59 / 68
59『古戦場のピクニック』
しおりを挟む
妹が憎たらしいのには訳がある
59『古戦場のピクニック』
「あ~ たまに来る田舎もいいもんだなあ~」
「命の洗濯だあ~」
う~~~ん
男二人がランチのバスケットを持ったままノビををした。
わたしたちは、ひょんなことで友だちになり、みんなでお好み焼きパーティーをやったあと、今日のピクニックの話になった。
で、木下クンの提案で、多摩の自然公園のピクニックに来ている。
自然公園といっても奥多摩のような完全な自然公園ではない。今世紀の初頭まで団地が林立していた多摩市、八王子市、町田市にまたがるニュータウンの北西部である。
人口の減少、高齢化にともないニュータウンの過疎化が進み、先の極東戦争では首都圏内で唯一戦場になったこともあり、1/3にあたる1000ヘクタールあまりが自然に戻され、多摩自然公園……のようにされた。
戦場跡であったので、そのままの状態で保存しようという声も高かったが「平和を希求する日本の象徴」として、自然公園のように作り替えられ、昭和の昔には多くの人の営みがあったことなど、痕跡も留めていない。
コンクリートやアスファルトなどは、クラスター砲(物質を分子の次ぎに大きいクラスターのレベルまで分解するショックガン。
その威力は、一発で10000平米ほどに展開した戦車部隊を、鉄とセラミックのクラスターに分解し、核とは無関係なのに極地核兵器とまで恐れられ。戦後は国際法で使用が禁止された。
なぜなら、人間さえタンパク質やカルシウムのクラスターに分解してしまう。今では対クラスターの技術も進んでいるのだが、象徴的に禁止兵器とされている)を民生用に転用したクラスター破砕機で素材にまで分解され、自然の岩のようにされて、十数年たった今では苔むして、見かけは完全な自然に戻っている。
わたしは無意識に、その「自然な姿」をCPの中で元の形に復元して見ていた。
――ここは、ジブリの『耳をすませば』のモデルになった公団住宅のあたりだ――
「なに思い出にふけってんのよ」
優子にたしなめられた。義体の能力を使えば、パッシブセンサーに捉えられる可能性がある。
「優子だって、こないだ宗司クン助けたじゃん」
「あれは、一瞬の出来心。真由、もう10分もサイトシーングしてるよ」
「ああ、やっぱ、あれは出来心だったのか!」
意外なところで、宗司クンが傷ついた。
「あたりまえでしょ、あんなのほっといたら、事故になって、みんなが迷惑するんだからね」
「ねえ、ここらへんでお昼にしようよ!」
宗司クンの気を引き立てるように、春奈が明るく言った。
「うわー、豪華なランチパックじゃないの!」
「夕べから、川口さんといっしょに作ったんです」
宗司クンが際どいことを言う。
「それって、原因、結果?」
木下クンが、意地悪な質問をする。
「いやあ、作っているうちにアイデアが膨らんで、あれも、これもって……」
宗司クンが頭を掻く。
「あ、結果ですからね、結果。宗司クンには下心なんかありません!」
「そういう言い方って、想像力をかきたてんのよね」
真由まで調子にのりだした。
「ここに、カントリーロードが走っていた」
ちっこいPCを出して、木下クンが言った。
覗いてみると、PCには今の風景と、ニュータウンがあったころの風景が、重なって映し出されていた。
「この道を挟んで、杉本が雫を呼び止めるんだ」
「知ってる、で、神社ですれ違いの告白になるんだよね!」
と、わたしが言おうとしたことを春奈が先を越した。
「しかし、木下クンのPC技術はすごいね」
「実は、他にも使い道が……」
地図にグリーンのドットが現れた。
「なにこれ?」
「多摩奇襲作戦で、敵のロボットが破壊された場所」
「今でも残ってんの!?」
優子がすっとんきょうな声を上げ、驚いた小鳥が二三羽飛び立っていった。
「本体は回収されたけどね、部品が地中に埋まってる……こいつを掘り出して、オークションにかければいい値段になるんだけどね」
「ひょっとして、木下クン、そのために、わたしたちを連れてきたとか?」
「少しはあるけどね、みんな地中深くだ。大がかりな重機でもなきゃ無理さ。たとえできても採算が合わない…………ん、これは?」
モニターに赤いドットが現れた。
「こいつ、生きてるよ!」
「え、何が?」
みんなが寄ってきた。
「これは国防軍のレベルCの機密なんだけど。奥多摩奇襲作戦で補足した敵のロボットと撃破したロボットの数が一つ合わないんだ。カウントミスということになっているけど、こいつはスリーパーだったんだ……」
「寝てたの?」
春奈が、あどけない質問をする。
「今までは、グリーンの残骸と認識されていたんだ……」
「なあ、このドット動いてないか?」
宗司が、信号機が変わったぐらいの関心で言った。
「ヤベエ、こっちに近づいている!」
その時、地響きがして、やがて地震のような揺れになった。
「みんな、逃げよう!」
ズボーーーーーーン!
