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226『朱元尚大佐・4』
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銀河太平記
226『朱元尚大佐・4』メグミ
フーちゃん(胡盛媛中尉)の父、胡盛徳大佐に止めを刺したのはわたしだ(147『待ち伏せ』)。
待ち伏せのプランを考え、崖を爆破したのはハナ、部隊の指揮を執ったのはお岩さんだ。島の交戦記録にも、そう記載されている。
フーちゃんには、彼女が連絡所の隊員としてやってきたときに、お岩さんを含め三人で打ち明けた。
「あ、いえ、あれは戦闘行為ですから(^_^;)」
両手をワイーパーみたいに振って屈託のないことを示してくれた。
それどころか、有志で作った慰霊碑があると聞くと、数秒絶句し、ポロポロと涙を流しながら「ありがとうございます」と頭を下げた。
それからは、お岩食堂の常連になって、もうほとんど島の住人のようになっている。
氷室神社の近くに設置された連絡所は漢明軍の末端施設だが、駐在員も温厚な者ばかりで、軍服を着ているけど武装はしていない。
劉宏大統領の陰謀……と言ってしまえば身もふたもないことなんだけど、深慮遠謀。漢明と日本が将来どのような関係になっても、最もストレスと犠牲が少なくて済むように布石を打っている。
平和には友好的な態度が基本――庇を貸りて母屋を取る――ためにね。
戦うにしても相手と友好的なチャンネルを残しておくのがセオリー。
始めた戦争はいつか止めなければならない、有利な条件で矛を収める土台は人間関係だからね。
そのどちらにしても西之島は受け止められる。直に接する相手が人の心をしていれば、人の心で受け止める。
フーちゃんは軍人にしておくにはもったいないほどに優しい子だ。いつか除隊することがあるなら、そのまま本当に島の住人になってくれたらと思う。ココちゃん(須磨宮心子内親王)が抜けてガラッパチになった島の空気を柔らかくしてくれると思う。できたら、うちのラボの助手に……
と思ったら、朱元尚のクソッタレが先を越そうとしている。
選鉱機のアクシデントのあと、朱元尚は花束を抱えて、胡盛徳大佐の慰霊碑に向かっている。こちらは、わたし(メグミ)と巫女服のハナ、それに食堂のお岩さん。
「ほう、崖の上なんですか」
慰霊碑のある崖を見上げる朱元尚。
「はい、戦死したのは崖の下なんですけど、落石が絶えないし、日陰なので、見晴らしのいい崖の上に設置していただいています。あちらの階段から上がれます」
「そうか、島の方々の心づくしなんだね」
「上は五人も並べないし、まずはお二人で」
お岩さんが提案し、漢明の二人は花束を持って階段を上がる。
朱元尚大佐が花束を、フーちゃんが水桶と中華式の長い線香を持っている。
潮騒とウミネコの鳴き声、わたしたち三人は崖の下で手を合わせる。
中華式なら、線香をあげながら祭文を唱えるはずなんだけど、波の音とウミネコにかき消されて聞こえない。
しかし、空気の流れで線香の煙はその匂いと共に降りてくる。
和式の線香とちがって、どこか横浜あたりの中華街を偲ばせる陽気な匂いだ。
そうだ、これからは中華式に換えようかと思った。
やがて、お参りが終わって、降りてきた二人と交代で崖を上る。
「日本式のもあげとくかぁ?」
ハナが、持ってきた線香を持て余して提案する。巫女服で線香をあげるのは微妙にミスマッチなんだけど、西之島は明治以前の日本のように神仏習合だ。
三人手を合わせていると、崖の下から声が上がってくる。
気流の関係で、煙は下におりてくるが声は逆に上って来る。たぶん、岩に反射するからだろう、トンネルの中の音が外に漏れるのと同じ理屈だ。
『……かつての部下として、宿願のお参りも済ますことができた。今度は、わたしが大佐の恩に報いる時だ。どうだね、こんな敵の小島で燻っていないで、本土の部隊に復帰してみては』
『は、はい……それは……』
『実は、今度、現役に復帰して中央軍の配置になりそうなんだ』
『それは、おめでとうございます(^_^;)』
『早手回しにカミさんは新調の軍服をよこしてきた』
『あ、それが、いまお召しの……』
『こんなものは、どうでもいい、ただのラッピングに過ぎない。それよりも、必要なのは人材だ。復帰すれば、たぶん少将、悪くても准将。有能な副官が必要だ。お父上の恩に報いることにもなる、どうかね、わたしといっしょに本土に戻ってみては』
『は、はあ……』
『君にも立場とメンツがあるだろう、今すぐにという話ではない。考えておいてくれ』
『は、はい……』
『ま、特別のことだからね、連絡所の同僚にも島の人間にも内密にね』
『はい……(-_-;)』
「「「あいつぅ……」」」
三人の声が揃った。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略 百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信 修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島 硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院 扶桑城啓林の奥にある祖廟
226『朱元尚大佐・4』メグミ
フーちゃん(胡盛媛中尉)の父、胡盛徳大佐に止めを刺したのはわたしだ(147『待ち伏せ』)。
待ち伏せのプランを考え、崖を爆破したのはハナ、部隊の指揮を執ったのはお岩さんだ。島の交戦記録にも、そう記載されている。
フーちゃんには、彼女が連絡所の隊員としてやってきたときに、お岩さんを含め三人で打ち明けた。
「あ、いえ、あれは戦闘行為ですから(^_^;)」
両手をワイーパーみたいに振って屈託のないことを示してくれた。
それどころか、有志で作った慰霊碑があると聞くと、数秒絶句し、ポロポロと涙を流しながら「ありがとうございます」と頭を下げた。
それからは、お岩食堂の常連になって、もうほとんど島の住人のようになっている。
氷室神社の近くに設置された連絡所は漢明軍の末端施設だが、駐在員も温厚な者ばかりで、軍服を着ているけど武装はしていない。
劉宏大統領の陰謀……と言ってしまえば身もふたもないことなんだけど、深慮遠謀。漢明と日本が将来どのような関係になっても、最もストレスと犠牲が少なくて済むように布石を打っている。
平和には友好的な態度が基本――庇を貸りて母屋を取る――ためにね。
戦うにしても相手と友好的なチャンネルを残しておくのがセオリー。
始めた戦争はいつか止めなければならない、有利な条件で矛を収める土台は人間関係だからね。
そのどちらにしても西之島は受け止められる。直に接する相手が人の心をしていれば、人の心で受け止める。
フーちゃんは軍人にしておくにはもったいないほどに優しい子だ。いつか除隊することがあるなら、そのまま本当に島の住人になってくれたらと思う。ココちゃん(須磨宮心子内親王)が抜けてガラッパチになった島の空気を柔らかくしてくれると思う。できたら、うちのラボの助手に……
と思ったら、朱元尚のクソッタレが先を越そうとしている。
選鉱機のアクシデントのあと、朱元尚は花束を抱えて、胡盛徳大佐の慰霊碑に向かっている。こちらは、わたし(メグミ)と巫女服のハナ、それに食堂のお岩さん。
「ほう、崖の上なんですか」
慰霊碑のある崖を見上げる朱元尚。
「はい、戦死したのは崖の下なんですけど、落石が絶えないし、日陰なので、見晴らしのいい崖の上に設置していただいています。あちらの階段から上がれます」
「そうか、島の方々の心づくしなんだね」
「上は五人も並べないし、まずはお二人で」
お岩さんが提案し、漢明の二人は花束を持って階段を上がる。
朱元尚大佐が花束を、フーちゃんが水桶と中華式の長い線香を持っている。
潮騒とウミネコの鳴き声、わたしたち三人は崖の下で手を合わせる。
中華式なら、線香をあげながら祭文を唱えるはずなんだけど、波の音とウミネコにかき消されて聞こえない。
しかし、空気の流れで線香の煙はその匂いと共に降りてくる。
和式の線香とちがって、どこか横浜あたりの中華街を偲ばせる陽気な匂いだ。
そうだ、これからは中華式に換えようかと思った。
やがて、お参りが終わって、降りてきた二人と交代で崖を上る。
「日本式のもあげとくかぁ?」
ハナが、持ってきた線香を持て余して提案する。巫女服で線香をあげるのは微妙にミスマッチなんだけど、西之島は明治以前の日本のように神仏習合だ。
三人手を合わせていると、崖の下から声が上がってくる。
気流の関係で、煙は下におりてくるが声は逆に上って来る。たぶん、岩に反射するからだろう、トンネルの中の音が外に漏れるのと同じ理屈だ。
『……かつての部下として、宿願のお参りも済ますことができた。今度は、わたしが大佐の恩に報いる時だ。どうだね、こんな敵の小島で燻っていないで、本土の部隊に復帰してみては』
『は、はい……それは……』
『実は、今度、現役に復帰して中央軍の配置になりそうなんだ』
『それは、おめでとうございます(^_^;)』
『早手回しにカミさんは新調の軍服をよこしてきた』
『あ、それが、いまお召しの……』
『こんなものは、どうでもいい、ただのラッピングに過ぎない。それよりも、必要なのは人材だ。復帰すれば、たぶん少将、悪くても准将。有能な副官が必要だ。お父上の恩に報いることにもなる、どうかね、わたしといっしょに本土に戻ってみては』
『は、はあ……』
『君にも立場とメンツがあるだろう、今すぐにという話ではない。考えておいてくれ』
『は、はい……』
『ま、特別のことだからね、連絡所の同僚にも島の人間にも内密にね』
『はい……(-_-;)』
「「「あいつぅ……」」」
三人の声が揃った。
☆彡この章の主な登場人物
大石 一 (おおいし いち) 扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ) 扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく) ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる) 扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵 天狗党のメンバー 緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ) 扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
扶桑 道隆 扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ) 将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶 小姓頭
児玉元帥(児玉隆三) 地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人) 児玉元帥の友人
森ノ宮茂仁親王 心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ 児玉元帥の副官
マーク ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン 太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁) 西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト) 西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷) 西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平 西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん) 今上陛下の妹宮の娘
劉 宏 漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華 漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉 胡盛徳大佐の養女
朱 元尚 大佐 ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
※ 事項
扶桑政府 火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ 扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
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パルス鉱 23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社 シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス 月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
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