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215『納骨の旅・2・甲府』

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銀河太平記

215『納骨の旅・2・甲府』ミク 





「甲府盆地はハート形なんですよ」


 お墓に行く途中の坂道で振り返ると、和尚さんは景色を撫でるようにして言った。

「うわぁ…………」

 つられて振り返ると、笛吹川、釜無川、富士川と、それに沿って走っているリニア路線がハートの骨のように見える。

「勘十郎は血管だと言うとりました」

「血管ですか?」

「血管じゃったら、一本余計じゃろと言うてやると『一本は気脈じゃ』と笑うておりました。奴は、甲府盆地を日本の心臓のように思うて子どもの頃から喜んでおりました」

「気宇壮大な子供だったんですね」

「はい、実は甲府の下には三つのプレートがせめぎ合っておりましてな。ユーラシアプレート、北米プレート、フィリピン海プレート。その境目が三つの川です」

「そうなんですねえ……」

 先生の実家を探すのはダッシュの力もあって、そう難しいことじゃなかった。

 山梨県の甲府にある旧家が先生の家で、家系をたどれば武田信玄の参謀だった山本勘助に繋がる。そう、本姓は姉崎でもなく山野でもなく山本。

 山本の家は令和の時代からエコ発電の関連部品の製造で力をつけ、この二十三世紀でもパルス燃料の端子製造では結構なシェアを持っている。
 
 三つのプレートがせめぎ合うように、山本の家は跡継ぎを巡って争い、それに嫌気がさした先生は、苗字を山野に変え、いろいろあった末に静かの海戦争で傭兵をやっていたわけなんだ。

 甲府のお墓に納めるには少し迷った。先生自身嫌気がさして飛び出した家だからね。

 そして、山本の家は衰退というか、甲府では消滅していた。

 外国の会社と提携したのが20年前で、そのあと、いろいろあって会社は社名だけ残して外国企業になってしまった。

 そして、先生の最後の姿を見て、ダッシュと二人、山本のお墓に納めるべきだと思った。

「いやあ、けっこうあるんですねえ」

「バテましたか?」

「いえ、大丈夫です」

「うちのお墓は寺よりも古いんですよ」

「え、そうなんですか?」

「おそらくは弥生時代からの墓地です」

「や、弥生時代!?」

「ええ、山の斜面に南面して墓を作ったのが最初です。600年前にうちの寺ができた時に引き受けたんです。墓というのは、常日頃から管理が必要ですからねぇ……さ、着きましたよ」

「うわぁ……」

 山の斜面が三段、ところによっては五段になって、ざっと千基ぐらいのお墓が並んでいる。

「ところどころ抜けてますねえ」

「はい、墓じまいをされた家もありますし、月や火星に移住する時に移されたお墓もあります」

 そうか……そう言えば、姉崎すみれさんのお墓も地球からご先祖ともども移してこられたお墓だった。

「山本のお墓はこちらです」

 墓地全体に合掌した後、三段上の区画に上る。

「立派なお墓ぁ」

 上様に招かれてお城の奥に上がった時、チラリと見えた将軍家のお墓を一回り小さくしたような立派なお墓だ。

「いえいえ、なかなか行き届きません……これは、少し掃除してからだなぁ。お手伝い願えますか?」

「はい、喜んで」

 よく見ると、墓石もくすんで、墓域の端っこの方は草が生えたり枯れ葉が溜まったりしている。

「道具がいりますねえ……少々お待ちを」

 和尚さんがハンベをクリックすると、麓の方からガシャガシャと音がして、四足歩行の作業機械が上がってきた。

「檀家さんから農作業用の型落ちを譲ってもらいましてね」

「すごいですねぇ、三世代前のピックアップですよ!」

 ガッシャン プシュー

『ソウジガスンダラ ジブンデ ドウグハモドシテクダサイ』

 すごい、自己収納機能すらも無いんだ(^_^;)

「さ、やりましょうか」

「はい!」

 なんだか、学校時代に奉仕活動をやってるみたいで楽しくなってくる。

「でも、少しは手入れされてるんですねえ、他のお墓はもっと荒れてるのがありますよ。やっぱりお身内の方が?」

「いえ、この十年余りはどなたも……」

「でも……」

「たまに家内と二人で……」

「ああ、そうだったんですか!」

「あ、今のは内緒です。他のお墓は行き届いてませんから」

『シンガタ カエバ ヤッテクレマス カタログダウンロードシマショウカ?』

「今はいいよ。どうもCM機能はしっかりしているようで(^_^;)」

「あはは、あ、ごめんなさい」

「いえいえ、勘十郎は家内の先輩なんです」

「え……」

「わたしは高校の同期で、ま、そんな縁もありましてね……」

 和尚さんの横顔にほんのりと朱がさす。

 ひょっとしたら、なにかドラマめいたことがあったのかもしれない。

 一通り手入れも終わって納骨。

 こんど扶桑に戻ったら、作業機械のいいのを見繕って送ろうと思った。

 だって、わたしとダッシュの出せる供養料ってたかが知れてるしね。


 いい汗をかいて、甲府からリニアに乗って東京を目指す。

 たった一日だけど、9年前の修学旅行を偲んでみようと思う。

 ピーヒョロロ……

 発車までの僅かな時間、お弁当を買って空を見上げると、トンビがきれいに輪を描いた。

 

☆彡この章の主な登場人物

大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎
扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
胡蝶                小姓頭
児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人         
森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
ヨイチ               児玉元帥の副官
マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
アルルカン             太陽系一の賞金首
氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
及川 軍平             西之島市市長
須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女

 ※ 事項

扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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