上 下
256 / 280

244『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』

しおりを挟む
銀河太平記

244『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』 メグミ



 島のクセモノたちがお岩食堂に集まっている。

 西之島最大の食堂はブンカ―の基地食堂なんだけど、みんなお岩食堂に集まりたがる。

 安くておいしいご飯が食べられるだけじゃなくて、アットホームな雰囲気が好まれてる。本来はカンパニーの社員食堂なんだけど、来る者は拒まずで、胡同(フートン)やナバホ村、ちょっと遠いけど市役所のある北区からも人が来る。

 ちなみに西之島はいちおう日本領で、日本の地方自治法が適用され、島は東西南北四つの区になっている。けれど日ごろ〇区と呼ばれるのは北区だけで、あとは旧来の呼称(胡同・ナバホ村・カンパニー)と呼ばれて結びつきが強い。

 食堂の主はお岩さん。

 昔々は月で金融関係の仕事をしていたらしいけど、その後いろんな道をたどって食堂の女将に収まった。西之島戦争の時は部隊指揮も立派にこなして、ほんとうに正体不明の女傑。

 従業員は食堂の近くにある氷室神社巫女のハナ。神主のシゲ老人ともどもカンパニーの鉱山で働いていたんだけど、シゲ老人が神社を造ると巫女を兼ねるようになり、今では食堂の人気ウェイトレスでもある。

 近ごろは北区の街の子たちもバイトで入ってくれるようになった。単に小遣い稼ぎというだけではなく、人間関係や人との接触、付き合い方の勉強になるというので、地味に人気がある。

 かくいうわたしもラボの仕事のキリが付くと自然と足が向く島のホットステーション。

メグミ:「はい、来月のシフト表できたわよ~」

 ハンベで作ったシフトを厨房のPCに送る。

お岩:「ごめんねメグ、ビールでも飲んで帰ってぇ!」

メグミ:「うん、ありがとう!」

 お礼を言った時には、もうシフト表のプリントアウトと張り出し用の指示ををしてカツ丼五人前を作り始めている。

 カツ丼の他に油の爆ぜる音がしたかと思うと、いつの間にかハナが巫女服のまま炒め物を作り、その横でバイトの子がカツ丼のご飯をよそって炒め物の皿を並べている。

シゲ:「こらぁ! 食堂じゃ巫女服脱げって言ってんだろがあ!」

 シゲ老人がビールの泡を飛ばしながら文句を言う。

ハナ:「もう、自分は神主服のままだろがあ! ちょっと頼む」

 バイトの見習いに頼むと、その場で巫女服を脱ぎ始める。

 みんなは慣れっこだけど、バイトの子たちは慣れなくて目のやり場に困ってる。ここに来たころのハナは野生児というか、ほんの子どもだったけど、このごろは一人前の体格になってきた。

 ヒィ!

 バイトの一人が小さく悲鳴を上げる。

 身を隠すと言うことをしないので、体のあちこちの傷跡が丸見えになるんだ。

 顔や手先の見えるところは直してやったんだけど、服で隠れるところは後回しになってる……そろそろ直してやらなくちゃなあ。

 はい、おまちぃ! ハナぁ、あと頼んだよぉ!

 へい!

 隣りのテーブルの客にカツ丼を渡すと、お岩さんが横に座って、それを待っていたかのようにモニターにフーちゃんの軍服姿が映った。

お岩:「ピッタリのタイミングだ」

メグミ:「タイマーでもかけてんのぉ?」

お岩:「フーちゃんは娘みたいなもんだからねぇ、気になって、いつもタイミングが合っちまう」

 この時間はKMミリタリー放送(漢明の軍隊放送)の時間で、近ごろ国内外で評判のいいフーちゃんが担当している。

胡盛媛中尉:「ニーメンハオ漢明軍のみなさん。こんにちは世界のみなさん。胡盛媛がお送りします『KMミリタリー』の時間です。先日マンチュリーへのミサイル攻撃に失敗したロシアは、その攻撃をモンゴルに向けました。ロシアの狙いはモンゴルを勢力下に置いたのち、我が漢明と雌雄を決するところにあると思われます。一昨日ハルハ川河畔で痛手を被ったロシア第三騎兵旅団は西に向かって東より侵入してきた第一第二旅団と合流を目指している模様です」

 画面がモンゴルの地図に切り替わる。

胡盛媛中尉:「西のモンゴル平原では第三旅団に壊滅的打撃を加えたテムジンの息子、リムジン、ドライジンの騎兵部隊が待ち受けている様子です。合流の為に西に向かっている第一旅団ですが、現在はその進撃速度が落ち、待ち受けていたテムジン部隊に痛手を受けたと思われ、一両日にには火ぶたが切られるであろう西部戦線の展開は予断は許さないと、我が統合参謀本部戦略室は見ております……あ、追加のニュースが入ってきました」

 画面の外から原稿が手渡される。なんか大昔のテレビニュースみたいだけど、こういうアナログ感がフーちゃんにも合っていて人気になっている。

 原稿を渡されたフーちゃんが、一瞬、笑顔のまま固まってしまう。

胡盛媛中尉:「ただいま命令を拝受いたしました。本職は、このままモンゴル平原に取材に参ります。つきまして……え、部長?」

 食堂中に怨嗟の声が上がった!

 なんと画面に朱元尚大佐が割り込んできた。

朱元尚大佐:「中央軍広報部はホットなニュースを全国の兵士諸君並びに世界のみなさんにお伝えするべくモンゴル平原に現地取材に向かいます。むろん担当は我らが胡盛媛中尉。むろん中尉ひとりではありません。この朱元尚自らが若干の部隊を引き連れ安全万全の取材であります」

 乞うご期待とばかりの笑顔の前にもう一枚の原稿が送られ、大佐はそのままフーちゃんに渡した。

胡盛媛中尉:「追加のニュースです。モンゴル平原でロシア軍とモンゴル軍の戦闘が開始されました」

朱元尚大佐:「おお、意外に早い展開になってきました。これは、ただちに出発しなければ!」

胡盛媛中尉:「まだです部長」

朱元尚大佐:「なにかね?」

胡盛媛中尉:「ロシア軍の中核には青銅の騎士が含まれており、これにモンゴル軍は苦戦中の模様で……」

朱元尚大佐:「青銅の騎士だと……」

胡盛媛中尉:「はい青銅の騎士……あ、部長!」

 画面から朱元尚が消える、いや、泡を吹いて倒れた?

お岩:「青銅の騎士……ちょっと面白くなってきたじゃない( ,,ÒωÓ,, ) 」

メグミ:「え?」

 お岩さんが目を輝かせて戦闘モードになって、周りを見ると他にも目を輝かせているろくでなしどもがチラホラいた。

 青銅の騎士……Bronze Horseman !?

 英語に変換してやっとわたしもピンときた!

 


☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった

※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

データワールド(DataWorld)

大斗ダイソン
SF
あらすじ 現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。 その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。 一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。 物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。 仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。 登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。 この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。

セルリアン

吉谷新次
SF
 銀河連邦軍の上官と拗れたことをキッカケに銀河連邦から離れて、 賞金稼ぎをすることとなったセルリアン・リップルは、 希少な資源を手に入れることに成功する。  しかし、突如として現れたカッツィ団という 魔界から独立を試みる団体によって襲撃を受け、資源の強奪をされたうえ、 賞金稼ぎの相棒を暗殺されてしまう。  人界の銀河連邦と魔界が一触即発となっている時代。 各星団から独立を試みる団体が増える傾向にあり、 無所属の団体や個人が無法地帯で衝突する事件も多発し始めていた。  リップルは強靭な身体と念力を持ち合わせていたため、 生きたままカッツィ団のゴミと一緒に魔界の惑星に捨てられてしまう。 その惑星で出会ったランスという見習い魔術師の少女に助けられ、 次第に会話が弾み、意気投合する。  だが、またしても、 カッツィ団の襲撃とランスの誘拐を目の当たりにしてしまう。  リップルにとってカッツィ団に対する敵対心が強まり、 賞金稼ぎとしてではなく、一個人として、 カッツィ団の頭首ジャンに会いに行くことを決意する。  カッツィ団のいる惑星に侵入するためには、 ブーチという女性操縦士がいる輸送船が必要となり、 彼女を説得することから始まる。  また、その輸送船は、 魔術師から見つからないように隠す迷彩妖術が必要となるため、 妖精の住む惑星で同行ができる妖精を募集する。  加えて、魔界が人界科学の真似事をしている、ということで、 警備システムを弱体化できるハッキング技術の習得者を探すことになる。  リップルは強引な手段を使ってでも、 ランスの救出とカッツィ団の頭首に会うことを目的に行動を起こす。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

処理中です...