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90〔いいかげんにしなさい!〕
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明神男坂のぼりたい
90〔いいかげんにしなさい!〕
再婚同士の連れ子は法的には結婚できる。
法律的にはそうだけども、美枝自身もはっきり言ってたことだけども……ほんとうにするとは思ってなかった。
―― うそだ ――
心の中から声が聞こえる。あたしの内心の声かさつきかはよくわからない。だけど、最初に思ったのはそれだった。
二か月ほども前から、あたしは美枝の気持ちを知っていた。
「連れ子同士だけど、結婚はできる」
美枝の、その言葉を、どこかでスルーしてきた。
なんと言っても、美枝は、まだ十七歳。あたしもそうだけど。
結婚とか、妊娠とかは、まだ子供の背伸びした夢か怖れ程度にしか受け止めてなかった……いや、ウソだ。
高校生の妊娠騒ぎは、けっこうあるのは知っていた。お父さんも現役の教師だったころ、この問題で走り回っていたことがある。連れ子同士の結婚も、多くはないけど、普通にあることも知っていた。
偶然だったけど、美枝の家に行く前に寄ったコンビニで、美枝のお兄さんがコンドーさん買ってたのも見てる。だから、美枝が妊娠することは無いと、どこかでタカをくくってた。
いや、ウソだ。ゆかりは、しっかり知っていた。ゆかりは友達としての寄り添い方が違う。
あたしはAKRに入って、正直きつい毎日。別の心が「仕方ないよ」と言ってる……それも、そうかなと思う。
気持ちを聞いたとき一度は反対はしてる。
でも、それは、言い訳のアリバイ。また、心のどこかが呟く。
この二日、レッスンはさんざんだった。
「どうしたの、明日香全然だよ!」「いいかげんにしなさい!」
一昨日も昨日も夏木先生に注意された。
「たとえ親が死んでも、平気でやれなきゃ、この世界は通用しないのよ!」
夏木先生の理屈は、その通りだけど、気持ちが素直には着いてこない。
―― あたしは、メッチャ忙しい。美枝には一度ならず注意はした。愛していたらコンドーなんか使うなってバカを言ってた、でも、あれは子どもが拗ねていたようなもの、まさか本気で……でも、要は本人の問題、美枝がうかつだった。だけど……だけど、それで済むか? ――
あたしの頭は、この三日間同じところをグルグル回ってる。
今日も、そんな気持ちを引きずりながらAKRのスタジオまで来てしまった。スタジオが入ってるビルの手前でカヨちゃんが待っていた。
「ちょっといい?」
カヨさんに、ビルの裏側に連れていかれた。ビルと車道のバンの間で、カヨさんは振り返った。
「今からしばく」
バシッ!
真剣な目で見られた直後、左のほっぺたに痛みを感じた。
小学校の時、お母さんにぶたれて以来だった。
「カヨちゃん……」
「あたしたちはプロ、外のこと引きずってくんな! なにがあったか知らないけど、そんなことであたしらの足引っ張らないで。友達だから、一回だけは言っとく!」
そう言うとカヨちゃんは、さっさとスタジオの方に行った。
いろんなものがせきあげてきて、涙がぽろぽろこぼれてきた……。
90〔いいかげんにしなさい!〕
再婚同士の連れ子は法的には結婚できる。
法律的にはそうだけども、美枝自身もはっきり言ってたことだけども……ほんとうにするとは思ってなかった。
―― うそだ ――
心の中から声が聞こえる。あたしの内心の声かさつきかはよくわからない。だけど、最初に思ったのはそれだった。
二か月ほども前から、あたしは美枝の気持ちを知っていた。
「連れ子同士だけど、結婚はできる」
美枝の、その言葉を、どこかでスルーしてきた。
なんと言っても、美枝は、まだ十七歳。あたしもそうだけど。
結婚とか、妊娠とかは、まだ子供の背伸びした夢か怖れ程度にしか受け止めてなかった……いや、ウソだ。
高校生の妊娠騒ぎは、けっこうあるのは知っていた。お父さんも現役の教師だったころ、この問題で走り回っていたことがある。連れ子同士の結婚も、多くはないけど、普通にあることも知っていた。
偶然だったけど、美枝の家に行く前に寄ったコンビニで、美枝のお兄さんがコンドーさん買ってたのも見てる。だから、美枝が妊娠することは無いと、どこかでタカをくくってた。
いや、ウソだ。ゆかりは、しっかり知っていた。ゆかりは友達としての寄り添い方が違う。
あたしはAKRに入って、正直きつい毎日。別の心が「仕方ないよ」と言ってる……それも、そうかなと思う。
気持ちを聞いたとき一度は反対はしてる。
でも、それは、言い訳のアリバイ。また、心のどこかが呟く。
この二日、レッスンはさんざんだった。
「どうしたの、明日香全然だよ!」「いいかげんにしなさい!」
一昨日も昨日も夏木先生に注意された。
「たとえ親が死んでも、平気でやれなきゃ、この世界は通用しないのよ!」
夏木先生の理屈は、その通りだけど、気持ちが素直には着いてこない。
―― あたしは、メッチャ忙しい。美枝には一度ならず注意はした。愛していたらコンドーなんか使うなってバカを言ってた、でも、あれは子どもが拗ねていたようなもの、まさか本気で……でも、要は本人の問題、美枝がうかつだった。だけど……だけど、それで済むか? ――
あたしの頭は、この三日間同じところをグルグル回ってる。
今日も、そんな気持ちを引きずりながらAKRのスタジオまで来てしまった。スタジオが入ってるビルの手前でカヨちゃんが待っていた。
「ちょっといい?」
カヨさんに、ビルの裏側に連れていかれた。ビルと車道のバンの間で、カヨさんは振り返った。
「今からしばく」
バシッ!
真剣な目で見られた直後、左のほっぺたに痛みを感じた。
小学校の時、お母さんにぶたれて以来だった。
「カヨちゃん……」
「あたしたちはプロ、外のこと引きずってくんな! なにがあったか知らないけど、そんなことであたしらの足引っ張らないで。友達だから、一回だけは言っとく!」
そう言うとカヨちゃんは、さっさとスタジオの方に行った。
いろんなものがせきあげてきて、涙がぽろぽろこぼれてきた……。
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