61 / 68
61『春奈の秘密・1』
しおりを挟む
妹が憎たらしいのには訳がある
61『春奈の秘密・1』
「春奈はどうして長崎から東京に来たの? N女程度の大学なら、九州にでもあるだろ?」
バカな質問をする奴だと、二つ隔てたテーブルで、わたしと優子は思った。
多摩自然公園で、スリープしていたC国のチンタオ型ロボットと戦って以来、美しい誤解でW大の宗司とN女子の春奈は急速に仲がが良くなった。
池の中で溺れかけた春奈は、マウスツーマウスで人工呼吸をしてくれたのは宗司だと思っている。
ほんの五秒ほどだけども、わたしは宗司にも人工呼吸をしてやった。で、めでたく宗司も春奈に人工呼吸したのは自分だと思いこんでいるというわけ。
――たしかに、宗司に人工呼吸してやったとき、宗司はなけなしの肺の空気を、春奈と勘違いしたわたしに送り込もうとした。その善良さにわたしは、倍の酸素を送ってやったけど、ロボットの目をかわすために、すぐその場を離れた――
そして、意識の戻った二人に、さらなる美しい誤解が生まれた。
「春奈ちゃんの東京弁聞いても分かるジャン。長崎の匂いはあるけど、あの子は、昨日今日東京に来た子じゃないよ」
「ワケありで長崎に行っていたことぐらい想像つかないのかなあ……」
優子もため息をついた。
「宗司クンなら、話してもいいかな……」
「うん、なんでも相談に乗るよ!」
宗司は身を乗り出した。その拍子に、テーブルの下で自分の膝が、いっしゅん春奈の膝の間に割り込んだ。慌てて二人は身を引いて、カップやグラスがガチャガチャ音を立てる。アイスコーヒーのグラスは落ちて粉みじんになるところだったけど、優子が反射的にテレキネビームで防いでやった。
このあと、とても大事な話が出る予感がしたのだ。
「わたし、去年の夏までは東京にいたの。親の都合で田舎の長崎に……宗司クン。いっしょに付いてきてくれる?」
「う、うん」
全然説明不足な春奈の説明に宗司は二つ返事でOKした。
駅を降りると、春奈と宗司は成城の中心に向かって歩き出した。
さすがに、春奈もポツリポツリと事情を説明する。
「お父さんとお母さんは別居してるの……お母さんの実家がある長崎に。わたしは生まれも育ちも東京だから……」
「やっぱり、慣れたところがいいもんな。それで東京のN女に?」
「……うん、まあ、そんなとこ」
「そいで、今日は久々にお父さんに会う?」
「うん……」
「スーパーと料理に関しては大したオタクだけども、こと女心については、小学生並みだね」
「イケてるミニスカートとチュニックの組み合わせ、ありゃ、元気に明るく女子大生やってますって背伸びだよ。無理してんね。それぐらい分かれよな、ボクネンジン!」
優子も辛辣だ。
「せめて、デートってか、彼氏らしく決めてこいよな。ジーンズにスニーカー……春奈の気持ちぐらい分かってやれよ」
二百メートル遅れて歩きながら、わたしと優子はぼやきっぱなしだった。
「ここ……」
「す、すっげー……!」
さすがのボクネンジンでも、それが、並のマンションでないことぐらいは分かった。大スターか、一部上場企業のエライサンでなければ手の届かないシロモノだ。
春奈は慣れた手つきで、エントランスの暗証番号を押して監視カメラに向かって手をふった。
――はい、川口ですが。どちらさまでしょう?――
知らない女の声がして、春奈はうろたえた。
――あ、あ、春奈か(;'∀')。今エントランスを開けるから、ロビーで待っていてくれ――
しばらくすると、五十代前半のオッサンが、つまり春奈の父親が降りてきた。
「春奈。言ってくれたら迎えにいったのに。リニア東京からだとくたびれただろう」
「ううん、わたし東京のN女子に通ってんの。あ、彼、BFの高橋宗司クンW大の二年」
「高橋です。どうも、こんなナリで失礼します」
「わたしが気まぐれで、付き合わせたから、仕方ないのよ」
「W大か、なかなかだね。専攻はなんだね」
「あ、一応理工です」
「ハハ、一応ね」
五十メートル離れた道の角で、優子とわたしは怒っている。
ポケットの名刺のIDをチェックすると、M重工のエライサンだということが分かった。国防軍用のロボットの大半を請け負っている大企業だ。
「わたし、自分の部屋が見たい」
「あ、ああ、上がんなさい。君はここで少し待っていてくれたまえ」
わたしも優子も悪い予感がした……。
61『春奈の秘密・1』
「春奈はどうして長崎から東京に来たの? N女程度の大学なら、九州にでもあるだろ?」
バカな質問をする奴だと、二つ隔てたテーブルで、わたしと優子は思った。
多摩自然公園で、スリープしていたC国のチンタオ型ロボットと戦って以来、美しい誤解でW大の宗司とN女子の春奈は急速に仲がが良くなった。
池の中で溺れかけた春奈は、マウスツーマウスで人工呼吸をしてくれたのは宗司だと思っている。
