上 下
36 / 68

36『幸子の変化・2』

しおりを挟む
妹が憎たらしいのには訳がある

36『幸子の変化・2』         



 出てきたのはAKR総監督の小野寺潤だ。

 そして、横のひな壇にも小野寺潤が……。


 ええええええええええええええええ!?


 スタジオのどよめきが頂点にさしかかったころ、MCの居中と角江が、さらに盛り上げにかかった。

「こりゃ大変だ、潤が二人になっちゃった!」
「い、いったいどういうことなんでしょうね!?」

 二人の潤は、それぞれ、自分が本物だと言っている。

「でも、あなたが本物なら、わたしは何なんでしょうね?」 

 二人の潤は、まだ演出の一部だろうと余裕がある。

 二人の潤を真ん中にして、メンバーのみんなが、マダム・タッソーの蝋人形と本物を見比べる以上の興奮になってきた。

「蝋人形は、動かないから分かるけど、こんなに動いて喋っちゃうと分かんないよ」

 メンバーの矢頭萌が困った顔をした。

「じゃ、じゃあ、みんなで質問してみよう。ニセモノだったら答えられないよう質問を!」

 居中が大声で提案。二人の潤を真ん中のまま、みんなはひな壇に戻り、質問を投げかける。


「飼っている猫の名前は?」「小学校のとき、好きだった男の子は?」「今日のお昼ご飯は?」

 などと、質問するが、その多くはADさんがカンペで示したもので、俺たちもそんなには驚かない。

 幸子と小野寺潤は骨格や顔つきが似ていて、幸子のモノマネのオハコが小野寺潤なので、今日は力が入ってるなあ……ぐらいの感触だった。

「じゃ、じゃあね、ここに小野寺さんのバッグ持ってきました。中味を御本人達って、変な言い方だけど、当ててもらいましょうか」

 角江がパッツンパッツンのバッグを持ち出した。

「公正を期すため、フリップに書きだしてもらおうよ。1分以内。用意……ドン!」

 スタジオは照明が落とされ、二人の潤が際だった。

「「出来ました!」」

 二人の潤が同時に手をあげ、それがおかしくて、二人同時に吹きだし、スタジオは笑いに満ちた。

「さあ、どれどれ……」

 角江が回収して、フリップがみんなに見せられた。

「アララ……順番は多少違いますが……違いますがあ……書いてることはいっしょですね」
「じゃ、とりあえず、バッグの中身をみてみましょう。角江さん、よろしく」

 角江が、バッグから取りだしたものは、若干の間違いはあったが、フリップに書かれた中身と同じだった。

「まあ、これは、予想範囲内です」

「ええ~!?」スタジオ中からブーイング。

「じつは、一人は潤ちゃんのソックリさんです。あらかじめ情報も与えてあります。でも、ここまで分からないなんて予想しなかったなあ」

「どうするんですか、居中さん。このままじゃ番組終われませんよ」

「実は、このフリップはフェイクなんです。中身はソックリさんにも教えてあります。だから、同じ内容が出て当たり前。これから、このフリップを筆跡鑑定にかけます。中身はともかく、筆跡は真似できませんからね。それでは、警視庁で使っている筆跡鑑定機と同じものを用意しました!」

 ファンファーレと共に、筆跡鑑定機が現れた。

「これ、リース料高いから、いま正体現さないでね……」

 おどけながら、居中はフリップを筆跡鑑定にかけた。二人の潤は「わたしこそ」という顔をしていた。

 三十秒ほどして、結果が出た……。

「そんなバカな……」

 鑑定機が出した答は『同一人物』だった。

「したたかだなあ、ソックリさん。筆跡まで……え、あり得ない?」

 エンジニアが、居中に耳打ちした。

「同じ筆跡は一億分の一だってさ!」

「「わたしのほうが……」」

 同時に声が出て、顔を見合わせて黙ってしまう二人。

「太一、過剰適応よ。メッセージを伝えて」

「メッセージ?」

「二人に向かって、『もういい、お前は幸子』だって気持ちを送ってやって……」

 俺は、機転を利かしフリップに小さく「おまえは幸子だ」と書いて気持ちを送った。

 やがて……。

「ハハ、どうもお騒がせしました。わたしがソックリの佐伯幸子で~す!」

 おどけて、幸子が化けた方の潤が立ち上がった。

「ビックリさせないでよ。予定じゃ、筆跡鑑定までに正体ばれるはずだったのに! 浜田さんも言ってくれなきゃ」

 ディレクターまで引っぱり出しての、お楽しみ大会になった。

 それから、幸子は潤とディユオをやったり、メンバーといっしょに歌ったり踊ったり。週刊メガヒットは、そのとき最高視聴率を叩きだして生放送を終えた。

「本当の自分を取り戻したくて……でも……CPのインスト-ル機能が高くなるばかりで、わたし本来の心が、なかなか蘇らない」

 潤の姿のまま、幸子は無機質に言った。感情がこもっていない分、余計無惨な感じがした。

「でも、オレのメッセージは通じたじゃないか。『おまえは幸子』だって」
「……そうだよね。それで、廊下で小野寺さんと入れ違って、ここまできたことが思い出せたのよね」
「少し、進歩したんじゃないのか」
「でも、小野寺潤が固着して、元に戻れない。メンテナンス……メンテナンス……」

 そして、電子音がして、幸子は止まってしまった。

「……さあ、またメンテナンスか……」

 そのとき、幸子の口が動いた。

「わ、わたし、自分で……」
「わたしが、シャワールームに連れていく」

 お袋が、幸子をシャワールームに連れて行った。廊下で待っている心配顔の仲間には「幸子、ちょっと横になっているから」と説明。

 直後、お袋が俺を呼んだ。


「太一じゃなきゃ、だめみたい」

 シャワールームで、幸子は裸で、背中を壁に預けて座っていた。

 何度やっても、これには慣れない。

 幸子を見ないようにキーワードを口にする。

「メンテナンス」

 ……反応しない。もう一度繰り返すが、やっぱり幸子は動かない。

 くそ……見ながら言わなくっちゃならないってか。

 視線を幸子に向ける。見てくれが小野寺潤のスッポンポンなので、どうにもドギマギする。

 さすがにアイドルグループのセンターを張るだけあって、無駄のない引き締まった身体をしている。胸がツンと上向きになってるとこや、シャープな腰のクビレとか谷間のとことか……いかん、さっさと済ませよう。

「メンテナンス」

 視線を固定して呟くと、幸子はゆっくりと膝を立てて開いていった……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第三部 『暗黒大陸』

橋本 直
SF
遼州司法局も法術特捜の発足とともに実働部隊、機動隊、法術特捜の三部体制が確立することとなった。 それまで東和陸軍教導隊を兼務していた小さな隊長、クバルカ・ラン中佐が実働部隊副隊長として本異動になることが決まった。 彼女の本拠地である東和陸軍教導隊を訪ねた神前誠に法術兵器の実験に任務が課せられた。それは広域にわたり兵士の意識を奪ってしまうという新しい発想の非破壊兵器だった。 実験は成功するがチャージの時間等、運用の難しい兵器と判明する。 一方実働部隊部隊長嵯峨惟基は自分が領邦領主を務めている貴族制国家甲武国へ飛んだ。そこでは彼の両方を西園寺かなめの妹、日野かえでに継がせることに関する会議が行われる予定だった。 一方、南の『魔窟』と呼ばれる大陸ベルルカンの大国、バルキスタンにて総選挙が予定されており、実働部隊も支援部隊を派遣していた。だが選挙に不満を持つ政府軍、反政府軍の駆け引きが続いていた。 嵯峨は万が一の両軍衝突の際アメリカの介入を要請しようとする兄である西園寺義基のシンパである甲武軍部穏健派を牽制しつつ貴族の群れる会議へと向かった。 そしてそんな中、バルキスタンで反政府軍が機動兵器を手に入れ政府軍との全面衝突が発生する。 誠は試験が済んだばかりの非破壊兵器を手に戦線の拡大を防ぐべく出撃するのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...