上 下
71 / 161

71『やくもの4月1日』

しおりを挟む

やくもあやかし物語

71『やくもの4月1日』    

 

 
 プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル

 電話が鳴っている……それは分かってるんだけど、起きれない……

 プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル プルルル

 電話……えと……

 ポシャ

 何十回鳴っただろ、やっと、寝返りうって、手だけ伸ばして黒電話の受話器を取る。

 

『やっと出たあ』

 

「えと……どなたですかあ?」

『交換手です』

「あ、そか……」

 わたしの電話は古式ゆかしい昭和の黒電話。いろいろイワクのある電話なんだけど、起き抜けの低血圧、それも春眠暁を覚えずの春休みの真っ最中。解説してる余裕はないよ。

 で、普通じゃない黒電話は、まず最初に交換手さんが出てくる。

 しょっちゅう掛かってくることもあるけど、何日も掛かってこないこともある。

 ここしばらく掛かってこなかったのと、春眠の目覚めでボーっとしていてトンチンカンを言ってしまった。

『お地蔵さんからだったんですけど、やくもが、なかなか出てこないんで伝言です』

「え、あ、うん……」

『勾玉の有効期限が切れるので、今日中に返しにくるように……ということです。三月中にに返さないと年度を跨ってしまって、手続きややこしくなるそうです』

「あ……うん、分かった。顔洗ったら行きます……」

『じゃ、よろしく』

 起きようと思ったら、口に違和感。髪の毛が口の中に入ってしまって、ぺッ、ペッ。

 鏡を見たら、爆発頭の間抜け顔。『アナと雪の女王』にこんなのがあった……わたしは、アナほど可愛くないと思いつつ顔だけ洗って、ササッと着替えてお地蔵さんの祠に向かう。

 朝ごはん食べたかったんだけど、相手はお地蔵さん、それも、わざわざ電話をしてこられるんだ、さっさと済ませなきゃ。

 杉野君に憑りついた『そいつ』もケリはついていない。

 どうも、お地蔵さんの手にも余る相手らしいんだけど、ま、これからもお世話にならなきゃならないだろうし……あ、ついでにお財布持ってコンビニにでも行けばと思う。夕べ冷蔵庫を覗いたらコーヒー牛乳が切れかけ。お爺ちゃんの分を残しておかなきゃならないので、風呂上がりの一杯は諦めたんだ。

 でも、お財布持って出てないし。

 考えてるうちにお地蔵さんの祠にたどり着く。

「すみません、遅くなって。じゃ……ここに置いておきますんで、よろしくお願いします」

 手を合わせると、お守り石の一つが口をきいた。

『いや、ごくろうさま。お地蔵さまはお出かけしておられるから、お伝えしておきます。受け取り忘れずに持って行ってね』

 そう言うと、賽銭箱の横に受け取りの紙が現れた。

「そいじゃ、失礼します」

 もっかい一礼して帰途に就く。

 明日から四月、桜の満開は過ぎたけど、帰り道のあちこちに、チラホラと花びらを散らせながら、人に例えたら女ざかりって感じで咲き続けている。

 家に帰って朝ごはん。

 牛乳で我慢しようと思っていたら、コーヒー牛乳が一人分残ったまま。

「お爺ちゃん、ありがとう、やくもに残しておいてくれたんだね」

「あ、いや、忘れていただけだよ」

 新聞から目を離さないでお爺ちゃん。嘘をつくのがヘタだ。

 ありがたくいただいて、朝食をとる。

「え……?」

 お爺ちゃんの新聞を見て気が付いた。

 日付が4月1日。

 部屋に戻って交換手さんに聞いてみる。

『そうですよ。今日はエイプリルフール』

 あ、やられた。

 春休みで日にちの感覚が無くなってる方も悪いんだけどね(^_^;)。

『でもね、やくもが遅れたことを自覚してしまうと、ほんとに災いを背負い込んでしまうの。だから、お地蔵さんと相談して……大丈夫、ずっと3月31日だと思ってたでしょ』

「うん」

『じゃあ、いい新年度にしましょうね(^▽^)』

「はい、交換手さんもね」

 受話器を置いて思った。

 こういうイタズラめいたことができるのも、お互い馴染んだからなんだよね。

 そう思うと、ちょっと嬉しい。

 

 その夜、お風呂に入って湯船に浸かると、胸にボーっと赤く勾玉の影が浮かび上がる。

 やっぱ、無自覚とはいえ返却が遅れてしまったから残っちゃった……かな。

 でも、お風呂から上がって体を拭こうとしたら消えている。

 まあ、人とお風呂に入ることもないんだからいいか……日焼けみたく、そのうち消えるだろうし。

 みなさんの四月一日はどうでしたか?

 それでは、おやすみなさい。

 

☆ 主な登場人物
•やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
•お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
•お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
•お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
•小出先生      図書部の先生
•杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
•小桜さん       図書委員仲間
•あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

第三王子に転生したけど、その国は滅亡直後だった

秋空碧
ファンタジー
人格の九割は、脳によって形作られているという。だが、裏を返せば、残りの一割は肉体とは別に存在することになる この世界に輪廻転生があるとして、人が前世の記憶を持っていないのは――

処理中です...