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79『二丁目断層に頼まれる』

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やくもあやかし物語

79『二丁目断層に頼まれる』    




 わたしにソックリな二丁目断層が頬を染めると、机の上に雛人形が現れた。


 雛人形?

 おすべらかし……だったっけ? 天皇陛下が即位された時に、おそばにお並びになっていた皇后さまのような髪型。お衣装は、本当に十二単のようで、袖口から指先だけを出して、七色の飾り紐をゆったり巻いた扇を持っている。

「ようく、見てごらん……」

 二丁目断層に誘われて雛人形を見つめると、かすかに息をしているのが分かった。

 おお……

 机に並べてある妹ニクのフィギュアたちも一歩踏み出してため息をついている。壁のアノマロカリスも目をぱちくりさせている。

「もうちょっとで目を覚ます、それまで静かにして見守ってやってくれ」

「う、うん……」

 フィギュアたちは一歩下がって座ったりしゃがんだりして……そう、なんだか白雪姫が目覚めるのを待っている小人さんたちのようだ。

「名前は、こう書くんだ」

 二丁目断層が目の前で指をそよがせると『親子』という字が浮かんだ。

「オヤコ?」

 素直に読んだら、みんなが笑う。

 アハハハハハハハ

「なによ!」

「おまえ、中学生だろ?」

「ちょ、ちょっと間違えただけよ」

 わたしは、こういうシチュエーションに弱い。

 ふつうに応えたり反応したりしたら、思いがけず、とんでもないスカタンだったりして、みんなに笑われる。そういうのに弱い。

 小学校の時に掛け算を習いたてのころ、先生が、黒板に一ケタの掛け算をいっぱい書いて、座席順に答えさせていった時のこと。

 3×3= 2×2= 1+1= と書いていって、トドメめの「1+1=」を当てられた。

「1!」

 自信たっぷりに答えて、みんなに笑われた。

 ようく見たら、あるいは、深呼吸一つして見直したら、すぐに分かる事なんだけど、いったんテンパってしまうと、ぜんぜん正解が浮かんでこない。

 あの時と同じ感覚になって「オヤコ」以外の読み方が浮かんでこない。

 えと、えと……

「ちゃんと、呼んであげないと、この子の眠りは、どんどん深くなっていくぞ」

 二丁目断層に言われると、それこそ頭の中に断層が生まれて、それが、ズンズン大きくなって、断層の向こうにあるはずの答えが遠のいていく。

 プルルルル プルルルル

 突然のベルに、その子以外のみんなが驚く。

「な、なんだ?」

 二丁目断層まで驚いたので、ちょっといい気味。

 フィギュアたちの陰に隠れていた黒電話が鳴ったんだ。

「もしもし」

 受話器を取ると、いつもの交換手さんが出てくる。

『その子はね「ちかこ」って読むんですよ(^▽^)』

 正解を教えてくれて、クスリと笑う交換手さん。

「どういう子なの?」

『それ以上は、二丁目断層さんに聞いてください』

 それだけ言って電話が切れる。

「ち、余計なことを……まあいい、そいつはチカコだ。わけあって、ずっとオレが面倒を見てきた。見ての通り眠り姫だけど、そろそろ目が覚める。覚めたら、やくも、おまえが面倒見てやるんだ」

「わたしが?」

「ああ、いろんなところに連れて行ってやって、親子が望むことをさせてやってくれ。親子の姿はお前以外の人間には見えない。時間と移動手段は、オレが面倒見てやるから、よろしく頼むぞ」

「頼むって……」

「まあ、付き合ってみれば分かる。頼んだぞ。今日は鯉のぼりを見せてやったり風呂掃除をしてやってくたびれたから、もう休む。じゃあな」

「あ、二丁目……!」

 手をヒラヒラさせたかと思うと、空気に滲むようにして二丁目断層は消えていった。

 キャ!

 フィギュアたちの悲鳴がして振り返ると、チカコは華奢な左手首に変わっていた。

 ヒ!?

 ひきつるような悲鳴が出てしまう。

 すると、左手首はピクピクと痙攣したかと思うと、二丁目断層と同じように空気に滲んで消えていってしまった。

 でも、二丁目断層と違って、気配だけは机の上に安らいでいたよ……。



☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
教頭先生
小出先生      図書部の先生
杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん       図書委員仲間
あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子
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