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25『序曲の終わり』

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妹が憎たらしいのには訳がある

25『序曲の終わり』    




 甲殻機動隊里中副長の娘のねねちゃんが立っていた……。

 サッチャンは不審に思って一歩引きさがる。その分幸子が前に出て、俺が挟まれる形になる。

「あなたは……」
「この子は……」

 ねねちゃんが薄く微笑む。

「義体の微笑みね」
「ああ、中味はグノーシスのハンス。性別・年齢不明だけど、いちおう味方だよ」

 オレが説明すると、ねねちゃんは労るように言い添える。

「AGRの連中が、そっちのサッチャンを狙ってる。甲殻機動隊で保護させてもらうわ」
「そりゃありがたい。幸子、この子はねねちゃんと言って……」
「里中副長さんの娘さん」
「知ってたのか?」
「お兄ちゃんの記憶を読んだの」
「だったら話は早いや。甲殻機動隊なら安心できるからな……って、人の記憶なんか読むなよ(^_^;)」
「そうよ、じゃ、預かっていくわね……」

 ダメよ

 幸子が立ちふさがる。

「そうはさせない。サッチャンを利用しようとしているのは、あなただもん」

「え?」

 俺は混乱した。

 駅前で出会って以来、ねねちゃんは中身はハンスだけれど俺たちの味方だ。


「バカなことを。わたしはハンス。あなたたちの味方……」
「違う。サッチャンを使って、そちらの極東戦争を有利に運ぼうというのが評議会の決定だものね、でしょ?」
「チ……バカ兄貴のダダ洩れ脳みそでなくても読めるんだ!」

 バッシャーン!

 ねねちゃんは窓ガラスを蹴破って、屋上に飛び出していった。

「サッチャンを見てて!」

 そういうと幸子も破れた窓から屋上に飛び上がっていった。

「残念ながら、ヘリコプターは甲殻機動隊がハッキングしたみたいね。ここには来ないわ」

 上空のヘリコプターが、お尻を振って飛び去るのが見えた。

「デコイの偽像映像もまずかったな」

 屋上で待ち伏せていた里中副長がポンプ室の陰から出てきた。

「どうしてデコイと分かったの?」
「こっちの幸子ちゃんは、兄貴と二人の時は絶対に笑わない。ニュートラルな時は、ニクソイまんまだ」

 ねねちゃんの目の光が険しくなった。発するオーラは男の戦闘員……ハンスだ。

「評議会の結論が変わったのか……」

「ああ、美シリたちが工作してな。そういう情報のネットワーク化ができないのが、そっちの弱みなんだな」
「だから、サッチャンを使ってグロ-バルネットにしようと思ったのに……」
「ご都合主義なんだよ……」
「里中……」
「あばよ……」

 ズドーーーーン!

 里中副長は、背中に隠し持っていたグレネードで、幸子の蹴りが入る寸前にねねちゃんを始末した。幸子は給水タンクを凹ませて俺の前に着地した。

「殺しちゃったら、何も情報が得られないわ……」

「こいつに余裕を持たせると時間を止められてしまう。幸子ちゃんの蹴りの気迫が、こいつの隙になった。礼を言う。ガーディアンがガード対象に救われてちゃ世話ないけどな」

 そう言いながら、里中副長は、ねねちゃんの残骸をシュラフに詰め始めた。

「洗浄は、わたしがやっとく」
「すまん。ガードは、しばらく部下がやる。いちおう、義体はオレの娘だったから、始末ぐらいは、自分の手でしてやりたい」
「始末なんて言わないで」
「じゃ、なんて……?」
「自分の口から言わなきゃ意味無いわ」
「……じゃ、言わない。ただハンスは」
「ハンスは、いま死んだわ。なにか?」
「……いや、なんでもない」

 そう言い残すと、里中副長は非常階段を降りていった。幸子は、屋上に残ったねねちゃんの生体組織から飛び散った血液と微細片を高圧ホースで流していった。

 ……すごい展開だった、だが……ここまでのことは、ここから起こるパラレル世界とグノーシスの骨肉の争いに巻き込まれる、ほんの兆し過ぎなかった……。



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