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34『突然の選択肢』

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やくもあやかし物語

34『突然の選択肢』     

 

 
 あとはデザートというところで電話がかかってきた。

 
 お母さんは「ごめん」と言いながらスマホを持って店の外へ……「あ、島田君……」という一言で職場からの電話だと分かって、気持ちを引き締める。

「わるい、会社に戻らなきゃならなくなっちゃった」

「お仕事じゃ仕方ないよ。だいじょうぶだから行って(^▽^)」

 気持ちを引き締めていたので笑顔で言えた。

 お母さんは席にもどることなく、レジでお勘定済ませて行ってしまった。

「デザート、テイクアウトできますか?」

 マスターに聞くと、快くケーキ用の白い箱に入れて持たせてくれた。

「ごちそうさまでした、今度またゆっくり来ますね(o^―^o)ニコ」

 もう一回とびきりの笑顔をマスターに向けて外に出る。笑顔は、お母さんに見せてあげようと、そのつもりになっていたんだ。

 次はデザートというときには、心の中で準備していた笑顔。

 だれかに向けなきゃもったいない……うそうそ、笑顔にしてなきゃ涙が出てきそうだったから。

 
 血のつながりの無いのは心細い。

 あ、ダメだダメだ……これ考え出すと底なし沼になる。

 楽しいことを考えよう……と思っても、おいそれとは出てこない。

 えと……えと……

 
 すると、横の路地から黒猫が飛び出してきた。立ち止まると、白猫が飛び出してきた。次に茶猫。

 三匹混ざったら三毛猫……前にもこういうシュチエーションあったなあ……そう思っていると、ほんとうに白黒茶の三毛猫が出てきた。

 すると、三毛猫が一歩前に出ると四匹揃って、ヒョイと立ち上がった。

「おう、やくも。ここでクイズだ」

 三毛が言う。

「白・黒・茶は、これからのお前の運命だ。どれか一つ選びな」

「あ……えと……急に言われても」

「優柔不断なやつだなあ、さっさと決めろ。せっかく出てきてやったんだからよ」

「「「そーだそーだ」」」

「なによ、いきなり出てきて」

「いきなりじゃねーよ、前もつづら折りのとこで出てきてやったじゃねーか。あんときゃ、まだ、おまえは猫の言葉が分からなかったからよ。でも、いまは分かるんだ、さっさと選んじまいな」

「「「選べ!」」」

 二本足で立っても、わたしの膝小僧くらいの背丈なんだけど、四匹揃って迫ってくると後ずさりしてしまう。

 
 ピシ イテ! ピシ イテ! ピシ イテ! ピシ イテ!

 四回音がしたかと思うと、猫たちの頭がポコポコポコポコと音がした。

「そこまでにしときな。次は手加減しないで食らわすよ」

 歩道の向こうにツインテールのメイドさんがパチンコを構え、左右非対称の笑顔で立っている。

「やばい、ずらかるぞ!」

 三毛の一言で、猫たちは四方に散ってしまった。

「突然の選択肢には要注意」

 バシュッ!

 パチンコ玉がすぐ横に飛んできて思わず目をつぶる。

 
 再び目を開けた時には、わたしは家の前に立っていた……。

 

☆ 主な登場人物

やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
お母さん      やくもとは血の繋がりは無い
お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
杉野君       図書委員仲間 やくものことが好き
小桜さん      図書委員仲間 杉野君の気持ちを知っている
霊田先生      図書部長の先生

 
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