上 下
262 / 280

250『ボートを出て密かに観戦』

しおりを挟む
銀河太平記

250『ボートを出て密かに観戦』 メグミ 




 露蒙騎馬軍団の衝突は五分五分に見えた。

 むろん、ボ-トを出て草原の窪地に身を潜めての印象だから戦場全体が見えているわけではないけど、西之島戦争や天狗党での経験が、そう判断させる。

ハナ:「くそ、身震いしちまうぜ!」

メグミ:「用を足すなら、あっちの茂みでやってよねぇ」

ハナ:「ち、ちげーよ! 武者震いだ(>▢<)」

メグミ:「これは他人様の戦争だよ」

ハナ:「わ、分かってるよ(;'▭')。でもよ、青銅の騎士は反則じゃねえかぁ……」

 戦争に反則も無いんだけど、ハナの感覚では人の10倍はあるだろう青銅の騎士の戦闘力、防御力は反則めいて見えるんだろう。

マイ:「テムジンは綻びを探してるのよ。いや、綻びを作っている。走り回っていれば、敵も味方も流動化せざるを得なくって、流動化してしまえば、おのずと隙ができるわ。騎兵戦闘ではモンゴルに一日の長がある、隙ができる確率はロシア軍の方が大きい」

 さすがはマイさん、いや児玉元帥。

ハナ:「よくジレねえなあ劉宏も」

メグミ:「漢明は見ているだけよ。ああやって元帥であり大統領である劉宏が出張っていることが最大の抑止力になるのよ。ね、よく見てみ、劉宏の軍団には闘気が感じられないでしょ」

ハナ:「そ、そうだな。メグミもなかなかの読みじゃねえか(`^´)」

 マイさんの視線が目の前の戦闘からハンベに移った。何を見ているんだろう……今のモンゴルではパルス機器は使えない。偵察衛星も軍事に関する情報はほとんどブロックされているはずだ。

マイ:「経済情報は伝わるのよ」

ハナ:「ええ、ここは戦場だろ?」

マイ:「ドンパチやるだけが戦争じゃないのよ。見てごらんなさい」

ハナ:「え、グラフとか数字とかはカラッキシなんだぞ(^△^;)」

メグミ:「え……ルーブルがメチャクチャ下がってる!」

マイ:「劉宏が手持ちのロシア国債を売りに出した。漢明だけじゃない、世界中が売りに出してる。劉宏が手を回したんでしょうねえ。化石燃料も半分以上取引停止にして、各国も追随しつつあるみたいよ」

メグミ:「ロシアは長期戦には耐えられませんねぇ」

マイ:「ええ、このモンゴルの戦闘が最初で最後になるでしょうねえ」

 わざわざ西之島からボートを飛ばしてきたけど、意外にあっけない。

ハナ:「あ、漢明の方から誰か駆けてくるぞ!」

 ハナが目を剥いて指さした方角。漢明の隊列から二騎駆けだしてきた。

メグミ:「あれは……朱元尚……後ろはフーちゃんだ!」

マイ:「まずいなあ……」

 マイさんの心配はすぐに状況の変化として現れた。

 露蒙両軍の一部がこれに気づき、モンゴルは無視したが、ロシアは数瞬で敵認定し、十数騎が二人に向かった。

 今の今まで眠ったように静かだった漢明軍にも、いっせいに緊張が走った!




☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

データワールド(DataWorld)

大斗ダイソン
SF
あらすじ 現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。 その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。 一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。 物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。 仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。 登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。 この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

処理中です...