上 下
5 / 68

5『幸子の学校見学』

しおりを挟む
妹が憎たらしいのには訳がある

5『幸子の学校見学』            



「おい、むっちゃ可愛い子おが体験入学に来てるみたいやぞ!」

 クラスメートで同じケイオンの倉持祐介が目を輝かせる。

「ほんとかよ!」
 俺も人並みには女の子にも関心がある。ちょうど食べ終えた弁当のフタをして、腰を浮かせた。
「もー、ちょっと可愛い思たら、これやねんからなあ」
 これも、クラスメートでケイオンの山下優奈がつっこんでくる。
「そやかて優奈、ビジュアル系のボーカル欲しいて言うてたやないか」

 と、いうことで、祐介の目撃場所であるピロティーが見下ろせる渡り廊下に急いだ。
 渡り廊下にはすでに数人の生徒が高校生的好奇心プラス大阪人のスケベエ根性丸出しでピロティーを見下ろしていた。ピロティーと隣接する中庭にいる生徒の多くも、チラ見しているのがよく分かった(ちなみに、大阪人のチラ見は東京のジロジロと変わらない)。

 セーラー服のツィンテールが振り返って気が付いた。

「あ、幸子!」
「え?」
「うん?」

 俺の早口は、祐介と優奈には、よく分からなかったようだ。俺は一階まで降りて距離を置いて幸子を睨んだ。

――来るんなら一言言え。そして、人目に付かない放課後にしやがれ!――

 俺の怨念が届いたのか、幸子は俺に気が付くと駆け寄ってきた。

「お兄ちゃ~ん!(^0^)!」

 完全な、外出用のブリッコモードだ。

「兄の太一です。存在感が薄くて依存心の強い兄ですが、よろしくお願いします」
「ええ! 佐伯の妹か……ぜんぜん似てへんなあ!」

 教務主任で副担任の吉田先生が、でかい地声で呟き、近くにいた生徒たちが、遠慮のない声で笑った。

「えと……うちを受けることになると思いますんで、よろしくお願いします」

 兄として、最低の挨拶だけして、そそくさと教室に戻った。しまい忘れていた弁当箱をカバンにしまっていると、優奈が、いきなり肩を叩いた。

「いやー! 太一の妹やねんてなあ。ぜったいケイオンに入れんねんで! あの子には華がある。ウチとええ勝負やけどな」
 
 うちの学校に限ったことではないだろうけど、大阪は情報が伝わるのが早い。

「あの子、美術の見学に行って、デッサン描いたらメッチャうまいねんて。ほら、これ」

 五限が終わると、優奈が写真を見せにきた。恐るべき大阪女子高生のネットワーク!

「おい、情報の授業見学してて、エクセル使いこなしたらしいぞ、幸子ちゃん!」

 六限が終わると、祐介がご注進。今度のシャメは、十人ほどの生徒たちを、アイドルのファンのように従えて写っていた……で、マジで、放課後には幸子のファンクラブが出来た。

――サッチーファンクラブ結成、連絡事務所は佐伯太一、よろしく!――

 スマホで、それを見たときは、マジで目眩がした。発起人は祐介を筆頭に数名の知っているのやら知らないのやらの名前が並んでいた。

 その日は、運悪く中庭の掃除当番(広くて時間がかかる)に当たって部活に行くのが遅れた。まあ、マッタリしたケイオンなので、部活の開始時間は有って無きが如く。メインの先輩グループを除いては、テキトーにやっている。

 それが……。

――なんじゃこりゃ!?――

 いつもエキストラ同然の一年生が使っている三つの普通教室はカラッポで、突き当たりの視聴覚教室が、防音扉を通しても、はっきり分かる賑やかな気配。

 入ってびっくりした( ゜Д゜)!

 先輩グループが簡易舞台の上で、いきものがかりの歌なんかを熱唱し、みんながそれを聞いている。そして……そのオーディエンスの最前列中央に幸子が座っている!
 俺は、その異様な空間の中で、ただ呆然と立っているだけだった。

 満場の拍手で、我にかえった。

「どう、サッチャン。ケイオンてイケてるやろ!?」

 リーダーの加藤先輩が、スニーカーエイジの本番のときのように興奮して言った。

「はい、とっても素敵でした!」
「どう、サッチャンも、楽器さわってみない?」
「いいんですか!?」

 とんでもない。加藤先輩のアコステは二十万以上するギブソンの高級品。俺たちは絶対触らせてももらえないイチモツだ。

「初めてなんですけど、いいですか?」
「いいわよ、簡単なコード教えてあげる」

 驚きの声と拍手が同時にした。冷や汗が流れる。

「コードは……スコアの読み方は……」

 小学生に教えるように優しく先輩は教え、幸子はぎこちなくそれにならった……。

 それから十五分後、幸子は、いきものがかりのヒットソングを、俺が言うのもなんだけど、加藤先輩以上に上手く歌った。むろんギターもハンチクな俺が聞いてもプロ級の演奏だった。

「サッチャン……あんた……」

 先輩たちが、驚異の眼差しで見た。

「あ、加藤さんの教え方が、とても上手いんですよ。わたしは、ただ教えてもらったとおりやっただけです(;^_^」

 可愛く、肩をすくめる幸子。

「佐伯クン、あんたたち、ほんとに同じ血が流れてる兄妹……?」

 加藤先輩の言葉で、みんなの視線が俺に集まった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

2024年のサイキック・ウォー

大橋東紀
SF
二人の出会いは、人体自然発火!超能力による殺人は、立件できるのか? 公衆の面前で、何も道具を使わず人を燃やした青年 羽柴五郎は、自身を超能力を持った新人類で、悪の新人類と戦っていると言い張る。医師である蘭堂裕美は、彼の治療の為に、自分も新人類であると詐称するが……。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。  遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。  その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

戦争奇譚

榛翔
SF
 タイムスリップをして来た春流(はるな)は、幼馴染の飛衛(ひえい)と再開を果たす。  そこは、男性ではなく女性だけが入隊を許可されている部隊だった。

スタートレック クロノ・コルセアーズ

阿部敏丈
SF
第一次ボーグ侵攻、ウルフ359の戦いの直前、アルベルト・フォン・ハイゼンベルク中佐率いるクロノ・コルセアーズはハンソン提督に秘密任務を与えられる。 スタートレックの二次作品です。 今でも新作が続いている歴史の深いSFシリーズですが、自分の好きなキャラクターを使わせて頂いています。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

処理中です...