鈍い爆発音のようなのがして、現れた……そいつが。
出来損ないのガンダムのようなロボットが……。
59『古戦場のピクニック』
「あ~ たまに来る田舎もいいもんだなあ~」
「命の洗濯だあ~」
う~~~ん
男二人がランチのバスケットを持ったままノビををした。
わたしたちは、ひょんなことで友だちになり、みんなでお好み焼きパーティーをやったあと、今日のピクニックの話になった。
で、木下クンの提案で、多摩の自然公園のピクニックに来ている。
自然公園といっても奥多摩のような完全な自然公園ではない。今世紀の初頭まで団地が林立していた多摩市、八王子市、町田市にまたがるニュータウンの北西部である。
人口の減少、高齢化にともないニュータウンの過疎化が進み、先の極東戦争では首都圏内で唯一戦場になったこともあり、1/3にあたる1000ヘクタールあまりが自然に戻され、多摩自然公園……のようにされた。
戦場跡であったので、そのままの状態で保存しようという声も高かったが「平和を希求する日本の象徴」として、自然公園のように作り替えられ、昭和の昔には多くの人の営みがあったことなど、痕跡も留めていない。
コンクリートやアスファルトなどは、クラスター砲(物質を分子の次ぎに大きいクラスターのレベルまで分解するショックガン。
その威力は、一発で10000平米ほどに展開した戦車部隊を、鉄とセラミックのクラスターに分解し、核とは無関係なのに極地核兵器とまで恐れられ。戦後は国際法で使用が禁止された。
なぜなら、人間さえタンパク質やカルシウムのクラスターに分解してしまう。今では対クラスターの技術も進んでいるのだが、象徴的に禁止兵器とされている)を民生用に転用したクラスター破砕機で素材にまで分解され、自然の岩のようにされて、十数年たった今では苔むして、見かけは完全な自然に戻っている。
わたしは無意識に、その「自然な姿」をCPの中で元の形に復元して見ていた。
――ここは、ジブリの『耳をすませば』のモデルになった公団住宅のあたりだ――
「なに思い出にふけってんのよ」
優子にたしなめられた。義体の能力を使えば、パッシブセンサーに捉えられる可能性がある。
「優子だって、こないだ宗司クン助けたじゃん」
「あれは、一瞬の出来心。真由、もう10分もサイトシーングしてるよ」
「ああ、やっぱ、あれは出来心だったのか!」
意外なところで、宗司クンが傷ついた。
「あたりまえでしょ、あんなのほっといたら、事故になって、みんなが迷惑するんだからね」
「ねえ、ここらへんでお昼にしようよ!」
宗司クンの気を引き立てるように、春奈が明るく言った。
「うわー、豪華なランチパックじゃないの!」
「夕べから、川口さんといっしょに作ったんです」
宗司クンが際どいことを言う。
「それって、原因、結果?」
木下クンが、意地悪な質問をする。
「いやあ、作っているうちにアイデアが膨らんで、あれも、これもって……」
宗司クンが頭を掻く。
「あ、結果ですからね、結果。宗司クンには下心なんかありません!」
「そういう言い方って、想像力をかきたてんのよね」
真由まで調子にのりだした。
「ここに、カントリーロードが走っていた」
ちっこいPCを出して、木下クンが言った。
覗いてみると、PCには今の風景と、ニュータウンがあったころの風景が、重なって映し出されていた。
「この道を挟んで、杉本が雫を呼び止めるんだ」
「知ってる、で、神社ですれ違いの告白になるんだよね!」
と、わたしが言おうとしたことを春奈が先を越した。
「しかし、木下クンのPC技術はすごいね」
「実は、他にも使い道が……」
地図にグリーンのドットが現れた。
「なにこれ?」
「多摩奇襲作戦で、敵のロボットが破壊された場所」
「今でも残ってんの!?」
優子がすっとんきょうな声を上げ、驚いた小鳥が二三羽飛び立っていった。
「本体は回収されたけどね、部品が地中に埋まってる……こいつを掘り出して、オークションにかければいい値段になるんだけどね」
「ひょっとして、木下クン、そのために、わたしたちを連れてきたとか?」
「少しはあるけどね、みんな地中深くだ。大がかりな重機でもなきゃ無理さ。たとえできても採算が合わない…………ん、これは?」
モニターに赤いドットが現れた。
「こいつ、生きてるよ!」
「え、何が?」
みんなが寄ってきた。
「これは国防軍のレベルCの機密なんだけど。奥多摩奇襲作戦で補足した敵のロボットと撃破したロボットの数が一つ合わないんだ。カウントミスということになっているけど、こいつはスリーパーだったんだ……」
「寝てたの?」
春奈が、あどけない質問をする。
「今までは、グリーンの残骸と認識されていたんだ……」
「なあ、このドット動いてないか?」
宗司が、信号機が変わったぐらいの関心で言った。
「ヤベエ、こっちに近づいている!」
その時、地響きがして、やがて地震のような揺れになった。
「みんな、逃げよう!」
ズボーーーーーーン!
鈍い爆発音のようなのがして、現れた……そいつが。
出来損ないのガンダムのようなロボットが……。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
銀河太平記
武者走走九郎or大橋むつお
SF
いまから二百年の未来。
前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。
その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。
折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。
火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。
銀河文芸部伝説~UFOに攫われてアンドロメダに連れて行かれたら寝ている間に銀河最強になっていました~
まきノ助
SF
高校の文芸部が夏キャンプ中にUFOに攫われてアンドロメダ星雲の大宇宙帝国に連れて行かれてしまうが、そこは魔物が支配する星と成っていた。
SMART CELL
MASAHOM
SF
全世界の超高度AIを結集した演算能力をたった1基で遥かに凌駕する超超高度AIが誕生し、第2のシンギュラリティを迎えた2155年末。大晦日を翌日に控え17歳の高校生、来栖レンはオカルト研究部の深夜の極秘集会の買い出し中に謎の宇宙船が東京湾に墜落したことを知る。翌日、突如として来栖家にアメリカ人の少女がレンの学校に留学するためホームステイしに来ることになった。少女の名前はエイダ・ミラー。冬休み中に美少女のエイダはレンと親しい関係性を築いていったが、登校初日、エイダは衝撃的な自己紹介を口にする。東京湾に墜落した宇宙船の生き残りであるというのだ。親しく接していたエイダの言葉に不穏な空気を感じ始めるレン。エイダと出会ったのを境にレンは地球深部から届くオカルト界隈では有名な謎のシグナル・通称Z信号にまつわる地球の真実と、人類の隠された機能について知ることになる。
※この作品はアナログハック・オープンリソースを使用しています。 https://www63.atwiki.jp/analoghack/
ステキなステラ
脱水カルボナーラ
SF
時は大宇宙時代。百を超える様々な資格を有するハイスペ新卒地球人・ステラは晴れて、宇宙をまたにかける大企業、ゼノ・ユニバースグループの社員として、社会人デビューを果たす。
しかし、広い宇宙を飛び回る仕事を期待していたステラが配属されたのは、左遷されたマッドサイエンティスト、変な声の課長、嘘発見器のロボット、腐れ縁の同期――曲者ばかりの、小惑星にオフィスを構える窓際部署であった。
果たしてステラは宇宙の隅から、その野望を叶えることができるのか。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様でも掲載をさせていただいております。
ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正で保存もかねて載せました。
シグマの日常
Glace on!!!
SF
博士に助けられ、瀕死の事故から生還した志津馬は、「シグマ」というね――人型ロボットに意識を移し、サイボーグとなる。
彼は博士の頼みで、世界を救うためにある少女を助けることになる。
志津馬はタイムトラベルを用い、その少女を助けるべく奔走する。
彼女と出会い、幾人かの人や生命と出逢い、平和で退屈な、されど掛け替えのない日常を過ごしていく志津馬。
その果てに出合うのは、彼女の真相――そして志津馬自身の真相。
彼女の正体とは。
志津馬の正体とは。
なぜ志津馬が助けられたのか。
なぜ志津馬はサイボーグに意識を移さなければならなかったのか。
博士の正体とは。
これは、世界救済と少女救出の一端――試行錯誤の半永久ループの中のたった一回…………それを著したものである。
――そして、そんなシリアスの王道を無視した…………日常系仄々〈ほのぼの〉スラップスティッキーコメディ、かも? ですっ☆
ご注文はサイボーグですか?
はい! どうぞお召し上がり下さい☆ (笑顔で捻じ込む)
スタートレック クロノ・コルセアーズ
阿部敏丈
SF
第一次ボーグ侵攻、ウルフ359の戦いの直前、アルベルト・フォン・ハイゼンベルク中佐率いるクロノ・コルセアーズはハンソン提督に秘密任務を与えられる。
これはスタートレックの二次作品です。
今でも新作が続いている歴史の深いSFシリーズですが、自分のオリジナルキャラクターで話を作り本家で出てくるキャラクターを使わせて頂いています。
新版はモリソンというキャラクターをもう少し踏み込んで書きました。
コード・ナイン
OSARAGI
SF
現代日本。
日本を取り巻く安全保障環境が混沌を増す中、日本国安全保障庁は人体と機械技術を結合させ人力を超えた強力な兵力を得るため、【サイボーグ・ウルトラ作戦】を実行する。
そんな中、被験者達の待遇への不満から被験者達は日本政府へ反旗を翻すこととなる。
日本政府を裏切り唯一脱出に成功した主人公は、日本に留まらず全世界を敵に回す事となった。
1人で世界と戦わなければならない孤独、
その悪魔の力故に人として生きれない絶望を描く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる