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45『栄光へのダッシュ・1』

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妹が憎たらしいのには訳がある

45『栄光へのダッシュ・1』    



 優奈は懸命に練習した。

 桃畑律子の想いが分かったからだ。

 自分たちが生まれる前に、自分たちと同じ年頃の少女たちが対馬の山中で戦って死んでいった。そして、それは軍や政府の一部の人間にしか知られず、評価もされないどころか、存在さえ認知されていないことを。

 優奈は知ってしまった。

 そして、熱く想った。

 あの少女部隊のことは公表することはできないが、その想いは伝えなければと。

「声で歌うんじゃない、体で歌うんだ! 体が弾けて、その結果想いが歌になるんだ!」

 加藤先輩の指摘は厳しかった。そして、加藤先輩自身も壁にぶつかってしまった。叱咤激励はできてもイメージを伝える段階で自分のイメージもエモーションも希薄になっていく。

「これじゃ、ただのサバゲーのプロモだ。覚めたままビビットにならなきゃ!」

 冷蔵庫の中でお湯を沸かすような無茶を言う。


 俺たちは国防軍のシュミレーションを受けることにした。 


「謙三、祐介、左翼から陽動。太一はここを動かないで。真希、優奈は、わたしに続いて!」

 しかし、その動きは読まれていた。

 敵は謙三たちの陽動にひっかかったフリをして、圧力かけてきた。


「ハハ、大丈夫、陽動のまんま敵のど真ん中に突っ込めますよ!」

「余計なことはするな、おまえたちはあくまで陽動なんだ。太一、ブラフで指揮をとって!」

「了解」

 加藤先輩は、上手くいきすぎているような気がした。でも、それは、すでに真希と優奈に突撃を指示した後だった。「あ!」と思った時には、真希と優奈がパルス機関砲にロックされていることが分かった。

 閃光が走り、真希と、優奈は、粉みじんの肉片になって飛び散ってしまった。二人の血を全身に浴びた加藤先輩は、それでも冷静だった。

「総員合流、撤収す……」

 先輩の意識は、そこまでだった。

 敵は劣化パルス弾を撃ってきた。

 瞬間の判断で先輩は身をかわしたが、パルス弾は至近距離で炸裂した。


 炸裂の勢いがハンパではないために、先輩はグニャリと曲がったかと思うと、衝撃を受けた反対側の体が裂けて、体液や内臓が噴きだしていった。俺たちの分隊は壊滅してしまった……。

―― これが、対馬の前哨戦だよ ――

 桃畑中佐の声がした。

 訓練用の筐体から出てくるのには、みんな時間がかかった。あらかじめ衝撃緩和剤を服用していたが、それでも、今の戦闘のショックはハンパではなかった。


「緩和剤無しでは、発狂してしまうこともある」

「……これ、実戦記録がもとになってるんですよね」

「そうだよ、この分隊は運良く生き残った。隊員一人だけだけどね。その記録を元に作った訓練用シュミレーションだよ……ようし、全員心身共に影響なし」

 アナライザーの記録を見ながら、桃畑中佐が笑顔で告げた。

「この戦闘で、彼女たちは今のように……?」

「あの程度のブラフは簡単に読める。この戦闘では死傷者はいない。分隊がたった一人になったのは次の戦闘だ。ただ民間人の君たちにシュミレートしてもらえるのは、ここまでだ。むろん現役の部隊には最後までやらせている。失敗するものはいない。だから先日の防衛省への攻撃を陽動とした敵の侵攻は100%防ぐことができた」

 俺は、それを防いだのは、ねねちゃんにインスト-ルされた里中マキ中尉のおかげだと知っていたが、話さなかった。ねねちゃんも、お母さんのマキ中尉もそれを望んでいないことを知っていたから……。

 国防省で、シュミレートの体験をしてからの俺たちは変わった。

 プロの軍人から見れば遊びのようなものかもしれないが、毎日1000メートルの全力疾走と、バク転の練習を始めた。
 顧問の蟹江先生が、たえず脈拍や、心拍数を計測している。1000メートルの全力疾走というのは、古武道で言うところの死域に入ることに近い。
 死んだ肉体を精神力でもたせ、その能力を最大限に引き出す。俺たちは、それで限界の力を出そうとした。
 バク転は、恐怖心の克服である。短期間で、成果を出すのには、一番手っ取り早い。

 それをみっちり一時間やったあと、やっと演奏の練習。最初の三日間ほどは、全力疾走とバク転の練習でへげへげになり、とても演奏どころではなかったが、四日目には変わった!


《出撃 レイブン少女隊!》 

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために

 放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ

 世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート

 エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力

 手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!

 邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため

 わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上! 


 あきらかに歌にも演奏にも厚みと奥行きがでた。いけると思った。

「あかん、真剣すぎる。この厚みと奥行きを持ったまま、楽しいやらなあかん。うちらのは音楽で、演説やないねんさかい」

 俺たちは、加藤先輩の意見に、進んで手をあげることができた……。


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