34 / 109
34〔ナポレオンの結婚記念日〕
しおりを挟む
明神男坂のぼりたい
34〔ナポレオンの結婚記念日〕
今日は、ナポレオンの結婚記念日。
なんで、そんなこと知ってるか……明菜が電話してきたから。
なんで、明菜が電話してきたら、ナポレオンの結婚記念日と分かるか。
「ナポレオンの結婚記念日だから、会わない?」
と、明菜が誘ってきたから。
なんで、こんな、妙な誘いかたをしてきたか言うと、明菜とは、しばらく疎遠だったからだと思う。
明菜は中学の同級生。
高校は同じTGHだった。で、ほどほどの友達だった……けれど、明菜は一学期だけで、学校辞めてしまった。
ウワサでは、先生(誰とは分からないけど)と適わなかったから。高校では、クラスも違ったし、話す機会も無かったので、それっきり。絵に描いたような『去る者は日々に疎し』だった。
その明菜が電話してきて「会って話がしたいんだけど……」だよ。
あたしは、なんの気なしに「なんで?」と聞いてしまった。
すると、その答が「ナポレオンの結婚記念日だから」だった。
ネットで調べたら、ホンマにナポレオンの結婚記念日だったからビックリした。
もともと勉強できる子だったけど、とっさに、そんなのが出てくるのは、さすが明菜だと思った。
「ねえ、なんで明菜会いたがってんだろ?」
馬場さんの明日香に聞いても、お雛さまに聞いても、アンネに聞いても答えてくれない。やっぱり、この三人が、喋ったり動いたりするのは、特別な時だけみたい。
明菜の家は、神田川を挟んだ南側にある。
聖橋を渡って、ちょっと行くと、このあたりのランドマークのニコライ堂。
そのニコライ堂の裏にある、千代田区では珍しい日本家屋のお屋敷。
友だちなんかに「うちはニコライ堂の裏です」と言うと、それを知ったお爺様が「ニコライ堂が、うちの裏だ」と注意するくらい、古くから……たぶん、江戸時代から続いてるお家。
一回だけ遊びに行ったことがあるけど、敷地だけでうちの八倍以上。お家も、それに見合う豪勢さ。庭だけでもうちの家の敷地の倍ぐらいありそうだった(^_^;)。
明菜との疎遠は、この豪勢さにある。
うちは、もうそのころは両親共々仕事辞めて、定期収入が無くなっていた。お父さんは「明日香は作家の娘なんだぞ」なんて言うけど。収入が無かったら、経済的には無職と同じ。
それで気後れして、あたしの方から連絡することは無かった。
だから、明菜が学校をOGHに決めたときはビックリした。あの子の内申と偏差値、それに経済力なら、もっといい高校行けたはず……。
パンパン
いつもより、念入りに明神さまに二礼二拍手一礼のご挨拶して、聖橋のたもとで明菜と待ち合わせ。
「ボチボチの天気ねえ……」
「そだね……」
ほぼ一年ぶりの友達の会話としては、なんともたよりない。
しばらくは、黙って外堀通りを歩いた。
「もう、半月もしたら、桜も咲いていいのになあ……」
あたしの何気ない一言が明菜を傷つけた。
明菜は、唇を噛みしめたかと思うとポロポロと涙を流した。
「ごめん。あたし、なにか悪いこと言ったかな……」
「ううん、明日香は、なんにも悪ない。わたしが、切り出せないから……」
「……ちょっと、座ろっか」
気が付くと学校の前まで来ている。道を挟んだ、こっち側には生徒たちの間で『テラス』と呼ばれている川沿い公園みたいなのがあって、そこの花壇の端に並んで腰かける。
「うちの親、離婚するんだ」
「え……」
イキナリなにを!?
「事情は、よく分からない。ケンカしたわけでもないし、浮気でもない。なにか、発展的な離婚だって、お父さんも、お母さんも涼しい顔してる。そして、気楽に『明菜はどっちに付いていく?』だって。あたしのこと置き去りにして……バカにしてるわ!」
最後の一言が大きい声だったので、ご通行中の学生さんがビクッと振り返る。
それに愛想笑いして間を持たせると、明菜が続ける。
「どっちに付いていっても、あの家は出ていかなくちゃならない……せっかく過年度生で千代田高校受かったのに」
複雑に驚いた。
明菜は、東京で偏差値ベスト3の千代田行けるほど頭良かったんんだ。そして、羨ましいことに関根先輩と同じ学校。なんで、去年は格下のTGHなんか受けたんだろ。そして、なんで、学校辞めたんだろ。なんで、あたしなんかに相談するんだろ……。
「わたし、一番気の合ったのは明日香なの。友達少ないから、相談できるんは明日香しかいなくて……」
もう一度ビックリした。
こんなに恵まれて、美人で、勉強もできて……で、友達があたし?
わたしは、自分のことが、よく分からない。馬場さんが、あたしをモデルに絵ぇ描いたことよりもびっくり!
