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28『バーチャルな履歴』

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妹が憎たらしいのには訳がある

28『バーチャルな履歴』    

 

 向こうの世界の幸子は千草子、通称チサと名乗って俺の家に同居することになった。

 髪をショートにして眉を少し変えたチサちゃんは幸子によく似た従姉妹ということで十分通った。
うちと同姓の佐伯という画家が、この時期に亡くなったので、役所の方で戸籍を改ざんし、チサちゃんは、その遺児ということになっている。甲殻機動隊はチサちゃんの履歴をつくり亡くなった佐伯さんの関係者や、チサちゃんが在籍したことになっている学校関係の人間の記憶にインストールした。むろんチサちゃん自身の記憶もそうなっている。

 これでチサちゃんのグノーシス対策は万全だ。学校は、うちの真田山ではなく、大阪フェリペへの編入だ。ねねちゃんといっしょにすることで、セキュリティーにも万全を期したようだ。

「チサちゃん、どうかした?」

 明日から学校という前の日に、チサちゃんは手紙を投函して戻ってきたとき目が潤んでいた。

「……ううん、なんでも」

 そう言って、チサちゃんは幸子と共用の部屋に駆け込んだ。親父もお袋も心配顔。

 しばらくして、幸子が部屋から出てきた。

「残してきた彼に手紙を書いていたら悲しくなってきたんだって。むろんバーチャルな記憶だけど、ちょっと手が込みすぎ」
「込みすぎって?」
「彼との馴れ初めは、中三の文化祭でクラス優勝して賞状をもらうとき。風で賞状が舞い上がって、クラス代表だった二人が慌てて取ったら、偶然二人がハグしあって……まあ、映像で見て」

 幸子が、テレビをモニターにして映しだした。ハグした二人の唇が一瞬重なった。他にも、二人の恋のエピソードがいくつもあったが、まるでラブコメのワンシーンのようだ。

『あの、ご不満かもしれませんが……』

 高機動車ハナちゃんの声が割り込んできた。ちなみにハナちゃんは、うちの狭い駐車場に割り込んで、二十四時間、ボクたち家族のガードに当たってくれている。

「なんだよ、ハナちゃん」
『チサちゃんの履歴を作ったのは、甲殻機動隊のバーチャル情報の専門機関なんですが、チーフがゲーム会社の出身で……』
「恋愛シュミレーションの専門家……なるほど」
『今でも、細部に手を加えて、更新してます……』

 まあ、それぐらい徹することができる人間でなければ、完ぺきにバーチャルな履歴など作れないのだろう。チサちゃんは、ドラマチックな青春を送ることになりそうだ……。

 その数日後、オレは里中さんに呼び出された。

 めずらしく高機動車ではなく、普通の自動車だった。

「実は、プライベートで頼みがあるんだ……」
「いいんですか、グノーシスとか……?」
「あっちは、いま極東戦争で手一杯だ。こっちに干渉している気配もない」
「で、なんですか用件というのは?」
「実は……」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」

 というわけで、オレはねねちゃんになってしまった……。


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