ほんの五秒ほどだけども、わたしは宗司にも人工呼吸をしてやった。で、めでたく宗司も春奈に人工呼吸したのは自分だと思いこんでいるというわけ。
――たしかに、宗司に人工呼吸してやったとき、宗司はなけなしの肺の空気を、春奈と勘違いしたわたしに送り込もうとした。その善良さにわたしは、倍の酸素を送ってやったけど、ロボットの目をかわすために、すぐその場を離れた――
そして、意識の戻った二人に、さらなる美しい誤解が生まれた。
「春奈ちゃんの東京弁聞いても分かるジャン。長崎の匂いはあるけど、あの子は、昨日今日東京に来た子じゃないよ」
「ワケありで長崎に行っていたことぐらい想像つかないのかなあ……」
優子もため息をついた。
「宗司クンなら、話してもいいかな……」
「うん、なんでも相談に乗るよ!」
宗司は身を乗り出した。その拍子に、テーブルの下で自分の膝が、いっしゅん春奈の膝の間に割り込んだ。慌てて二人は身を引いて、カップやグラスがガチャガチャ音を立てる。アイスコーヒーのグラスは落ちて粉みじんになるところだったけど、優子が反射的にテレキネビームで防いでやった。
このあと、とても大事な話が出る予感がしたのだ。
「わたし、去年の夏までは東京にいたの。親の都合で田舎の長崎に……宗司クン。いっしょに付いてきてくれる?」
「う、うん」
全然説明不足な春奈の説明に宗司は二つ返事でOKした。
駅を降りると、春奈と宗司は成城の中心に向かって歩き出した。
さすがに、春奈もポツリポツリと事情を説明する。
「お父さんとお母さんは別居してるの……お母さんの実家がある長崎に。わたしは生まれも育ちも東京だから……」
「やっぱり、慣れたところがいいもんな。それで東京のN女に?」
「……うん、まあ、そんなとこ」
「そいで、今日は久々にお父さんに会う?」
「うん……」
「スーパーと料理に関しては大したオタクだけども、こと女心については、小学生並みだね」
「イケてるミニスカートとチュニックの組み合わせ、ありゃ、元気に明るく女子大生やってますって背伸びだよ。無理してんね。それぐらい分かれよな、ボクネンジン!」
優子も辛辣だ。
「せめて、デートってか、彼氏らしく決めてこいよな。ジーンズにスニーカー……春奈の気持ちぐらい分かってやれよ」
二百メートル遅れて歩きながら、わたしと優子はぼやきっぱなしだった。
「ここ……」
「す、すっげー……!」
さすがのボクネンジンでも、それが、並のマンションでないことぐらいは分かった。大スターか、一部上場企業のエライサンでなければ手の届かないシロモノだ。
春奈は慣れた手つきで、エントランスの暗証番号を押して監視カメラに向かって手をふった。
――はい、川口ですが。どちらさまでしょう?――
知らない女の声がして、春奈はうろたえた。
――あ、あ、春奈か(;'∀')。今エントランスを開けるから、ロビーで待っていてくれ――
しばらくすると、五十代前半のオッサンが、つまり春奈の父親が降りてきた。
「春奈。言ってくれたら迎えにいったのに。リニア東京からだとくたびれただろう」
「ううん、わたし東京のN女子に通ってんの。あ、彼、BFの高橋宗司クンW大の二年」
「高橋です。どうも、こんなナリで失礼します」
「わたしが気まぐれで、付き合わせたから、仕方ないのよ」
「W大か、なかなかだね。専攻はなんだね」
「あ、一応理工です」
「ハハ、一応ね」
五十メートル離れた道の角で、優子とわたしは怒っている。
ポケットの名刺のIDをチェックすると、M重工のエライサンだということが分かった。国防軍用のロボットの大半を請け負っている大企業だ。
「わたし、自分の部屋が見たい」
「あ、ああ、上がんなさい。君はここで少し待っていてくれたまえ」
わたしも優子も悪い予感がした……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
SMART CELL
MASAHOM
SF
全世界の超高度AIを結集した演算能力をたった1基で遥かに凌駕する超超高度AIが誕生し、第2のシンギュラリティを迎えた2155年末。大晦日を翌日に控え17歳の高校生、来栖レンはオカルト研究部の深夜の極秘集会の買い出し中に謎の宇宙船が東京湾に墜落したことを知る。翌日、突如として来栖家にアメリカ人の少女がレンの学校に留学するためホームステイしに来ることになった。少女の名前はエイダ・ミラー。冬休み中に美少女のエイダはレンと親しい関係性を築いていったが、登校初日、エイダは衝撃的な自己紹介を口にする。東京湾に墜落した宇宙船の生き残りであるというのだ。親しく接していたエイダの言葉に不穏な空気を感じ始めるレン。エイダと出会ったのを境にレンは地球深部から届くオカルト界隈では有名な謎のシグナル・通称Z信号にまつわる地球の真実と、人類の隠された機能について知ることになる。
