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58『優子の場合』
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妹が憎たらしいのには訳がある
58『優子の場合』
バカか、あいつは……?
優子は、他の通行人と共にあきれ返った。
大学の帰り、真由のようにお友だちもできなかった優子は、晩ご飯の用意にスーパーに寄ろうとして、そいつを見てしまった。
ベースは悪くないのだろうが、一目でW大生とわかるダサいパーカーのそいつは、交差点の真ん中で立ち往生している。
荷台に括りつけていたゴムバンドが外れて、垂れたフックが自転車の後輪に絡まり、身動きがとれなくなっているのだ。
滑稽なことに、本人は気づかず、幽霊かなんかが、理不尽に自分の自転車を止めている超常現象だと思っているらしいことである。
「あれ、あれ……ええ……(;'∀')?」
で、パニック寸前の顔で、交差点の真ん中でオロオロしている。
見ている通行人は、原因が超常現象などではなく、ただのドジであることが分かっていたので、クスクス笑っているばかり。それが、このW大生をさらにパニックに陥れていく。
「あ、悪霊の仕業か!?」
で、信号が青から黄色、そして赤に変わった。
アホかあいつは……!?
通行人の認識が変わった。ただ、信号が赤になったばかりの交差点に入って、哀れなW大生を助けるのにはリスクが高い。
信号は赤だが、彼の顔は青いままで、すでにパニックになりかけている。下手に助けに飛び込んだら、巻き込まれる恐れがあるので、誰も助けには出ない。
優子(幸子と優奈の融合体)は、義体のモードで車道に飛び出し、自転車を担ぎ、W大生の手を引いて、反対側の歩道に、あっと言う間に着いた。拍手と冷やかしが等しくおこった。
「ほんとっ、バカね、あんた!」
優子は、後輪に絡んだゴムひものフックを見せながら言った。
「え、え……このせいで?」
「そう、悪霊のせいなんかじゃなくて、あんたの悪い勘のせい!」
「あ、ど、どもありがとう(^_^;)」
「じゃ、これからは気を付けてね」
優子はさっさと車道の向こう側に戻りたかったが、信号が変わらない。W大生は動く気配がない。
「あんたの行く方向は、あっちじゃないの?」
「考え事してて、つい渡っちゃったんだ。バイトが、こっちのほうなもんだから」
「じゃ、バイト急いだら」
「今日はシフトに入ってないんだ。晩ご飯の材料買って帰るとこ」
「あ、そ」
優子は、さっさと歩き出した。なぜかW大生も後を付いてくる。
「なんで、付いてくんのよ!?」
「だって、Kマート、こっちだから」
「あ……」
木下に教えてもらったス-パーもKマートであった。もうKマートは目の前である。
「言っとくけど、運命だなんて思わないでね。わたしも最初からここに買い物に来るつもりだったの」
「あ、ども……」
優子は、さっさとKマートに入り、レジカゴを持って、野菜売り場から順路に従って回り始めた。
そして、冷凍食品のコーナーで、あいつを見つけてしまった。
あいつは、店の順路を逆回りして、実に手際よく品物をカゴののなかにぶち込んでいた。
「やあ!」
そいつは、元気に手をあげた。
「あんたって、ほんと変わり者ね。どうして逆に回るのよ?」
「スーパーって、総菜コーナーが最後にあるの。で、総菜って一番旬で、店でもお買い得の材料を使ってるんだ。そこで偵察して、食材を選ぶ。セオリーだよ。それから、豚コマ、しめじ、もやし、なんかは工場生産で、価格が安定してるから、まず確保だね。あ、お好み焼き粉買っちゃったの!?」
「うん、だって一円の超特売だから」
「バカだなあ!」
バカにバカと言われて、優子はむっとした。
「粉を大安売りしてるってことは、それに付随するキャベツとか、蛸、イカなんかの値段が高いんだよ。スーパーの手。う~ん……レタスにしときな、これは並の値段。あと豚コマ。ソースは二個セットの……」
「二個もいらないわよ」
「ボクも切れてるから、あとで分けよう」
こんな調子で、完全にW大生のペースに巻き込まれた。
帰り道、同じマンションであることが分かった。優子たちと同様ルームシェアリングしていたらしいペアが、この春に卒業したので、しばらくは一人暮らしのようだ。
道々、話を聞くと、彼はW大の二年生で、高橋宗司。意外にも大阪の出身であった。
「お好み焼きを作る」
と言うと、ごく自然に、部屋に上がり込んできて、生地を作り始めた。悪意や下心などは丸でなく、親切心……というより、こんな料理下手にやらせられるかというピュアな気持ちで、上がり込んできたようだ。
「ねえ、ちょっと量多くない?」
「ある程度の量を作らないと、一定以上の味が出ないんだ」
「でもね……」
そこにメールが入った――友だち連れていくから、一食分多目にお願い――
けっきょく、わたしの友だち春奈と、宗司、お隣の木下クンまで入って賑やかな初晩ご飯になった……。
58『優子の場合』
バカか、あいつは……?
優子は、他の通行人と共にあきれ返った。
大学の帰り、真由のようにお友だちもできなかった優子は、晩ご飯の用意にスーパーに寄ろうとして、そいつを見てしまった。
ベースは悪くないのだろうが、一目でW大生とわかるダサいパーカーのそいつは、交差点の真ん中で立ち往生している。
荷台に括りつけていたゴムバンドが外れて、垂れたフックが自転車の後輪に絡まり、身動きがとれなくなっているのだ。
滑稽なことに、本人は気づかず、幽霊かなんかが、理不尽に自分の自転車を止めている超常現象だと思っているらしいことである。
「あれ、あれ……ええ……(;'∀')?」
で、パニック寸前の顔で、交差点の真ん中でオロオロしている。
見ている通行人は、原因が超常現象などではなく、ただのドジであることが分かっていたので、クスクス笑っているばかり。それが、このW大生をさらにパニックに陥れていく。
「あ、悪霊の仕業か!?」
で、信号が青から黄色、そして赤に変わった。
アホかあいつは……!?
通行人の認識が変わった。ただ、信号が赤になったばかりの交差点に入って、哀れなW大生を助けるのにはリスクが高い。
信号は赤だが、彼の顔は青いままで、すでにパニックになりかけている。下手に助けに飛び込んだら、巻き込まれる恐れがあるので、誰も助けには出ない。
優子(幸子と優奈の融合体)は、義体のモードで車道に飛び出し、自転車を担ぎ、W大生の手を引いて、反対側の歩道に、あっと言う間に着いた。拍手と冷やかしが等しくおこった。
「ほんとっ、バカね、あんた!」
優子は、後輪に絡んだゴムひものフックを見せながら言った。
「え、え……このせいで?」
「そう、悪霊のせいなんかじゃなくて、あんたの悪い勘のせい!」
「あ、ど、どもありがとう(^_^;)」
「じゃ、これからは気を付けてね」
優子はさっさと車道の向こう側に戻りたかったが、信号が変わらない。W大生は動く気配がない。
「あんたの行く方向は、あっちじゃないの?」
「考え事してて、つい渡っちゃったんだ。バイトが、こっちのほうなもんだから」
「じゃ、バイト急いだら」
「今日はシフトに入ってないんだ。晩ご飯の材料買って帰るとこ」
「あ、そ」
優子は、さっさと歩き出した。なぜかW大生も後を付いてくる。
「なんで、付いてくんのよ!?」
「だって、Kマート、こっちだから」
「あ……」
木下に教えてもらったス-パーもKマートであった。もうKマートは目の前である。
「言っとくけど、運命だなんて思わないでね。わたしも最初からここに買い物に来るつもりだったの」
「あ、ども……」
優子は、さっさとKマートに入り、レジカゴを持って、野菜売り場から順路に従って回り始めた。
そして、冷凍食品のコーナーで、あいつを見つけてしまった。
あいつは、店の順路を逆回りして、実に手際よく品物をカゴののなかにぶち込んでいた。
「やあ!」
そいつは、元気に手をあげた。
「あんたって、ほんと変わり者ね。どうして逆に回るのよ?」
「スーパーって、総菜コーナーが最後にあるの。で、総菜って一番旬で、店でもお買い得の材料を使ってるんだ。そこで偵察して、食材を選ぶ。セオリーだよ。それから、豚コマ、しめじ、もやし、なんかは工場生産で、価格が安定してるから、まず確保だね。あ、お好み焼き粉買っちゃったの!?」
「うん、だって一円の超特売だから」
「バカだなあ!」
バカにバカと言われて、優子はむっとした。
「粉を大安売りしてるってことは、それに付随するキャベツとか、蛸、イカなんかの値段が高いんだよ。スーパーの手。う~ん……レタスにしときな、これは並の値段。あと豚コマ。ソースは二個セットの……」
「二個もいらないわよ」
「ボクも切れてるから、あとで分けよう」
こんな調子で、完全にW大生のペースに巻き込まれた。
帰り道、同じマンションであることが分かった。優子たちと同様ルームシェアリングしていたらしいペアが、この春に卒業したので、しばらくは一人暮らしのようだ。
道々、話を聞くと、彼はW大の二年生で、高橋宗司。意外にも大阪の出身であった。
「お好み焼きを作る」
と言うと、ごく自然に、部屋に上がり込んできて、生地を作り始めた。悪意や下心などは丸でなく、親切心……というより、こんな料理下手にやらせられるかというピュアな気持ちで、上がり込んできたようだ。
「ねえ、ちょっと量多くない?」
「ある程度の量を作らないと、一定以上の味が出ないんだ」
「でもね……」
そこにメールが入った――友だち連れていくから、一食分多目にお願い――
けっきょく、わたしの友だち春奈と、宗司、お隣の木下クンまで入って賑やかな初晩ご飯になった……。
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