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14〔スターとの遭遇〕

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明神男坂のぼりたい

14〔スターとの遭遇〕     

     


 たまに下校のルートを変える。

 いつもは外堀通りなんだけど、水道橋を渡って神田川の南に出て駿河台の方に進む。

 ちょっと遠回りなんだけど、神田川と中央線が朝とは反対の北側にくるので、気分転換にいいんだ。

 特にね、今日は稽古がうまくいったので、ちょっとシミジミしたいわけ。

 水道橋渡ってすぐ、東亜学園を右に見て曲がると駿河台の坂道。そこを東に向かって十分ちょっとで御茶ノ水橋。

 気分次第で、もう少し直進して聖橋を渡って帰ることもある。


 あ!?


 一瞬メガネを取った、その顔は、若手女優の梅田はるかだ!

 あたしは、間抜けなことにお茶の水駅まで来て、ヨッテリアの前で台本を忘れたのに気がついた。

 そして、振り返ったときに至近距離で目が合った。


 そうだ、春からの新作ドラマ、舞台はこの辺だって、ネットの情報だった。

 ちょっと離れたとこにカメラとか音響さんやらのスタッフがいる。休憩なんだろう、スターは駅前の交差点で、ボンヤリと下校途中の高校生を見ていた。で、たまたま、台本忘れたのに気が付いた間抜けなあたしと目が合ったんだ。

「あなた演劇部?」

「え、あ、はい。TGHの演劇部です」

「TGH、そこの?」

「あ、はい」

「ああ、そうなんだ。神田川の向かいだから覚えてる」

 あたしも思い出した。梅田はるかは、大阪の女優さんだけど、一時家の都合で東京に引っ越して、東亜学園に転校してきたんだ。代表作『わけあり転校生の7カ月』は、ドラマでも原作本でも有名だ。

「そう、その東亜学園に行くんだけど、いっしょに行く同窓生が仕事でアウト。どうだろ、よかったらお供してくれないかな?」

「え……!?」

「あなた、演劇部でしょ?」

「え、あ、どうして(分かるんだ)?」

「だって、カバンから台本覗いてる」

 あ……そうだ、水道橋渡るときにカバンに突っ込んだんだ。

 いつもは、台本読み返しながらだから家に着くまで手に持ってるんで、忘れたと思ったんだ(^_^;)

 恥ずかしさと安心と可笑しいのでアワワしてしまう。様子に気付いたスタッフが、集まってくる。

「編入試験受けるとき、水道橋で下りて、ここまで来て気づいたの。とっくに行き過ぎてるの。ここいらの学校って、ビルでしょ。学校だって気づかなかったことに気付いて。アハハ、なんか変みたいだけど、大阪は、学校ってグラウンドがあって、ここらへんみたいにビルっぽい校舎ってないからね。あ、上地さんいいですか?」

 監督みたいな人に声かけると「うん」と頷いて決まってしまった。

 流れと勢いで、あたしははるかさんのお供をすることになったよ。

「テストは間に合ったんですか?」

「うん、一時間勘違いして早く来ちゃってた(#^▽^#)!」

「「アハハ」」

 天性の明るさなのか、タレント性なのか、お日様みたいにポジティブなはるかさん。

「懐かしいなあ……ヨッテリアの二階」

「『ジュニア文芸八月号』 あそこで吉川先輩に見せられたんですよね!」

「よく知ってるわね!」

 はるかさんの出世作は、さっきも触れたけど、『わけあり転校生の7カ月』って自伝的ドラマ。

 ドラマでは、親の離婚で東京から大阪に越してきた女子高生になってるけど、実際は逆だったのがドラマ終了後に分かった。リアルにやると、いろんな人に迷惑かけそうなんで、設定を東京と大阪を逆にしたらしい。

「本で読みましたから。あれ、ちょっとしたバイブルです」

「ハハハ、大げさな!」

「ほんとですよ。親の都合で急に慣れない東京に来た葛藤が、リアルでも、はるかさんを成長させたんですよね」

「うん、離婚した両親のヨリをもどしたいって一心……いま思えば子供じみたタクラミだったけどね。明日香ちゃんはなに演るの?」

「あ、これです」

「『ドリームズ カム トゥルー』いいタイトルね」

「一人芝居なんで、苦労してます」

「一人芝居か……人生そのものね。きっと明日香ちゃんの人生の、いい肥やしになるわよ」

「そうですか?」

「そうよ、良い芝居と、良い恋は人間を成長させるわ」

 あたしは、一瞬馬場先輩が「絵のモデルになってくれ」と言ったときのことを思い出した。

 エヘヘ

「なにか楽しいことでも思い出したの?」

「アハハ、なんでも(^_^;)」

「明日香ちゃんて、好きな人とかは?」

「あ、そういうのは……」

「居るんだあ……アハハ」

「いや、あの、それはですね」

 だめだ、墓穴掘ってる!

「良い芝居と、良い恋……恋は、未だに失敗ばっかだけど」

 あたしも、そう……とは言われへんかった。


「あ、東亜学園ですよ!」


 たしかに、あらためて見る東亜は、どこかの本社ビルって感じだ。

「あ、プレゼンの部屋に灯りが点いてる!」

 どうやら、ドッキリだったよう。学校に入ったら、本で読んだ坂東はるかさんの、お友だちや関係者が一堂に会してた。

 なんだか知らないうちに、あたしも中に入ってしもて遅くまで同窓会に参加してしまったよ。



 ※ 主な登場人物

 鈴木 明日香       明神男坂下に住む高校一年生
 東風 爽子        明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
 香里奈          部活の仲間
 お父さん
 お母さん
 関根先輩         中学の先輩
 美保先輩         田辺美保
 馬場先輩         イケメンの美術部
 佐渡くん         不登校ぎみの同級生


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