※この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています。 https://www63.atwiki.jp/analoghack/
銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~
まきノ助
SF
高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。
The Outer Myth :Ⅰ -The Girl of Awakening and The God of Lament-
とちのとき
SF
Summary:
The girls weave a continuation of bonds and mythology...
The protagonist, high school girl Inaho Toyouke, lives an ordinary life in the land of Akitsukuni, where gods and humans coexist as a matter of course. However, peace is being eroded by unknown dangerous creatures called 'Kubanda.' With no particular talents, she begins investigating her mother's secrets, gradually getting entangled in the vortex of fate. Amidst this, a mysterious AGI (Artificial General Intelligence) girl named Tsugumi, who has lost her memories, washes ashore in the enigmatic Mist Lake, where drifts from all over Japan accumulate. The encounter with Tsugumi leads the young boys and girls into an unexpected adventure.
Illustrations & writings:Tochinotoki
**The text in this work has been translated using AI. The original text is in Japanese. There may be difficult expressions or awkwardness in the English translation. Please understand. Currently in serialization. Updates will be irregular.
※この作品は「The Outer Myth :Ⅰ~目覚めの少女と嘆きの神~」の英語版です。海外向けに、一部内容が編集・変更されている箇所があります。
ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正で保存もかねて載せました。
ステキなステラ
脱水カルボナーラ
SF
時は大宇宙時代。百を超える様々な資格を有するハイスペ新卒地球人・ステラは晴れて、宇宙をまたにかける大企業、ゼノ・ユニバースグループの社員として、社会人デビューを果たす。
しかし、広い宇宙を飛び回る仕事を期待していたステラが配属されたのは、左遷されたマッドサイエンティスト、変な声の課長、嘘発見器のロボット、腐れ縁の同期――曲者ばかりの、小惑星にオフィスを構える窓際部署であった。
果たしてステラは宇宙の隅から、その野望を叶えることができるのか。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様でも掲載をさせていただいております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スマホ・クロニクル ~悪のAI政府に挑む少女のレンズ越しスマホ戦記~
月城 友麻
SF
AIに支配された未来都市東京、そこでAIに抵抗するレジスタンスの少年は瓦礫の中に楽しそうにネコと遊ぶ少女を見た。なんと、少女はスマホカメラを使って軽々とAIのロボットたちをせん滅していく。
少年は少女に人類の未来を託し、AI支配の象徴である高さ三キロのタワーを打ち倒しに風の塔を目指した……。
来たるべき未来、少年と少女が人類の未来を勝ち取るため最強AIに立ち向かう冒険ストーリーです。お楽しみください(´▽`*)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる