14 / 109
14〔スターとの遭遇〕
しおりを挟む
明神男坂のぼりたい
14〔スターとの遭遇〕
たまに下校のルートを変える。
いつもは外堀通りなんだけど、水道橋を渡って神田川の南に出て駿河台の方に進む。
ちょっと遠回りなんだけど、神田川と中央線が朝とは反対の北側にくるので、気分転換にいいんだ。
特にね、今日は稽古がうまくいったので、ちょっとシミジミしたいわけ。
水道橋渡ってすぐ、東亜学園を右に見て曲がると駿河台の坂道。そこを東に向かって十分ちょっとで御茶ノ水橋。
気分次第で、もう少し直進して聖橋を渡って帰ることもある。
あ!?
一瞬メガネを取った、その顔は、若手女優の梅田はるかだ!
あたしは、間抜けなことにお茶の水駅まで来て、ヨッテリアの前で台本を忘れたのに気がついた。
そして、振り返ったときに至近距離で目が合った。
そうだ、春からの新作ドラマ、舞台はこの辺だって、ネットの情報だった。
ちょっと離れたとこにカメラとか音響さんやらのスタッフがいる。休憩なんだろう、スターは駅前の交差点で、ボンヤリと下校途中の高校生を見ていた。で、たまたま、台本忘れたのに気が付いた間抜けなあたしと目が合ったんだ。
「あなた演劇部?」
「え、あ、はい。TGHの演劇部です」
「TGH、そこの?」
「あ、はい」
「ああ、そうなんだ。神田川の向かいだから覚えてる」
あたしも思い出した。梅田はるかは、大阪の女優さんだけど、一時家の都合で東京に引っ越して、東亜学園に転校してきたんだ。代表作『わけあり転校生の7カ月』は、ドラマでも原作本でも有名だ。
「そう、その東亜学園に行くんだけど、いっしょに行く同窓生が仕事でアウト。どうだろ、よかったらお供してくれないかな?」
「え……!?」
「あなた、演劇部でしょ?」
「え、あ、どうして(分かるんだ)?」
「だって、カバンから台本覗いてる」
あ……そうだ、水道橋渡るときにカバンに突っ込んだんだ。
いつもは、台本読み返しながらだから家に着くまで手に持ってるんで、忘れたと思ったんだ(^_^;)
恥ずかしさと安心と可笑しいのでアワワしてしまう。様子に気付いたスタッフが、集まってくる。
「編入試験受けるとき、水道橋で下りて、ここまで来て気づいたの。とっくに行き過ぎてるの。ここいらの学校って、ビルでしょ。学校だって気づかなかったことに気付いて。アハハ、なんか変みたいだけど、大阪は、学校ってグラウンドがあって、ここらへんみたいにビルっぽい校舎ってないからね。あ、上地さんいいですか?」
監督みたいな人に声かけると「うん」と頷いて決まってしまった。
流れと勢いで、あたしははるかさんのお供をすることになったよ。
「テストは間に合ったんですか?」
「うん、一時間勘違いして早く来ちゃってた(#^▽^#)!」
「「アハハ」」
天性の明るさなのか、タレント性なのか、お日様みたいにポジティブなはるかさん。
「懐かしいなあ……ヨッテリアの二階」
「『ジュニア文芸八月号』 あそこで吉川先輩に見せられたんですよね!」
「よく知ってるわね!」
はるかさんの出世作は、さっきも触れたけど、『わけあり転校生の7カ月』って自伝的ドラマ。
ドラマでは、親の離婚で東京から大阪に越してきた女子高生になってるけど、実際は逆だったのがドラマ終了後に分かった。リアルにやると、いろんな人に迷惑かけそうなんで、設定を東京と大阪を逆にしたらしい。
「本で読みましたから。あれ、ちょっとしたバイブルです」
「ハハハ、大げさな!」
「ほんとですよ。親の都合で急に慣れない東京に来た葛藤が、リアルでも、はるかさんを成長させたんですよね」
「うん、離婚した両親のヨリをもどしたいって一心……いま思えば子供じみたタクラミだったけどね。明日香ちゃんはなに演るの?」
「あ、これです」
「『ドリームズ カム トゥルー』いいタイトルね」
「一人芝居なんで、苦労してます」
「一人芝居か……人生そのものね。きっと明日香ちゃんの人生の、いい肥やしになるわよ」
「そうですか?」
「そうよ、良い芝居と、良い恋は人間を成長させるわ」
あたしは、一瞬馬場先輩が「絵のモデルになってくれ」と言ったときのことを思い出した。
エヘヘ
「なにか楽しいことでも思い出したの?」
「アハハ、なんでも(^_^;)」
「明日香ちゃんて、好きな人とかは?」
「あ、そういうのは……」
「居るんだあ……アハハ」
「いや、あの、それはですね」
だめだ、墓穴掘ってる!
「良い芝居と、良い恋……恋は、未だに失敗ばっかだけど」
あたしも、そう……とは言われへんかった。
「あ、東亜学園ですよ!」
たしかに、あらためて見る東亜は、どこかの本社ビルって感じだ。
「あ、プレゼンの部屋に灯りが点いてる!」
どうやら、ドッキリだったよう。学校に入ったら、本で読んだ坂東はるかさんの、お友だちや関係者が一堂に会してた。
なんだか知らないうちに、あたしも中に入ってしもて遅くまで同窓会に参加してしまったよ。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
14〔スターとの遭遇〕
たまに下校のルートを変える。
いつもは外堀通りなんだけど、水道橋を渡って神田川の南に出て駿河台の方に進む。
ちょっと遠回りなんだけど、神田川と中央線が朝とは反対の北側にくるので、気分転換にいいんだ。
特にね、今日は稽古がうまくいったので、ちょっとシミジミしたいわけ。
水道橋渡ってすぐ、東亜学園を右に見て曲がると駿河台の坂道。そこを東に向かって十分ちょっとで御茶ノ水橋。
気分次第で、もう少し直進して聖橋を渡って帰ることもある。
あ!?
一瞬メガネを取った、その顔は、若手女優の梅田はるかだ!
あたしは、間抜けなことにお茶の水駅まで来て、ヨッテリアの前で台本を忘れたのに気がついた。
そして、振り返ったときに至近距離で目が合った。
そうだ、春からの新作ドラマ、舞台はこの辺だって、ネットの情報だった。
ちょっと離れたとこにカメラとか音響さんやらのスタッフがいる。休憩なんだろう、スターは駅前の交差点で、ボンヤリと下校途中の高校生を見ていた。で、たまたま、台本忘れたのに気が付いた間抜けなあたしと目が合ったんだ。
「あなた演劇部?」
「え、あ、はい。TGHの演劇部です」
「TGH、そこの?」
「あ、はい」
「ああ、そうなんだ。神田川の向かいだから覚えてる」
あたしも思い出した。梅田はるかは、大阪の女優さんだけど、一時家の都合で東京に引っ越して、東亜学園に転校してきたんだ。代表作『わけあり転校生の7カ月』は、ドラマでも原作本でも有名だ。
「そう、その東亜学園に行くんだけど、いっしょに行く同窓生が仕事でアウト。どうだろ、よかったらお供してくれないかな?」
「え……!?」
「あなた、演劇部でしょ?」
「え、あ、どうして(分かるんだ)?」
「だって、カバンから台本覗いてる」
あ……そうだ、水道橋渡るときにカバンに突っ込んだんだ。
いつもは、台本読み返しながらだから家に着くまで手に持ってるんで、忘れたと思ったんだ(^_^;)
恥ずかしさと安心と可笑しいのでアワワしてしまう。様子に気付いたスタッフが、集まってくる。
「編入試験受けるとき、水道橋で下りて、ここまで来て気づいたの。とっくに行き過ぎてるの。ここいらの学校って、ビルでしょ。学校だって気づかなかったことに気付いて。アハハ、なんか変みたいだけど、大阪は、学校ってグラウンドがあって、ここらへんみたいにビルっぽい校舎ってないからね。あ、上地さんいいですか?」
監督みたいな人に声かけると「うん」と頷いて決まってしまった。
流れと勢いで、あたしははるかさんのお供をすることになったよ。
「テストは間に合ったんですか?」
「うん、一時間勘違いして早く来ちゃってた(#^▽^#)!」
「「アハハ」」
天性の明るさなのか、タレント性なのか、お日様みたいにポジティブなはるかさん。
「懐かしいなあ……ヨッテリアの二階」
「『ジュニア文芸八月号』 あそこで吉川先輩に見せられたんですよね!」
「よく知ってるわね!」
はるかさんの出世作は、さっきも触れたけど、『わけあり転校生の7カ月』って自伝的ドラマ。
ドラマでは、親の離婚で東京から大阪に越してきた女子高生になってるけど、実際は逆だったのがドラマ終了後に分かった。リアルにやると、いろんな人に迷惑かけそうなんで、設定を東京と大阪を逆にしたらしい。
「本で読みましたから。あれ、ちょっとしたバイブルです」
「ハハハ、大げさな!」
「ほんとですよ。親の都合で急に慣れない東京に来た葛藤が、リアルでも、はるかさんを成長させたんですよね」
「うん、離婚した両親のヨリをもどしたいって一心……いま思えば子供じみたタクラミだったけどね。明日香ちゃんはなに演るの?」
「あ、これです」
「『ドリームズ カム トゥルー』いいタイトルね」
「一人芝居なんで、苦労してます」
「一人芝居か……人生そのものね。きっと明日香ちゃんの人生の、いい肥やしになるわよ」
「そうですか?」
「そうよ、良い芝居と、良い恋は人間を成長させるわ」
あたしは、一瞬馬場先輩が「絵のモデルになってくれ」と言ったときのことを思い出した。
エヘヘ
「なにか楽しいことでも思い出したの?」
「アハハ、なんでも(^_^;)」
「明日香ちゃんて、好きな人とかは?」
「あ、そういうのは……」
「居るんだあ……アハハ」
「いや、あの、それはですね」
だめだ、墓穴掘ってる!
「良い芝居と、良い恋……恋は、未だに失敗ばっかだけど」
あたしも、そう……とは言われへんかった。
「あ、東亜学園ですよ!」
たしかに、あらためて見る東亜は、どこかの本社ビルって感じだ。
「あ、プレゼンの部屋に灯りが点いてる!」
どうやら、ドッキリだったよう。学校に入ったら、本で読んだ坂東はるかさんの、お友だちや関係者が一堂に会してた。
なんだか知らないうちに、あたしも中に入ってしもて遅くまで同窓会に参加してしまったよ。
※ 主な登場人物
鈴木 明日香 明神男坂下に住む高校一年生
東風 爽子 明日香の学校の先生 国語 演劇部顧問
香里奈 部活の仲間
お父さん
お母さん
関根先輩 中学の先輩
美保先輩 田辺美保
馬場先輩 イケメンの美術部
佐渡くん 不登校ぎみの同級生
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
学園ぶいちゅー部~エルフと過ごした放課後
櫃間 武士
ライト文芸
編集部からの原稿依頼と思ってカフェに呼び出された加賀宮一樹(かがみやかずき)の前に現れたのは同級生の美少女転校生、森山カリンだった。
「あなたがイッキ先生ね。破廉恥な漫画を描いている…」
そう言ってカリンが差し出した薄い本は、一樹が隠れて描いている十八禁の同人誌だった。
「このことを学園にリークされたくなければ私に協力しなさい」
生徒不足で廃校になる学園を救うため、カリンは流行りのVチューバーになりたいと言う。
魔界プリンスとココロのヒミツ【完結】
小平ニコ
児童書・童話
中学一年生の稲葉加奈は吹奏楽部に所属し、優れた音楽の才能を持っているが、そのせいで一部の部員から妬まれ、冷たい態度を取られる。ショックを受け、内向的な性格になってしまった加奈は、自分の心の奥深くに抱えた悩みやコンプレックスとどう付き合っていけばいいかわからず、どんよりとした気分で毎日を過ごしていた。
そんなある日、加奈の前に突如現れたのは、魔界からやって来た王子様、ルディ。彼は加奈の父親に頼まれ、加奈の悩みを解決するために日本まで来たという。
どうして父が魔界の王子様と知り合いなのか戸惑いながらも、ルディと一緒に生活する中で、ずっと抱えていた悩みを打ち明け、中学生活の最初からつまづいてしまった自分を大きく変えるきっかけを加奈は掴む。
しかし、実はルディ自身も大きな悩みを抱えていた。魔界の次期魔王の座を、もう一人の魔王候補であるガレスと争っているのだが、温厚なルディは荒っぽいガレスと直接対決することを避けていた。そんな中、ガレスがルディを追って、人間界にやって来て……
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
遠距離になって振られた俺ですが、年上美女に迫られて困っています。
雨音恵
ライト文芸
これは年下の少年が年上女性に食われる恋物語。
高校一年の夏。念願叶って東京にある野球の名門高校に入学した今宮晴斗(いまみやはると)。
地元を離れるのは寂しかったが一年生でレギュラー入りを果たし順風満帆な高校生活を送っていた。
そんなある日、中学の頃から付き合っていた彼女に振られてしまう。
ショックのあまり時間を忘れて呆然とベランダに立ち尽くしていると隣に住んでいる美人な女子大学生に声をかけられた。
「何をそんなに落ち込んでいるのかな?嫌なことでもあった?お姉さんに話してみない?」
「君みたいないい子を振るなんて、その子は見る目がないんだよ。私なら絶対に捕まえて離さないね」
お世辞でも美人な女性に褒められたら悪い気はしないし元気になった。
しかしその時、晴斗は気付かなかった。
その女性、飯島早紀の目が獲物を見つけた肉食獣のようになっていたことを。
それからというのも、晴斗は何かと早紀に世話を焼かれる。それだけでなく野球部マネージャーや高校の先輩のお姉さま方も迫ってくる。
純朴な少年、今宮晴斗を賭けたお姉さま方のハンティングが始まる!
表紙イラスト:くまちゅき先生
理想の妻とやらと結婚できるといいですね。
ふまさ
恋愛
※以前短編で投稿したものを、長編に書き直したものです。
それは、突然のことだった。少なくともエミリアには、そう思えた。
「手、随分と荒れてるね。ちゃんとケアしてる?」
ある夕食の日。夫のアンガスが、エミリアの手をじっと見ていたかと思うと、そんなことを口にした。心配そうな声音ではなく、不快そうに眉を歪めていたので、エミリアは数秒、固まってしまった。
「えと……そう、ね。家事は水仕事も多いし、どうしたって荒れてしまうから。気をつけないといけないわね」
「なんだいそれ、言い訳? 女としての自覚、少し足りないんじゃない?」
エミリアは目を見張った。こんな嫌味なことを面と向かってアンガスに言われたのははじめてだったから。
どうしたらいいのかわからず、ただ哀しくて、エミリアは、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。
それがいけなかったのか。アンガスの嫌味や小言は、日を追うごとに増していった。
「化粧してるの? いくらここが家だからって、ぼくがいること忘れてない?」
「お弁当、手抜きすぎじゃない? あまりに貧相で、みんなの前で食べられなかったよ」
「髪も肌も艶がないし、きみ、いくつ? まだ二十歳前だよね?」
などなど。
あまりに哀しく、腹が立ったので「わたしなりに頑張っているのに、どうしてそんな酷いこと言うの?」と、反論したエミリアに、アンガスは。
「ぼくを愛しているなら、もっと頑張れるはずだろ?」
と、呆れたように言い捨てた。
【完結】どうやら時戻りをしました。
まるねこ
恋愛
ウルダード伯爵家は借金地獄に陥り、借金返済のため泣く泣く嫁いだ先は王家の闇を担う家。
辛い日々に耐えきれずモアは自らの命を断つ。
時戻りをした彼女は同じ轍を踏まないと心に誓う。
※前半激重です。ご注意下さい
Copyright©︎2023-まるねこ
本條玲子とその彼氏
ミダ ワタル
ライト文芸
忘れらた旧校舎の第一図書室。
その専任管理者として入り浸り読書に耽っていた図書委員長・三橋洋介のもとに付き合うと不幸になると噂される美少女・本條玲子が現れる。
三橋流箏曲家元の息子として、奏者の才能と自分の内側にある美しい音の響きに翻弄される内面から読書に没頭することで逃れていた三橋だったが、玲子に告白され付き合うことになってから本を読もうとすると邪魔が入るようになり。
少しだけ他の人と違うを抱えて日々を送る少年と少女の噛み合っているようで噛み合っていない青春恋愛譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる