合で田舎の長崎に……宗司クン。いっしょに付いてきてくれる?」

「う、うん」
 
 全然説明不足な春奈の説明に宗司は二つ返事でOKした。

 駅を降りると、春奈と宗司は成城の中心に向かって歩き出した。

 さすがに、春奈もポツリポツリと事情を説明する。

「お父さんとお母さんは別居してるの……お母さんの実家がある長崎に。わたしは生まれも育ちも東京だから……」

「やっぱり、慣れたところがいいもんな。それで東京のN女に?」

「……うん、まあ、そんなとこ」

「そいで、今日は久々にお父さんに会う?」

「うん……」

「スーパーと料理に関しては大したオタクだけども、こと女心については、小学生並みだね」

「イケてるミニスカートとチュニックの組み合わせ、ありゃ、元気に明るく女子大生やってますって背伸びだよ。無理してんね。それぐらい分かれよな、ボクネンジン!」

 優子も辛辣だ。

「せめて、デートってか、彼氏らしく決めてこいよな。ジーンズにスニーカー……春奈の気持ちぐらい分かってやれよ」

 二百メートル遅れて歩きながら、わたしと優子はぼやきっぱなしだった。

「ここ……」

「す、すっげー……!」

 さすがのボクネンジンでも、それが、並のマンションでないことぐらいは分かった。大スターか、一部上場企業のエライサンでなければ手の届かないシロモノだ。

 春奈は慣れた手つきで、エントランスの暗証番号を押して監視カメラに向かって手をふった。

――はい、川口ですが。どちらさまでしょう?――

 知らない女の声がして、春奈はうろたえた。

――あ、あ、春奈か(;'∀')。今エントランスを開けるから、ロビーで待っていてくれ――

 しばらくすると、五十代前半のオッサンが、つまり春奈の父親が降りてきた。

「春奈。言ってくれたら迎えにいったのに。リニア東京からだとくたびれただろう」

「ううん、わたし東京のN女子に通ってんの。あ、彼、BFの高橋宗司クンW大の二年」

「高橋です。どうも、こんなナリで失礼します」

「わたしが気まぐれで、付き合わせたから、仕方ないのよ」

「W大か、なかなかだね。専攻はなんだね」

「あ、一応理工です」

「ハハ、一応ね」

 五十メートル離れた道の角で、優子とわたしは怒っている。

 ポケットの名刺のIDをチェックすると、M重工のエライサンだということが分かった。国防軍用のロボットの大半を請け負っている大企業だ。

「わたし、自分の部屋が見たい」

「あ、ああ、上がんなさい。君はここで少し待っていてくれたまえ」

 わたしも優子も悪い予感がした……。


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