明神男坂のぼりたい

武者走走九郎or大橋むつお

文字の大きさ
上 下
30 / 109

30〔プチプチ〕

しおりを挟む
明神男坂のぼりたい

30〔プチプチ〕 



 授業が次々に終わっていく。

 三学期の最終週だから、ほんとうに二度と帰ってこない授業たち。


 と……特別な気持ちにはならない(^_^;)。

 強いて言うなら「サバサバした」いう表現が近い。

 学校で、うっとうしいものは人間関係と授業。

 両方に共通してんのは、両方とも気を使うこと。つまらないことでも、つまらない顔をしてはいけない。


 学校でのモットーは、休まずサボらず前に出ず。

 一番長い付き合いがクラス。完全にネコっ被り。

 おかげで、一年間、シカトされることも、ベタベタされることもなかった。


 授業も同じ。

 板書書き写したら、たいがい前を向いて虚空を見つめている。

 それが、時に大人しい子だという印象を持たれ、こないだの中山先生みたいに「白木華に似てるねえ」なんちゅう誤解を生む。

 あの月曜日の誤解から、あたしはいっそう自重している。

 だから昨日はなんともなかった。

 ただ虚空を見つめてると意識が飛んでしまって、関根先輩と美保先輩は夕べ何したんだろ……もっと露骨に、ベッドの上で、どんなふうに二人の体が絡んでいるのか、美保先輩が、どんな声あげたんだろうかと妄想してしまう(#^0^#)。

 ああ、顔が赤くなってくる。適度に授業聞いて意識をそらせよう。

 で、これが裏目に出てしまった。

 現代社会の藤森先生が、なんと定年で教師生活最後の授業が、うちのクラスだった。


「ぼくは、三十八年間、きみたちに世の中やら、社会の出来事を真っ直ぐな目で見られるように心がけて社会科を教えてきました……」


 ここまでは良かった。

 適当に聞き流して拍手で終わったらいい話。

 授業の感想書けとか言われたら嘘八百書いて、先生喜ばせたらいい話。


 ところが、先生はA新聞のコラムを配って、要点をまとめて感想を書けときた。


 コラムは政府の右傾化と首相の靖国参拝を批判する内容……困ってしまった。

 あたしは政府が右傾化してるとも思わないし、靖国参拝も、それでいいと思ってる。

 明神さまには毎朝挨拶してるし、靖国には行ったことないけど、行けば、同じように二礼二拍手すると思う。

 だいいち、新聞読まないしね。

 困ってしまって、五分たっても一字も書かけない。そんなあたしに気がついたのか、先生が見てる。


『藤森先生は、いい先生でした!』


 苦し紛れに、後ろから集める寸前に、そう書いた。

 先生は、集め終わったそれをパラパラめくって、あたしの感想文のとこで手を停めた。

「鈴木。誉めてくれるのは嬉しいけど、先生は、コラムの感想書いてって言ったんで……ま、いいわ。で、どんなな風に『いい先生』なんだ? よかったら聞かせてくれないか」


「そ、それは……ですね……えと…………」

 だめだ、みんなの視線が集まり始めた。

「なにを表現してもいい、だけど、これでは小学生並みの文章だ」

 ちょっとカチンときた。だけど、教師生活最後の授業。丸くおさめなきゃ……あせってきた。


「先生は、どうでも……」


 あとの言葉に詰まってしまった。どうでもして、生徒に批判精神をつけてやろうと努力された、いい先生です……みたいな偽善的な言葉が浮かんでたんだけど、批判? 批評? 言葉へん? どうでも? どうとしてでも? あ、えと……

 プチパニック!

「先生は、どうでも……」

 先生が、促すようにリフレインしてくる。切羽つまって言ってしまった。

「先生は、どうでも……いい先生です!」

 この言葉が誤解されて受け止められたことは言うまでもない。

 藤森先生は真っ赤な顔をして、憮然として授業を終わった。


 放課後、担任の毒島(ぶすじま)先生に怒られた。

 しかし、言われたように謝りには行けなかった。


 ブスッとして帰ったら、御茶ノ水の駅前、くたびれ果てた関根先輩に会った。

「どうしたんですか?」

 思わず聞いてしまった。

 心の片隅で美保先輩と別れたいう言葉を期待した。

「自衛隊の体験入隊はきついわ……」

「え?」

 プチゲシュタルト崩壊。

「美保は、お父さんが車で迎えにきた……オレは、しばらくへたってから帰るわ」

 
 プチプチプチ……


 音を立てて脳細胞が死んでいくような気がした……。



※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん         今日子
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生
 巫女さん
 だんご屋のおばちゃん
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

処理中です...