「明日から、うちの家族……もう家族て言えるようなもんじゃないけど。離婚旅行に行くの」
「り、離婚旅行!?」
頭のテッペンから声が出てしまった……。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
明菜 中学時代の友だち 千代田高校
34〔ナポレオンの結婚記念日〕
今日は、ナポレオンの結婚記念日。
なんで、そんなこと知ってるか……明菜が電話してきたから。
なんで、明菜が電話してきたら、ナポレオンの結婚記念日と分かるか。
「ナポレオンの結婚記念日だから、会わない?」
と、明菜が誘ってきたから。
なんで、こんな、妙な誘いかたをしてきたか言うと、明菜とは、しばらく疎遠だったからだと思う。
明菜は中学の同級生。
高校は同じTGHだった。で、ほどほどの友達だった……けれど、明菜は一学期だけで、学校辞めてしまった。
ウワサでは、先生(誰とは分からないけど)と適わなかったから。高校では、クラスも違ったし、話す機会も無かったので、それっきり。絵に描いたような『去る者は日々に疎し』だった。
その明菜が電話してきて「会って話がしたいんだけど……」だよ。
あたしは、なんの気なしに「なんで?」と聞いてしまった。
すると、その答が「ナポレオンの結婚記念日だから」だった。
ネットで調べたら、ホンマにナポレオンの結婚記念日だったからビックリした。
もともと勉強できる子だったけど、とっさに、そんなのが出てくるのは、さすが明菜だと思った。
「ねえ、なんで明菜会いたがってんだろ?」
馬場さんの明日香に聞いても、お雛さまに聞いても、アンネに聞いても答えてくれない。やっぱり、この三人が、喋ったり動いたりするのは、特別な時だけみたい。
明菜の家は、神田川を挟んだ南側にある。
聖橋を渡って、ちょっと行くと、このあたりのランドマークのニコライ堂。
そのニコライ堂の裏にある、千代田区では珍しい日本家屋のお屋敷。
友だちなんかに「うちはニコライ堂の裏です」と言うと、それを知ったお爺様が「ニコライ堂が、うちの裏だ」と注意するくらい、古くから……たぶん、江戸時代から続いてるお家。
一回だけ遊びに行ったことがあるけど、敷地だけでうちの八倍以上。お家も、それに見合う豪勢さ。庭だけでもうちの家の敷地の倍ぐらいありそうだった(^_^;)。
明菜との疎遠は、この豪勢さにある。
うちは、もうそのころは両親共々仕事辞めて、定期収入が無くなっていた。お父さんは「明日香は作家の娘なんだぞ」なんて言うけど。収入が無かったら、経済的には無職と同じ。
それで気後れして、あたしの方から連絡することは無かった。
だから、明菜が学校をOGHに決めたときはビックリした。あの子の内申と偏差値、それに経済力なら、もっといい高校行けたはず……。
パンパン
いつもより、念入りに明神さまに二礼二拍手一礼のご挨拶して、聖橋のたもとで明菜と待ち合わせ。
「ボチボチの天気ねえ……」
「そだね……」
ほぼ一年ぶりの友達の会話としては、なんともたよりない。
しばらくは、黙って外堀通りを歩いた。
「もう、半月もしたら、桜も咲いていいのになあ……」
あたしの何気ない一言が明菜を傷つけた。
明菜は、唇を噛みしめたかと思うとポロポロと涙を流した。
「ごめん。あたし、なにか悪いこと言ったかな……」
「ううん、明日香は、なんにも悪ない。わたしが、切り出せないから……」
「……ちょっと、座ろっか」
気が付くと学校の前まで来ている。道を挟んだ、こっち側には生徒たちの間で『テラス』と呼ばれている川沿い公園みたいなのがあって、そこの花壇の端に並んで腰かける。
「うちの親、離婚するんだ」
「え……」
イキナリなにを!?
「事情は、よく分からない。ケンカしたわけでもないし、浮気でもない。なにか、発展的な離婚だって、お父さんも、お母さんも涼しい顔してる。そして、気楽に『明菜はどっちに付いていく?』だって。あたしのこと置き去りにして……バカにしてるわ!」
最後の一言が大きい声だったので、ご通行中の学生さんがビクッと振り返る。
それに愛想笑いして間を持たせると、明菜が続ける。
「どっちに付いていっても、あの家は出ていかなくちゃならない……せっかく過年度生で千代田高校受かったのに」
複雑に驚いた。
明菜は、東京で偏差値ベスト3の千代田行けるほど頭良かったんんだ。そして、羨ましいことに関根先輩と同じ学校。なんで、去年は格下のTGHなんか受けたんだろ。そして、なんで、学校辞めたんだろ。なんで、あたしなんかに相談するんだろ……。
「わたし、一番気の合ったのは明日香なの。友達少ないから、相談できるんは明日香しかいなくて……」
もう一度ビックリした。
こんなに恵まれて、美人で、勉強もできて……で、友達があたし?
わたしは、自分のことが、よく分からない。馬場さんが、あたしをモデルに絵ぇ描いたことよりもびっくり!
「明日から、うちの家族……もう家族て言えるようなもんじゃないけど。離婚旅行に行くの」
「り、離婚旅行!?」
頭のテッペンから声が出てしまった……。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん 今日子
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
巫女さん
だんご屋のおばちゃん
明菜 中学時代の友だち 千代田高校
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる